第302話 ゾンビ退治
「マジか! 直ぐに倒さなければ!」
「待て、倒したら遺体が回収できないぞ!」
身を震わせながらそう焦るタカトウに俺は待ったをかけた。
タカトウの様子がちょっとおかしい。
タカトウの世界ではどうなのかは知らないが、この魔法世界では、ゾンビは倒すと土に還ってしまう。
するとフリードリヒの遺体が回収できず、亡くなったということを帝国に証明出来なくなる。
俺たちが口裏合わせをして誘拐したと思われても困る。
それとトラファルガー帝国の弔いの機会を奪ってしまう。
なので、倒さずに捕まえるのがベストなのだ。
「こいつら、噛んだり引っ搔いたり傷を負わされたら、皆ゾンビに感染してしまうんだろ?
殺すしかないじゃないか!」
タカトウはパニックになっていた。
それはタカトウの世界のドラマや映画のゾンビだろう。
タカトウの知識は、そんなフィクションの中のもののようだ。
だが、この世界の魔物として存在するゾンビは、不死でめんどくさくて臭いだけだ。
それと、死んでるからゾンビなので、死んでるやつは殺せないぞ?
「安心しろ。感染しないし、力も弱い。
ただ動く死体なだけだ」
「本当か?」
タカトウは副官の女性の後ろで震えていた。
「タカトウはお化けや幽霊が苦手なのです」
キサラギという名だったか、タカトウの副官がタカトウを庇いながらそう言う。
「ゾンビは囲んで拘束すればそれで終わりだ。
まだ新しいから腐ってないし臭いも大丈夫だろう」
服も綺麗だったし、お腹の中のものも出ていないだろう。
死んで垂れ流しというのも良くあるらしいからな。
そうなると違う意味で臭いのだ。
「ならば、こちらの兵で囲みましょう」
「頼む」
急にタカトウが役に立たなくなったので、キサラギが指揮をとるようだ。
俺も
俺たちは、頑なに同行を拒否するタカトウをその場に残し、フリードリヒの遺体が向かったであろう倉庫へと足を速めた。
ゾンビ化すると無駄に移動するので、早く行かないと所在がわからなくなって面倒なのだ。
「いたぞ」
タカトウの部下が、小声で合図して来た。
その指差す先は倉庫の中。
何やらゴーレムを弄っているようだ。
「あれはゴーレムを修理しているのか?」
ゾンビが修理なんてあり得ないと思ったが、俺にはそうとしか見えなかった。
「なんでそんなことを?」
キサラギも首を傾げる。
「いや、まさか、あのゴーレム動くようになったのか?」
俺が見るに、数機のゴーレムが稼働状態のようだ。
となると、ゴーレムは誰の命令に従うようになっているのだろうか?
まずいぞ。奴は意識をもったゾンビの上位種、リッチーなのかもしれない。
いや東大陸人は魔法が使えないらしいからリッチーはないか。
知能を残した特殊個体というところか?
「まずいな。奴の権限ランクが有効ならば、あのゴーレムは奴の支配下にあるぞ。
警備型ならば、武装している」
「ならば、どうすれば?」
キサラギもゴーレムの危険性を理解したようだ。
「ゴーレムが独立起動しているならば、俺の権限も通用しない。
権限を奪うには触るしかないが、その前に攻撃を受けるだろう」
「ならば、我らの銃の使用許可を」
キサラギが武器使用禁止命令の解除を求めたが、タカトウはゾンビが怖くてここまで来ていなかった。
つまり、俺に使用許可を求めたということか。
しかし、それでフリードリヒの遺体を更に傷つけられるのは困るぞ。
過剰に攻撃したと見做されると、尊厳を傷付けられたとかで面倒なことになる。
「いや、銃の使用は最後の手段だ。
とりあえず、ゴーレムは
「問題ナッシング」
それはどこの言葉だ? ギャル語? 古くないか?
まあ、問題ないならばよいか。
「よし、
皆は俺の魔法障壁の後にいろ。
ゴーレムを倒したら散開しフリードリヒのゾンビを囲み、ロープで捉えるのだ」
「皆、聞いたか? 我らは今からクランド王の指揮下で動くぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
キサラギの命令で、タカトウの兵が一時的に俺の指揮下に入った。
「
「おっけー」
「3、2、1、突入!」
そして、起動しているゴーレムを次々に倒していく。
そのスピードは、ゴーレムに対応させる暇を与えなかった。
「な、何事だ!」
焦ったフリードリヒの声がする。
やはり知性を持ったままゾンビ化した特殊個体のようだ。
「無力化成功したよーん」
「よし、全員で囲め!」
「うわー、何をする。やめろー。
ゴーレム、やつらを倒せ!
あー、全部破壊されているー!!!」
フリードリヒのゾンビはガッチガチにロープで捕縛された。
これで後の始末はトラファルガー帝国にお任せだ。
そのままにするも、処分するも皇帝が判断することだろう。
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