ジョセフィーヌ、呪われた皇子と対面する
ジョセフィーヌ暗殺未遂から数日が経過していた。
王国から帝都の城へ戻ってきたアースだったが、周囲からある噂が立っていた。
『アース殿下、あれからお姿を見せてくださらないわ』
『あなた、知らないの? 王都で魔王に呪いをかけられて、誰にも見せられないような酷い姿になってしまったそうよ』
『え~、本当~? お母様譲りの綺麗なお顔でステキだったのに。ショック~』
『もう満足に動くことも出来ないらしいし、ドレッド・モーレ様に乗り換えようかしら? 無骨な黒鎧の下は美少年って噂だしね~』
『あはは、見限るの早~い』
そんな下世話な城内井戸端会議が行われているのを聞いたドレッドは、汚物を見るような目をしながら通り過ぎた。
それからしばらくして。
アースがいるらしい知って帝都の城にやってきたジョセフィーヌだったが、何やら複雑そうな表情をしていた。
「うーん、何かわたくしが寝ている間に色々と解決していて意味がわからないのですわ……」
あの日――朝起きたらベルダンディーが泣きながら謝ってきて、王都にいた父親がアースたちに命を救われたと言うのだ。
理解はできなかったが、事実ならアースにお礼を言いたい。
いつものように山小屋にやってくると思っていたが、アースは帝都の城へと直接帰ってしまったらしい。
そこで珍しく、ジョセフィーヌは下山して帝都の城までやってきたのだ。
しかし――
「す、すまないジョセ! アース殿下は今、会いたくないと言っていて……!」
帝国騎士団長のドレッドが自ら城の応接室で応対してくれているのだが、アースが会うことを拒否しているのだ。
いつもは向こうからグイグイ迫ってくるのに、今日のこのタイミングだけなぜ?
――という疑問がジョセフィーヌの中で浮かんだ。
「会いたくない理由は何ですの?」
「そ、それは……その……風邪をひいてしまって、それをうつすわけにもいかず……」
「嘘ですわね」
「う……」
「結構な時間、ドレッドさんと一緒に居たからそれくらいわかりますわ。本当の理由は?」
バツの悪そうなドレッドは暫く黙ったあと、ようやく口を開いた。
「アース殿下は……カロリーヌから呪いを受けて、そのお姿が……うぅ……お
「カロリーヌから……? それって、あのタイミングで……つまり、わたくしのせいじゃない……」
ジョセフィーヌは珍しく、シュンと落ち込んでしまった。
やはり言わなければ良かったかな……とドレッドは励ましの声をかけようとしたのだが、ジョセフィーヌは一瞬で立ち直っていた。
「じゃあ、やっぱりわたくしが会わなければダメですわ!」
「なっ!? いや、だから、アース殿下は姿を見られたくないと……」
「外見なんて知るもんですか!」
「それに立場的にも――」
「
ジョセフィーヌは応接室の椅子からグワッと立ち上がり、城の奥へと進もうとしていた。
ドレッドがそれを必死に止めようとする。
「い、行かせるわけには……!」
「
もののふっぽい言葉と気炎を吐きながら、鎧姿で重いドレッドをモノともしないジョセフィーヌ。
全身全霊を以て止めようとする彼を、ズルズルと引きずるように進んでいく。
「お、おい! 誰か! 止めるのを手伝ってくれ!」
恐竜が
集まってくる騎士、執事、侍女、大臣、コック、道化師。
そのすべてが綱引きのようにジョセフィーヌを止めようとするも、彼女は突き進んでいく。
やがて、その一番奥にあるアースの寝室の前に辿り着いた頃には、城の全員がへばってそこら中に倒れていた。
「アース、入りますわよ」
ジョセフィーヌは扉越しに声をかける。
「ジョセフィーヌか……。来るな……俺のおぞましい呪われた姿を見るな……」
中から聞こえてきたのはアースによる拒絶の声。
それをスルーして、息一つ乱してないジョセフィーヌは、鍵のかかった重厚な扉を強引に開けた。
密かに超一級の魔法障壁がかけられていたのだが、パワーに耐えきれずに霧散する。
オリハルコン製の蝶番がベキベキベキベキと音を立て、重厚な扉が倒れて風を豪快にまき散らす。
それを後ろから見ていた城の者たちは唖然としていて、ドレッドだけは『やっぱり無理だったか……』と心底諦めた表情だった。
「お邪魔しますわ」
少し強い口調で告げながらジョセフィーヌは部屋の中を進み、ベッドにいたアースの前に立つ。
「み、見るな……俺のこんな姿を……。嫌われてしまう……」
震えながら頭を抱えていたアースの姿――それは信じられない程にデップリと太っていた。
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