第306話 説得

 俺の要求は、この国にとって受け入れがたいことだったのだろう。

転移門ゲートは前弩級戦艦を手に入れるためだけのものではない。

そのアドレスを書き留めてあれば、いつでも再接続できるため、他の有益なアドレスに接続することで、そこからの恩恵も受けているのだ。

その最たるものが、食料供給だろうか。

俺が発見した、他次元農場や牧場のような場所にアクセス出来れば、食料に困らない。

その恩恵を手放せと言っても、おいそれと飲むわけにはいかないだろう。


「世界の安全のためとは?」


 それでも皇帝はこちらの話を聞いてくれるようだ。

恩恵を手放すに足る理由があるならば、検討する気はあるという感じだろうか。


「バイゼン共和国の転移門ゲートが魔物に乗っ取られた話はご存知か?」


「報告は受けている」


「それがこの帝国でも起こる可能性が高い」


「!」


「あれがこの世界に本格侵攻して来る可能性が高い。

そこにいるタカトウは、そうやって侵攻された世界の者だ」


 俺がそうタカトウを紹介すると、タカトウは俺の言葉を追認するとばかりに頷いた。


「ゲートが無ければ侵攻できないということか」


 さすがの皇帝もその危険性は理解出来たようだ。


「この世界への入口である転移門ゲートさえなければ、この世界だけ・・は守れるのです」


「だが、その第2ゲートを利用し占有しているのが、タカトウの国ジャパーネだと聞いている。

それはどうなのだ?」


「あれは、MAOシステム――魔物を擁する敵の事だが――がこちらに来れないように制御を奪ったのだ。

だが、それも一時的なこと。

MAOシステムに奪われてしまえば侵攻を阻止することは出来ない」


「だが第2ゲートは停止したと聞いている」


「我らの利用ではエネルギーの負担は不可能だからだ。

MAOシステムならば、バイゼン共和国で起きたという魔物暴走と同じように、向こうからエネルギーを供給されて止められなくなる」


「MAOシステムの脅威から逃れるには、転移門ゲートを破壊するしかない」


 俺とタカトウからそう言われ、皇帝も考え込んでしまった。

そしてある一点をもって楽観論に行きつく。


「この大陸には魔素が無い。

バイゼン共和国と同じように侵攻を自然と阻止できるのでは?」


「バイゼン共和国の転移門ゲートはその危険性から俺が破壊した。

調査の結果、その時点で既に魔物の侵攻エリアは当初よりも拡大していた。

魔物の死体が魔素を産み、行動エリアが拡大していたのだ」


 それがトラファルガー帝国でも起こり得る。

転移門ゲートが2つあるから危険度は倍だ。


ウーウーウーウー


 その時急に警報のサイレンが鳴った。

これはトラファルガー帝国によるものだ。


「大変です! ゲートが乗っ取られて勝手に動き出しました!」


「皇帝陛下!」


 それこそMAOシステムの侵攻だろう。

第1転移門ゲートは帝都に近い。


「このままでは帝都が魔物に襲われるぞ!」


「いや、まだ魔物だとは限らない……。

タカトウの国の陸上戦艦かもしれないではないか!」


 往生際が悪いのか、諦めがつかないのか、出て来るものを見てから決めるという。


「魔物なら転移門ゲートを破壊する。

よろしいか?」


「頼む。我らには対処不能だからな」


 やっと転移門ゲート破壊の言質が取れた。


「タカトウ、艦まで送ろう。魔物への対処の協力を頼む」


「任せろ」


 俺はタカトウたちをタカトウ艦まで【転移】で送り、直ぐにエリュシオンの艦橋に戻った。

その間に第1転移門ゲートは境界面の光を増し、直ぐにでも何かが出てきそうだった。


「目標転移門ゲートならびに転移門ゲートから出現する何か」


 俺が艦の電脳に命じると、エリュシオン前甲板の2基の魔導砲が自動で照準を付ける。

あとは魔物が出て来るだけで、発射の準備は完了というところだ。

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