フォースビット城
知らなかった部屋
味の無い温いスープ一杯。
それだけ、酷い食事だった。
大きな木のボウルにたっぷり注がれたスープは、一見すれば具沢山、大きな牛肉にウマイモ、丸ネギ、その他根菜類がたっぷりだった。だけど一切の味がない。塩味どころか食材の味も香りもなくて、張られてるのはただのお湯、スープに見えて実はスープではなかった。
きっとこれは、ブイヨンを作るために味を煮だされた後の搾りかす、本来スrてるべきもの、料理と呼ぶのも憚られる料理、嫌がらせねとリーアは思う。
ただ栄養があるだけ、お腹が膨れるだけのの何か、いつかの軍隊食に比べてもどちらが酷いか悩むほど、いや本来は捨てる部分を食べてることを考えればこちらの方がもっとみっともなかった。
せめてもの長所は塩味がないから喉も乾かないということだけ、それも使用する食器を最小限とするためのだけ、正に囚人食、字でしかしらない臭い飯、一切の楽しみをそぎ落としたただの栄養補給だった。
この場に相応しいわね、とリーア、それでも空腹には勝てず、一緒についてきていた木のスプーンで具を掬い出し、頬張る。
柔らかくて噛み応えの無い肉を茶ぷちゃぷ噛みながら、もう何度目か閉じ込められてる部屋を見回す。
灰色の石を切り出し重ねた壁に床、ドーム状の天井、高い所に鉄格子のはまった小さな窓があって、灯りはそこから差し込む太陽光だけだった。
唯一の出入り口は鉄格子の扉、外の廊下から丸見えで、下部分には料理などを出し入れできる取り出し口があった。
廊下を挟んだ向こう側にな同じような鉄格子に地下牢、それが見える限りずらりと並んでいるようだった。
中の調度品は最低限、硬いベットに小さな椅子とテーブル、そして悪臭が漏れ出るバケツが端っこに、これがトイレだと受け入れるのに相当の時間が必要だった。
ここはリーアの家、この国の中心、フォースビット城の地下にある、地下牢の一室だった。
入るまで存在も知らなかった地下牢、建築の時には既にあったようだけど、閉じ込められてるのはリーアだけだった。
専用の看守もいないようで、定期的に食事と体を拭くタオルと水桶を持ってくるのもモコとモカの二人、それ以外には見張りの人員もいない様子だった。
そんな地下牢、目いっぱい騒いでも何の反応もなくて、ただ喉が痛いだけ、結局最初の一日目で飽きた。
二日目は脱獄の計画づくり、廊下の向こうを観察したり、高い所の窓に挑戦したり、鉄格子を弄ってみたり、だけど無理っぽいとわかっただけだった。
それで今日で三日目、攫われた日数を数えたらどれほどかしら?
思い立ち、思い出そうとするも、リーアの記憶は断片的だった。
……あの時、近衛騎士が現れて驚いて、何か言おうと思った時には首の後ろに痛み、気を失っていた。
それからしばらくして今度は馬車の中、会話も無しでただ蹄の音だけ聞こえて、そしたらまた首の後ろを殴られた。
それが何度も、目覚める度に首を殴られて、最後に見たのはこの城に運び込まれる時、それで殴られて次に目覚めたらここにいた。
恐いことに、目覚めた時には首も頭も痛くなかった。けど絶対健康には悪いわよね。
そんなことを思い返しながら、それでもスープを食べきり、空になったボールに一緒に着いてた木のスプーンを入れて、鉄格子の取り出し口に戻すと、ベットに座る。
…………これでやること、やれることはもうなかった。
もう少ししたらモカとモコが食器を取りに来て、それでアンチマジックに挑戦して、ダメでも何度も話しかけて、だけども結局行ってしまう。繰り返しになるだろうとリーアは思い、ペンダントを握りしめる。
魔法の触媒、上手く使えばそれなりに悪用できそうなものを残しているのを相手の不手際と考えるほどリーアも幼くはない。
逆らえる手段をあえて残し、朝鮮させ、結果失敗して、挫折させて、リーアの心を折ろうとしている。
そこまでわかってたとしても逃げることはできないリーア、挑戦するつもりではあったけれど、それだけでは掌の上で踊らされてるだけ、もっと違うことを、前向きな、建設的なこと、すべきだとはおもっていた。
そう思い、思い出したのはダンだった。
あの、暇さえあれば見せていた不自然な立ち方、どこでもできる基礎トレーニングとのことで、誰も見てないところでこっそりマネしてみたら存外にきつかった。
……ここにどれだけ入れられるのかはわからないけれど、じっとしてたら鈍ってしまう。だったら少しくらいは体を鍛えても良さそうよね。
何をしないよりはマシかと思って立ち上がり、リーア、四日目はマネをすることにした。
見えない椅子に腰掛けているかのように腰を曲げ落とし、両手は前にまっすぐ伸ばし、人差し指中指立てて体動かさずにいる。
……客観的に見たら、妾、かなり恥ずかしい格好をしてるわね。
「楽しそうですね」
声にびくりと跳ねるリーア、見れば鉄格子の向こうに、姫を名乗る偽物が立っていた。着ているのは相変わらず白いフワフワのドレス、如何にもお姫さまっポイ、けどリーアは実際に着たことの内容な派手でボリュームのある格好だった。
「にゃによ。やっと自分を偽物と認める気になったわけ」
ひっくり返った声、赤くなる顔を押さえ、恥ずかしさを隠しながらも威厳を保とうと取り繕い、立ち上がるリーアの姿を、偽姫は愉快そうに笑った。
「いえいえ、ただどうしてるか様子を見に来たのです。お一人ではお寂しいでしょ? それに、そうですね、その偽物と認める、というのをやってみても面白そうです。チャレンジしても良いですね」
そう話している横、鉄格子の死角から現れるモカ、音もたてずに椅子を偽姫野後ろに置くと引っ込んでいく。
その上に、偽姫はごく自然と、優雅に腰を下ろした。
「さて、どこからお話ししましょうか。実は私、自分の過去を人に話すのって初めての経験なんです。ですから、わかりにくい所があっても許してくださいね」
そう言って偽姫、笑顔を浮かべる。
「とはいっても、期待させて申し訳ありませんが、実はそんな話せることは無いんですよ。あなたになった後にしたことでしたら事細かにご説明できるのですが」
「なら、先ずは自己紹介から始めたら?」
リーアの精いっぱいの言い返しに、偽姫の笑顔が一瞬曇ったのが見えた。
「……ありませんよ」
偽姫、笑顔のまま、だけどその声は笑っているものではなかった。
「私がこの国の姫、あなたになる前から、私はあなたでした。正確にはあなたのそっくりさんですね。それ以外の名前は、後は値段ぐらいでしょうか?」
「何よ、それ」
「わかりませんか? 私は名前もない奴隷だったんですよ」
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