第301話 信用

 俺はこの世界をMAOシステムから守ると同時に、タカトウの国の他の艦も助けようとワープ装置の譲渡を決めた。

これにより転移門ゲートを破壊しても、タカトウの国の他の艦がワープ装置を使えば、この世界へとやって来て修理を受けることが出来るのだ。


 だが、もしタカトウの国が裏切ったら、どうなるか?

それこそが俺の頭にずっと残った懸念だった。

タカトウの部下でさえ、他国の王に銃を向けるほど喧嘩っ早いのだ。

あいつ……なんて名前だったか、トラファルガー帝国の皇子なんて、俺が止める間もなく殺されている。

そんな国の連中が、何かの拍子で俺に牙を剥く可能性は否定できない。

ワープ装置を悪用して、俺から全てを奪えば後は簡単だと短絡的に考えるかもしれないのだ。


 そういや、あいつの遺体はどうするんだ?

丁重にトラファルガー帝国に持って行って返すのか、しらばっくれて隠蔽するのか?

ここ第6ドックに置いて行かれても困るぞ。

それにリーンワース王国の調査隊にも目撃されたみたいだから、いつか露見するだろう。

対処を誤れば大問題となるだろう。

その時は是非、俺は無関係だと証言してもらおう。


 話が逸れたが、そんな喧嘩っ早いやつらにワープ装置を渡すのは危険だ。

それぐらい俺も解っている。

キルナール王国の中枢なり、第13ドックなりにタカトウの国の艦隊がワープして来て攻撃を受けたら一溜りも無い。

ワープ装置を自由に使えばそれが出来てしまうのだ。

だが、それを回避する方法は考えてある。


「このワープ装置は、1台しか渡さない。

それも、ここ第6ドックに来るか、そちらの指定座標に戻るか限定でしか使用出来ないようにする」


「クランド王に銃を向けたバカがいたんでは、信用されなくて当然だ」


 タカトウが兵士たちを睨みながらそう言う。

お前らのせいで信用を失ったと。


「ワープして来れるのは、1艦のみ、それの修理は請け負う。

ただし、敵対したらそこで終わりだ。撃沈して二度と助けない」


「その修理された艦が戻って、ワープ装置を他の艦に渡し、またここに来るということか」


「そうだ。ワープ装置を複製しようとしたり、行先を変えようと調べても同じだ。

そのようなことをすれば魔法的に壊れるように作っておく」


「わかった。くれぐれも粗相・・のないように徹底させる」


 タカトウの国の兵士たちは、自分たちの粗相で信用を失ったことに落ちこむ様子を見せた。


「それと、トラファルガー帝国の皇子、なんて名だったか、あいつの対処もきちんとしてもらうぞ。

他国リーンワース王国の調査団も現場を見ていたからな」


「フリードリヒ皇子だな。

その件はきちんとするつもりだ」


 タカトウも放置する気はなかったようだ。

巻き添えにならないならば、俺も証言してやっても良いだろう。


「俺からも先に殺そうとしたのはフリードリヒだと証言する手紙を書こう。

リーンワース王国の調査団にも証言させる」


「それでも賠償は必要だろうか?」


 タカトウの言い方には、今後賠償するあてがないかのような含みがあった。


「知らん。どっちみち貴様らは別世界で戦っている最中だろう?

請求には行かれないさ」


「ならば、しらばっくれる方向で……」


 タカトウ、お前なぁ。


「アホ、そうなると俺たちが疑われるんだよ!

そうならないように責任の所在を明確にして行けってことだ」


「そうか、そうだよな。

おい、フリードリヒの遺体を丁重に保管するのだ!」


 タカトウは、どうやら政治的駆け引きには向いていないようだ。

まあ、素直に遺憾の意を示すしかやりようは無いんだけどな。


「大変です! 遺体がありません!」


「そんなバカな! 遺体が歩くわけがない。

誰かが遺体を動かしたのだろう」


「誰も動かしていません。

というか、ずっと放置してあって誰も現場に居ませんでした」


 遺体が動いた? そんなバカな。


「電脳、監視カメラには何か映っているか?」


『現在、監視網はガイアベザルの破壊により一部しか機能していません。

修理をお願いします』


「その一部でも良い、何処かにフリードリヒの遺体を動かしたやつが映っていないか?」


 俺は大型のネズミ等の遺体漁りの可能性を考えていた。


『ありました。映像表示します』


 俺たちの目の前の空間に仮想スクリーンが展開され、映像が流れた。

どうやら監視カメラの映像のようだ。

しかし、その監視カメラは正常な向きではないらしく、床の一部を映しているようだ。

そこに映っていたのは……。


「おい、こいつ生きてたのか!」


 タカトウが驚きの声を上げる。

豪華な衣装の人影が歩いている。

しかしカメラの画角から脚しか映っていない。

だが、その衣装から、それはフリードリヒのものであることは明白だった。


「そんなバカな。頭を撃ち抜かれて即死だったんだぞ」


 俺もその意見に同意する。

そして、ある現象を思い出し戦慄する。


「こいつ、ゾンビ化したか!」


 そう、この世界は魔法があり魔物が蔓延る世界なのだ。

魔素の濃い場所では、遺体がゾンビ化するという例はままあることなのだ。

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