Princess Or Not

プロローグ 私の国

　大陸北部に、ハードエッジ王国はある。

　狭い国土の多くは深い森と高い山がほとんどで、人が暮らせる土地は更に狭く、それもあって総人口は全てを合わせても隣国の首都ほどの規模しかない。

　軍事力も近衛に国境警備だけと最低限度、しかもその半分が予備兵役という、有事の際に駆り出される半軍人で占められていた。

　食料に至っては主食のウマイモと牛製品を除けば後は森から野生動物やキノコが採れるぐらいで、安定には程遠かった。

　総じて、小国でしかないこの王国が、にもかかわらず、この三百年もの間も独立を維持し続け、あらゆる戦争に参加せず、永久中立のまま平和を保ってこれたのには三つの秘訣があった。

　一つが宗教、世界三大宗教の一つ、ジーン教会の聖地があるからだった。

　これはただ信仰心によるものだけではなく、教会が広げている回復魔法、即ち医術の中心を掌握しているに等しく、迂闊に手を出せばその国は怪我や病気の治療に大いに困ることになる。

　次が鉱山、特に宝石類の産地だったからだ。

　その絶対量こそ多くはないけれど、地脈の力をたっぷりと蓄えた宝石類、特にトパーズはその美しさだけでなく、情報伝達系の魔法触媒として重宝されており、その加工技術の高さもあって大半の国とは貿易を行っていた。

　この他にも産業としてオーダーメイドの武器防具や、強いお酒、観光業もあるけれどそれらは三つの秘訣に入らない。

　最も重要な最後の秘訣、それはすなわちこの国を治める王族だった。

　ファーストフォリオ王族家、この国を開拓した最初の冒険者の家系であり、以後三百年、七世代にわたり女系王族として平和と安寧を保ち続けてきた。

　その中でも当代七代目女王、レイア女王とその婿王ブラッドの統治は素晴らしく、国内繁栄に留まらず先の魔王との戦争に対してさえその永久中立を維持し続け、平和を貫き通した。

　そんな素晴らしい王族に統治された国、つるはしと紫水晶を持ったグリフォンを国旗に持つ王国がハードエッジ王国だった。

　ここが、私が生まれ育った国、そしていずれ私のものになる国だった。