第18話


 アトリエ裏手にある畑では、薬草たちがすでに出来上がっていた。


「回収していきましょうか!」


 こんなにたくさんの薬草畑に私はもうテンションが上がりっぱなしだった。

 この薬草畑に思いっきりダイブして横になりたいくらいだったけど、せっかくの服がそれこそ泥だらけになってしまうのでグッとこらえた。


 ……あと、一応もう私は貴族専属の薬師だしね。ここが誰もいない場所で、私に特別な立場がなければ確実にダイブしていたけど。


「ちなみにですが、こちらの薬草はすべてルーネ様の自由に使って頂いて構いませんからね。週に納品する予定のポーションに必要な素材はすべてこちらで用意しますから」

「……そういえば、そうだったね」

「こちらの回収は私もお手伝いしますね」

「あっ、お願いします。根っこはそのまま残しておくようにお願いします」

「分かりました。それでは鎌とカゴを庭師から借りてきましょう」


 ニュナがそういって一度私から離れた。

 すぐに戻ってきて、先ほど言っていた道具を用意してくれた。

 私はニュナとともに庭の薬草をとっていく。

 

 ひとまず、すべて取り終えた後で、私は土を鑑定魔法で確認していく。


 魔力土 質 Cランク


「……なるほど」


 ……やっぱり、土の質が落ちてしまっている。

 これは、一度薬草に栄養をとられてしまったためだ。


「すみません、土の肥料ってありますか?」

「確か、庭師の部屋に用意があったはずです。これから運んできましょう」

「あっ、お願いします!」


 先ほど同様、ニュナは全力疾走で消え、そして全力疾走で台車とともに戻ってきた。


「そ、そんなに急がなくても」

「安心してください、走るのが好きなので」

「……ニュナって結構運動得意なんですか?」


 足とか腕とか、程よく筋肉がついていた。


「そうですね。一応私は護衛術も学んでいます」

「ご、護衛術!? 凄いですね……。私、運動とかはあんまり得意じゃなくて」


 運動の才能は姉たちにすべて取られてしまったと考えても間違いないくらい私は運動が苦手だった。


「安心してください。その分は私が補助しますから」


 ニュナがぐっと親指を立てる。


「……ありがとうございます」

「肥料は三袋持っていましたので、とりあえず全部運んできました」

「そうなんですね」


 私は運び込まれた肥料を眺めていく。

 ……いまいち、土については詳しくないんだよね。


 とりあえず、色々と試していってみないとね。

 私は弱ってしまった部分の土を入れ替えていく。

 根っこを傷つけないようにスコップで土ごと取り出し、それから魔力土を加えていく。


 見ると、魔力土の質がCからBランクに上がっていた。

 ……Aランクまでは戻らないかぁ。

 色々と調整していったけど、中々難しい。


「これはまたあとで勉強しないとですね」


 私がそういうと、ニュナが微笑んだ。


「そうですか、頑張っていきましょうね」


 私は最後に水やりとして、魔力水を畑にまいていった。

 それを見ていたニュナがぽつりと呟く。


「この薬草たちもまた明日には成長しているんですかね?」

「どうですかね? 確かに私の魔力水は薬草を育てるのに相性が良いと母さんが教えてくれましたから」

「なるほど……。お母様が。そういえば、お母様は薬屋にいませんでしたが、席を外していたのでしょうか?」


 ……あー、そっか。知らないか。

 正直に伝えるかどうか少し迷う。あんまり重苦しい空気にならないように私は笑みとともに頬をかいた。


「病気でなくなってもういないんですよ」

「……そ、そうだったの、ですか……も、申し訳ございません! 何も知らずに失礼なことを――!」

「気にしないでください! 母さんも、別れよりも出会いを大切にしなさい、とよく言ってくれていましたから! 私母さんの病気を治すために必死にポーションの勉強をしていたんです! そのおかげで、今はこうして公爵様の薬師にもなれたので、結果的にはオッケーなんです!」


 私がそういうと、ニュナは唇をぎゅっと噛んでから、笑った。

 私の伝えたい気持ちを察してくれたんだろう。


「今もそのためにポーション作りを?」

「はい。病気で困っている人を助けたいです。だから、今も色々と勉強中ですね」

「……頑張ってください。ポーション作り以外であれば私もサポートします。必要なことがあれば何でもおっしゃってください」

「ありがとうございます」


 ニュナは優しいなぁ。

 彼女が専属メイドになってくれたことを改めて喜んでいると、屋敷のほうが騒がしくなった。


「どうしたんですかね?」

「分かりません、確認してみます」


 ニュナとともに歩き、屋敷へと近づきメイドに訊ねる。

 すると彼女は青白い顔で叫んだ。


「ば、バルーズ様が、倒れてしまったんです!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る