第19話

 バルーズ様が倒れたときき、気になった私はすぐにバルーズ様の元へと向かった。

 面会のお願いはすんなりと通った。


 部屋に入ると、騎士と執事長がいた。

 ベッドの方を見ると、ベッドの上で作業ができるようにという形で、簡易的な机が出来上がっていた。

 

 とりあえず、バルーズ様は元気なようでほっと胸をなでおろした。


「大丈夫ですか、バルーズ様?」


 私が声をかけると、バルーズ様は苦笑を漏らす。見たところ、特に問題はなさそう。

 ……でも、目の下の隈は少し濃いかも?


 私の問いかけに、バルーズ様はひらひらと手を振るように、腕を動かした。


「ああ、この通りな。倒れた、と誰が大げさに言ったのかは分からないが、少し眩暈がしてふらついただけだ」

「そうなんですか?」

「膝をついて、少し休んでいたら、心配した騎士に声をかけられてしまってな。肩を貸してもらい部屋まで運んでもらった、それだけだ」

「……倒れる寸前ではないのですか?」

「何を言う。元気だ、ぴんぴんさ」


 バルーズ様はむっと頬を膨らませる。怒らせてしまったのかもしれないけど、なんだろうか。

 子どもが意地を張るときのように少し似ていた。……それを口に出すのはさすがに失礼がすぎるだろうと思って、私はだまったけど。


「とにかくだ。俺は大丈夫だ。二人とも、使用人や騎士に聞かれたときは元気にしていたと答えてほしい」

「分かりました」

「ああ、それと、ニュナからスケジュールに関しては聞いたか?」

「はい! お聞きしました」

「あの日程で無理はないか? 一応色々な人に相談をしながら決めてはみたんだが」


 あっ、ちょうど良いし訊ねてみよう。


「大丈夫です。少し気になったのですが、もしも予定の納品数を例えば週の半ばとかで終わらせた場合はどうなりますか?」

「ああ、その場合は残りはすべて休みで構わない。もちろん、緊急対応をしてもらうことはあるから、別の街に遊びに行くとかはすまないがやめてほしい」

「大丈夫です。特に街の外に用事はありませんから!」

「そうか。まあ、いずれ頃合いを見て長期の休みも出すつもりだ。その時までは我慢してくれ」


 長期の休み……。そんなもの与えられても私やることないんだよね。

 特に旅をするのが趣味とかはないからね。

 とはいえ、バルーズ様の厚意なんだし、素直に受け取らないと。


「分かりました、ありがとうございます」

「他に気になることはあるか? アトリエに不満があれば教えてほしい」

「いえ、そんなことはありませんよ! 大丈夫です!」


 私がぶんぶんと首を横に振ると、バルーズ様は柔らかく微笑んだ。


「そうか。それでは来週から、本格的に仕事をお願いする。薬師ルーネ」

「……はい。承知しました、バルーズ様」


 私は頭を下げてから、すっとバルーズ様の前を立ち去った。

 ニュナもまた礼のあとに私の後ろについた。


 

 アトリエへと戻ってきた私は、とりあえずホッとした。

 でも、まだまだ心配はある


「バルーズ様、ずっと働いているんですね。……大丈夫なんですか?」

「バルーズ様も無茶しますからね」

「他にも無茶する人いるんですか? 屋敷の方々はみんな働くのが好きなんですね……」

「はい、私の目の前、ですね」

「え?」


 きょとんと眼を丸くして、私は自分の顔を指さした。

 どうして私なんだろうか? 私はまだまったくといっていいほど仕事はしていないんだけど。

 私のそんな反応にニュナがジト―っとした目を向けてきた。


「この屋敷に来てから、ルーネ様も毎日活動をしていますよね」

「でも、趣味みたいなものですから……」

「ですが、私からするとやはり心配はしてしまうものなんですよ。ポーション製作、畑弄り、どちらも一応は体や脳を使う作業なんです。疲労は少しずつ溜まっていると思いますから、バルーズ様のように倒れないよう気をつけてくださいね?」

「はい……そうですね」


 ……そっか。バルーズ様を滅茶苦茶心配していたけど、私も他の人から見たらそんな感じだったんだ。

 薬屋にいたときはむしろ、どんどん仕事を押し付けられていたけど……今はこうして心配してくれる人がいる。


 そんな人たちを不安に、そして悲しませないためにもある程度考えて働かないとね。

 とはいえ……少しやりたいこともあった。


 私は両手を合わせてからニュナの方を見た。


「すみません、ちょっとだけポーションを作りたいんです」

「どうしてでしょうか?」

「バルーズ様に向けてのものです。疲労回復力を高めるポーションというのがあるんです。それを、バルーズ様に届けようと思いまして」


 私の言葉に、ニュナは考えるように顎に手をやり、それからにこりと微笑んだ。


「わかりました。では、今日の作業はそれで最後にしてくださいね?」

「はい! もちろんです! それで、少し相談なのですが……」

「なんでしょうか?」


 私はニュナにとある相談をすると、彼女はにこりと微笑んで頷いた。


「その味(・)のポーションを作ってください。何か言われましたら私が責任を取りますから」

「べ、別にそれは私が勝手にしたことですからそこまでしなくてもいいですよ!」


 ……ニュナの許可も下りたので、私はほっと胸をなでおろした。

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