器の差
試し行動というのは、子供がわざと親や大人を困らせたり挑発するような行動をとることで、親や大人達が自分のことをどう見ているのか、受け入れる気があるのかというのを試そうとする行為のことである。特に、親や大人から自分が受け入れてもらえていない、認められていないと感じている子供に多く見られる傾向があるという。
璃音の振る舞いは、まさにそれだと麗亜には思えた。自分を試そうとしているのだと感じられたのだった。
だから麗亜は、敢えて過剰に反応することを抑えようと思った。試し行動に振り回されているようでは舐められてしまうと、父親の功臣も言っていた。そんな挑発には動じない、圧倒的な器の差を思い知れば試し行動は自然と収まっていくらしい。そんなことをしなくても受け入れてもらえてるという実感さえ得られれば落ち着くものだと、実際に麗亜を育てた経験からの言葉だった。
麗亜は試し行動が酷かった子ではなかったけれど、それでも一時期、父親にとにかくまとわりついて甘えようとしていたことがあった。明らかに父親が困っているにも拘わらずやめようとしなかった。
すると功臣は、彼女を膝に抱いてずっと一緒にいるようにした。麗亜が満足するまで。決して怒鳴ったり邪険にはしなかった。そうしているうちにまとわりつくのはやめて、真っ先に膝に座るようになったのだった。それと共に彼女の様子も落ち着いて、穏やかな表情を見せるようになっていた。
麗亜自身、そのことはうっすらと覚えている。まだ五歳かそこらのことだった筈だけれども、彼女にとっても印象的な出来事だったから。
父親の膝に座りながら、麗亜は『おとうさん、だいすき』と何度も口にしたというのもおぼろげながら覚えている。
それと同じことを、父親にしてもらったことを、麗亜は璃音にしようとしていたのだった。自分がそうしてもらえて、いまだに覚えているほど嬉しかったから。
「璃音、パソコン買ってきたよ」
そう言ってバッテリーなどを装着しながら璃音の前に置いたのは、彼女のリクエスト通りの十インチサイズのノートPCだった。デザインこそはあまりおしゃれなタイプではなかったけれども、まだ二年落ちで性能そのものは十分なものだった。
「ふん、ダッサいパソコンだけど我慢してあげる」
礼すら言わない璃音に対して、麗亜はやはりただ穏やかに微笑んでるだけなのだった。
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