学校では地味な陰キャとバカにされている俺は実はボディーガード 〜地味に生きたいのに、以前助けた有名人の幼馴染が離してくれない〜

木嶋隆太

第1話



『雄一(ゆういち)、おまえは将来、有名人の専属ボディーガードになるんだ!』

『うん!』

『ほら、早速修行するぞ!』


 昔は、ボディーガードに憧れた。親父や祖父がそんな仕事をしていてかっこいいと思っていたからだ。

 小さい頃から元警察官の親父と元自衛官の祖父に鍛えられた俺は、順調に力をつけていった。


 そして……中学の頃から、探偵である親父の仕事を手伝わされはじめた。


 親父の仕事は浮気調査などの一般的なものから、ボディーガードに近い仕事まで様々だった。


 親父のもとに届く依頼は、親父の交友関係の広さもあってか有名人を相手することが多かった。


 芸能人ともたくさん関わってきて、クラスで話題にあがるような人の連絡先なども知っているくらいだ。


 基本的には親父がボディーガードとして雇われ、俺はあくまでその付き人として手伝っていた。

 だが、実際何か問題が発生したら、俺も普通に動くんだけどな……。


 中学の時は、そんな俺の休日を聞いたクラスメートたちは「羨ましい」と言ってきた。

 有名人の〇〇さん紹介してよ! とか、みんなのんきなことを言ってきたものだ。


 有名人と関われて羨ましい? 馬鹿いえ、命のほうが大事だ。

 誰のことも紹介してくれない俺を、クラスメートはだんだんといじめるようになってきた。

 

 あいつだけ一人占めしてずるい、とか。

 あいつばっかりいい思いしている、とか。


 いやいや、そもそも守秘義務というのがある。

 連絡先とか教えられるわけがないだろう、と。


 ……とにかく、中学生にして色々なことを学んだ俺は、高校進学に向けて親父に伝えた。


 俺はボディーガードにはならない、と。

 親父は滅茶苦茶寂しそうな顔をしていたものだが、俺は自分のことを知らない高校へと進学を果たし、無事平和で地味な生活を送っていた。


 ……平和で地味。これは俺が望んで得たものだ。


 平和……あれから俺は一度も親父から無茶な仕事の依頼はされていない。まあ、たまに命の危険がない程度の仕事は手伝っていることもあるが。


 地味……中学の時に、散々有名人を紹介してほしいと言われたのは嫌だった。だから、クラスでは誰にも声をかけらないようぼっちを貫いている。

 

 そう俺は今、世界で一番地味で目立たない高校二年生として、生活していたのだ!

 


 8時10分。もうすぐ朝のホームルームが始まるということもあり、クラスに人は入り始めていた。

 俺はスマホでネットサーフィンしながら何気なくクラスメートを見たとき、たまたま目があった陽キャグループの二人に顔をしかめられた。


「……うわ、陰キャと目があったよ」

「……本当だな、今日も相変わらず気持ち悪いな」


 これが今の俺の教室での評価だった。

 ……さすがに、地味に生きすぎたせいか……俺のことを周りは陰キャ、オタクと馬鹿にしてくる。

 

 ……何が失敗だったのだろうか? 確かにアニメとかは好きなので、オタクと言われることは仕方ないと思っている。


 まあ、いいか。クラスメートからの評判は決して良くはなかったが、中学の時のような目立ち方をするよりはよっぽどマシだ。


 とはいえ、俺は気を抜かない。今だって、俺がスマホを握りしめ、ネットを見ているのは地味になるためだ。

 ネットでは地味な人間の特徴を調べてみていた。


 まず、地味な高校生は彼女は作らない。

 次に、地味な高校生は友達はいない、


 そして、地味な高校生は教室で机に顔を突っ伏して寝たふりをする、か。


 なるほど……早速実践してみよう。

 俺は机に顔を伏せ、それから目を閉じると、耳にすべての神経が集まったからか、より周囲の声が拾いやすくなる。


「そういえば、歌姫の新曲聞いたか!?」

「赤式(あかしき)友梨佳(ゆりか)ちゃんの歌か? オリコン連続一位になった曲だよな! あのラブソング、めっちゃ良かったよな! もう、最高だったぜ!」


 ……俺はそれを聞こえなかったことにした。

 その歌姫と俺は無関係、無関係とぶつぶつ心中で呟きつづけた。


 ブブ、とポケットに入れていたスマホが震える。ラインが届いていた。

 そこに表示された、赤式友梨佳、という名前を見て……見なかったことにした。


 俺は平和で地味な生活を送っているんだ。

 ただの、普通の高校二年生なんだ……。


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