第307話 ゲートから出て来たもの

 タカトウ艦も右斜め方向から魔導砲を転移門ゲートの中心に向けている。

いつでも発射出来る体制だ。

転移門ゲートは外部から操作されていて、何処かの空間と繋がっているようだ。


『来るぞ!』


 タカトウ艦から魔導通信が入る。

転移門ゲートの使用に関してはタカトウの方が一日の長がある。

その経験により、転移門ゲート使用者の出現タイミングを正確に把握出来たのだ。


 転移門ゲートが波打ち、その中心から出て来たのは……陸上艦の艦首だった。


『なんだ、タカトウのお仲間か?』


 そう思ったのは一瞬だった。

いや、待て。タカトウの仲間ならば第2転移門ゲートを使えば良い。

なぜ第1転移門ゲートから出て来るのだ?

それは別ルートからの介入を想像させた。


『たしかに、ジャパーネの艦だ』


 やっぱり、タカトウの国の艦なのかよ。

どうしてこっちに?


 そうこうするうちに陸上艦は艦橋部分が出現……しなかった。


「なんだこれは!」


 それは陸上艦に覆いかぶさるように融合した地竜の顔だった。

陸上艦の艦橋部分が完全に地竜の顔になっているのだ。

MAOシステムは魔物と兵器を融合させ、陸上艦に対抗していた。

その融合する兵器に、ついに陸上艦を使い始めたのだ。


『こんなやつ知らんぞ! MAOシステムの新兵器だ!』


 どうやらタカトウの国の陸上艦が取り込まれたかたちのようだ。

その地竜と目が合う。


『まずい、タカトウ、魔導砲発射だ!』


 エリュシオンから発射された2つの光条が転移門ゲートへと伸びる。

しかし、それは敵の直前で魔導障壁に遮られてしまった。


「こいつ、陸上艦の兵装を使えるのか!」


 タカトウ艦からも魔導砲が撃ち込まれるが、それも魔導障壁により防がれてしまった。


『どうすれば良いんだ!』


 タカトウの叫びが魔導通信で伝わってくる。


『タカトウ、転移門ゲートを壊せ!

こちらの正面からの攻撃は魔導障壁に防がれてしまう!』


 タカトウ艦ならば、側面から転移門ゲートを破壊出来る位置だ。

それにかけるしかない。


 その時、嫌な予感が背筋を走った。


『回避!』


 俺の詩人電脳が従い、エリュシオンが左横に飛びのく。

重力傾斜を左舷側に形成した緊急離脱だった。


 その右舷を地竜のブレスが通り過ぎた。

危ない所だった。敵の前甲板に配置された魔導砲に気を取られていた。

その発射傾向ばかり見ていて、もう一つの武器を忘れていた。


 光魔法に対抗するために準備していた魔導障壁を火炎の熱が貫通する。

魔導防壁にただの熱は想定されていなかった。

その熱だけが伝わって来て右舷の舷側を舐めて行った。


「魔導砲、重力加速砲、連射だ!

敵の魔導障壁に穴をあけろ」


 こうなったら魔導障壁の耐久力を削るしかない。

俺はエリュシオンを回避させつつ攻撃を続けた。


『だめだ! 転移門ゲートにも魔導防壁が展開している!』


 タカトウから絶望的な声が上がる。

転移門ゲートを止められないならば、MAOシステムの侵攻が始まってしまうことになるのだ。


 どうする?

この魔物を倒しても、転移門ゲートを壊せなければ次が来るぞ。

魔物は転移門ゲートから半身を出して止まった。

俺たちを始末してから悠々と出て来るつもりだろう。


 いや、何かを守るために留まった?

だとしたら……。


「ミサイル全弾発射! 転移門ゲートを通って向こう側に攻撃だ!」


 エリュシオンに艦載されていた各種ミサイルを転移門ゲートの境界面に向けて撃ち込む。

対艦対地対空の区別なく全てを撃ち込んだ。


 後部甲板の発射セルからミサイルが煙の尾を引き転移門ゲートに向かう。

いくつかが魔導障壁に遮られるが、重力加速砲に耐えられずに限界に達した魔導障壁が破られる。

そこにミサイルが集中し、転移門ゲートの境界面を越えた。


 すると転移門ゲートは光が明滅し、突然光を失った。

その瞬間、転移門ゲートは閉じられ、半分出て来ていた魔物艦はそこで両断されてしまい息絶えた。


『タカトウ、危なかったな』


『ああ、こんなものを用意していたとはな』


『これは直ぐにでも転移門ゲートを破壊しないと駄目だな』


『ああ、緊急案件だろう』


『ならば、収納!』


 俺はインベントリに転移門ゲートそのものと魔物艦を収納した。

これにより、この第1転移門ゲートは使用不能となった。

もし、MAOシステムを殲滅出来たならば、また設置しても良いだろう。


『よし。これで良い』


『相変わらず、魔法は何でもできるな』


『まあな。次は第2転移門ゲートだな。

タカトウ、あちらはお仲間が確保出来ているんだよな?』


『そのはずだ』


『今の魔物艦には対抗できるのか?』


『いや……。あのようなミサイルは既に失伝している。

対抗出来ないかもしれない……』


 おいおい、まずいぞ。

もし、第2ゲート向こうからも侵入されていたら、今頃転移門ゲートを占拠されていてもおかしくはない。

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