第292話 説明回

 勇者という存在を説明しなければならないだろう。

この内容は第13ドックの管理ゴーレムであるセバスチャンにより齎された知識である。


 この世界の勇者と呼ばれる存在は、勇ましい者という意味でも、RPGのような救世主的な勇者でもない。

ある特定の因子を持っているか否かでそう呼ばれるのだ。

それは魔導文明を手にする資格とでも言えば良いのだろうか、その因子を持つ者はその濃さによりマスタークラスと呼ばれるもので評価される。

クラスによって権限レベルに差が出るのだが、最下位のクラスEからDCBAと上がり最上位はクラスSとなる。

そのため因子さえ持っていれば良いこととなり、個人戦闘力を持たない生産職であったとしても勇者と呼ばれるのだ。


 これは、魔導文明を築いた先駆者が、自らの子孫にのみにその権限を残そうとしたことから出来上がった仕組みであり、その先駆者こそが文字通りの勇者であったために、その資格を手に出来る因子を持つ者=勇者と呼ばれるようになったのだ。


 その因子こそが、神によりチート能力を付与されてこの世界にやって来た者、或いはその子孫である証拠だった。

問題は、魔導文明を築いた者以外にも勇者召喚で来てしまった勇者がいたということだった。

つまり先駆者が子孫に残そうとした魔導文明を、他人であっても手にすることが出来るということだった。

それに気付いた時には、既に魔導文明を残した勇者はこの世に居らず、対応する魔導技術も失われていた。

それが勇者間の諍いの元となったのはまた別の話。


 勇者は、ほとんどが勇者召喚による異世界転移者なのだが、俺だけは特殊だった。

俺は死んでからこの世界で自分自身を強化した若い身体を手に入れたという異世界転生者だった。

この身体、神謹製によるスペシャルな身体なのだ。

それが魔導文明の因子チェック機能にどう見えるのか、それは言うまでも無いだろう。



 ちなみに、俺の職業は大賢者になっているが、俺自身は間違いなく賢くない。

ただ、知識の極みというチートスキルを持っているおかげで、職業がそうなってしまっているだけなのだ。

この知識の極みをフルで利用出来れば、とんでもなく賢い人物が出来上がるのだが、その知識を引き出すための基礎知識を持っていなければ宝の持ち腐れなのだ。


 例えば、〇〇が知りたいと思えば全てを知ることが出来るが、その〇〇を知らなければ、あるいは興味を持っていなければ、その知識にアクセスすることが出来ないのだ。

こういった取っ掛かりの知識を、俺は嫁や配下に(プチにさえ)気付かされることが多々ある。

ありがたいことだ。


 今回もその取っ掛かりをくれたのが嫁のクラリスだった。


「転移魔法って、魔法陣の中だけじゃなくて、陸上艦自体にはかけられないの?」


 目から鱗だった。

今まで陸上艦を転移させるには、俺のインベントリに入れてから【転移】魔法か転移魔法陣で目的地まで転移し、そこで取り出していた。

そうしなければ転移出来ないと思い込んでいたからだ。

いや出来るかもしれないが、それは俺のMPを尋常じゃない量使えばの話だと思っていた。


 知識の極みからの答えは、魔導機関から魔力を得れば、俺のMPを使わないで陸上艦の転移が可能ということだった。


 陸上艦の上には転移魔法陣が標準搭載されている。

その魔法陣の作動魔力は魔導機関から得られているため、【転移】魔法が使えない者でも使用が可能なのだ。

ただし、悪用を防ぐために特定の魔導具を持つ者のみに使用制限をかけてある。

これは、第3者が直接転移してくることも防いでいる。


 その転移魔法陣の機能を陸上艦全体に利用すれば、陸上艦そのものを転移させることが可能となるはずだった。

その方法まで知識の極みが教えてくれる。

そう気付かないと知識の極みは何も教えてくれないのだ。

つまり、今、その転移機能は完成し、陸上艦に搭載されているのだった。


 そう、ワープの完成だ!

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