愛して、私の生き人形(マイドール)
せんのあすむ
璃音が来た
普通の造形で、地味なほんの申し訳程度のメイクをして、スーパーのセール品で全身をコーディネートして、真面目だが覇気もなくて、積極性もなくて、人付き合いが苦手で、絵に描いたような凡人だった。
酒も飲めないので毎日毎日会社と自宅の往復だけで過ごし、無味乾燥な毎日を機械のように繰り返す自分自身に疑問も持たない、過度な願望も持たない代わりに夢もない、ロボットもかくやという人生を送っていた。
彼女自身、それでいいと思っていた。泣き言を並べるでもなく他人に愚痴をこぼして絡むでもなく、誰からも必要とされず、しかし誰にも迷惑はかけない。そうしてひっそりと人生を終えるのが彼女の望みだった。
だからまだ30にもなってないのに老後の計画はばっちりで、その為の貯金も行っていた。給料は決して良いとは言えなくても無駄遣いをしないから、毎月それなりの額を残せていた。
携帯は持っているものの、着信履歴も仕事関係を除けば一ヶ月に十件にも満たず、発信履歴に至っては数ヶ月で数件と、殆ど基本料金だけを払い続けているような状態だったから。
なのにある日、麗亜にとって数少ない友人の一人、
「ごめん麗亜、あんたしか頼めないんだ」
奢りだというから何となく出向いたファミレス内で手を合わせて頭を下げられた。押しに弱い麗亜は、そんな風に言われると断れなかった。
仕方なくその人形が入っているというバッグを持って部屋に帰る。
結構な大きさのバッグだった。
人形だと言うから精々市松人形的な、もしくはフランス人形的なものだと思っていたのに、バッグの大きさからするとかなりのサイズだと思われた。押し切られて引き受けてはしまったものの、そのあまりの存在感に「どうしよう…」と思わず声が漏れてしまう。
すると、途方に暮れていた麗亜の耳に、思いがけないものが聞こえてきた。
「ちょっと! 家に着いたんならさっさと出してよ! ここ窮屈なんだから!!」
女の子の声だった。しかもバッグの中からだ。
「な! なに!? え? 人間が入ってる…!?」
思わず声を上げて、麗亜は後退った。バッグの中に入ってるのが人形じゃなくて人間だとしたら、これはもう立派な<事件>だ。頭によぎる今後の展開に、彼女の顔はみるみる青褪めた。
どうしていいか分からずに呆然とする麗亜の前で、しびれを切らしたのかバッグの中にいた<それ>が内側から自力でファスナーを開けて顔を覗かせる。
「私は
璃音と名乗った<それ>は、透き通った青いガラスの瞳を持ち、美しいプラチナブロンドの髪と白いドレスを纏い、一見しただけなら儚げな美少女にも見えるのにやけに態度が悪かった。睨み付けるようにして麗亜を見詰め、バッグから這い出てくる。
人間ではなかった。人間のようにしゃべり動くのに、その体は確かに人形だった。十代前半くらいの女の子っぽい造形で、五十センチくらいの、人間の三分の一くらいの大きさの。
そしてテーブルの上に仁王立ちになり、指を差して言ったのだった。
「今日からあんたは私の面倒を見るの。それがあんたの役目よ!」
「え、えぇ~…!?」
こうして麗亜と璃音の奇妙な生活が始まったのだった。
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