第34話
「どこ行きましょうか、センパイ」
嬉しそうな笑顔とともに俺の手を握ってくる美月をちらと見る。
「なんでも奢ってくれるんだな?」
「はい」
「ラーメン食いたい」
「……嫌です。ニンニク臭くなったら、き、キスできないじゃないですか」
「このあと誰かに会う予定があるのか? それなら、行ったほうがいいんじゃないか?」
「キスの予定は……センパイとです。……今の時間からですと、ファミレスとかでいいんじゃないですか?」
「ちっ、しゃーねぇ。ペペロンチーノでも食って満足するか」
「ニンニク、そんなに食べたいんですか?」
「たまにはな」
美月とともに近くのファミレスへと入る。
俺が店員とやり取りをして、そのまま店内へと入る。
店に入ってから、美月はわりと静かになった。まあ、声優だからな。声で気づくようなオタクもいるかもしれない。
席まで案内してもらったところで、美月がこちらを見てきた。
「センパイ、高校はどうなんですか? 楽しいですか?」
「どうだろうな。まあ、無難に過ごしている……って感じだな」
「そうなんですね。私も……あまり、高校には行けていないんですよね。大学とかのことを考えると少し不安なんですよね」
「大学まで行くのか? 声優の仕事していくんじゃないのか?」
「……もちろん、したいですけど。ずっと食べていけるかどうかは分かりませんからね」
確かに……ここ最近の声優は入れ替わりが激しい気がする。
俺もそこまで熱心にアニメを見ているわけではないので、断言まではできないが。
「生き残れないのか?」
「努力はしていますけど、生き残るためには……なんというか、一段上のレベルに上がる必要があるんです」
……美月のレベルでもまだまだ上を目指さないといけないのか。
競争がある世界というのはやはり大変なんだな。少しでも気を抜けばすぐに追い抜かれてしまうだろう。
だから、日々みんな努力しているんだな。友梨佳も美月も、すげぇな、と思う。
俺と同年代とは思えないくらいだ。
「ま、おまえなら大丈夫じゃないのか? 素人目ではあるが、才能あると感じたしな」
「……でも、まだまだです。私の声でセンパイを虜にできていませんし。センパイが私の声にメロメロになってくれたら、その言葉も信じられますね」
「それは俺との相性が悪いってわけだな。諦めな」
俺が言うと、むーっと美月は頬を膨らませた。
「まあ、まだ一年なんだしゆっくり考えればいいだろ? やりたいことがあるのなら進学すればいいんじゃないか?」
「……そうですか。でも、せっかくですし、センパイと一緒の学び舎に通いたい気持ちはあるんですよね」
「……大学、一緒の場所に入るつもりなのか?」
「本当は、高校だって一緒が良かったんです……でも、やっぱり活動に理解のある学校のほうがいいと両親に言われましたので」
「俺もそのほうがいいと思うがな。……別にこうして一緒に会おうとおもえば会えるんだしな」
「い、いつでも……会ってくれるんですか?」
「……ま、可能なかぎりはな」
俺が言うと、美月は嬉しそうに微笑んでくれた。
「それでは、い、一緒に暮らしませんか?」
「……おまえと友梨佳って実は双子じゃないよな?」
「ど、どういうことでしょうか?」
「あいつも、似たようなことを言っていたからな。もちろん、答えはノーだ。俺は地味に平和に生きたいんでな」
ひらひらと手を振ると、彼女は再び頬を膨らました。
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