第280話 タイムパラドックス共有

Side:トラファルガー帝国


「おかしい、バイゼン共和国のゲートが破壊された今、我が国の他にゲートを運用している国は無いはずだ」


 時間設定を弄って繋げた先が安定しない。

例えば、未来で起きたはずのことを過去に戻って干渉すると、未来が変わってしまう。

これはこの世界の技術下でも観測されていることだし、SFでも良く描写される現象だ。

タイムパラドックスと呼ばれる現象であり、世界線が変わったという言い方をすることもある。

それが、我が国が何もしていないのに起きた可能性がある。


「この世界は我が国しか知らないはず、しかも我が国でさえ手に余るというのに」


 それが知らないうちに改変されている。

特に顕著なのが、敵機体の変化だ。

多脚の戦車が、多脚のロボットを含むようになった。

誰かが過去に干渉し、戦車の設計図を書き換えたのだろう。

対人戦においては、むしろ多脚ロボットの方がやっかいだった。

今までとは違う探知装置を採用したのか、我らの探査隊が直ぐに見つけられてしまう。


「まだだ。もっと過去に戻るぞ」


 過去に戻り、この多脚ロボットが出て来ない時代を探るのだ。



 さらに過去へとやって来たが、ここにも多脚ロボットがいた。

既にゲートが設定できる最大限の過去だ。

もし、警備のために過去にまで多脚ロボットを派遣したのだとしたら、相手のゲートは我々のゲートよりも高性能ということだった。

だが、これでどの時代であっても、最新式の多脚ロボットが手に入るということだった。

人海戦術で、大人数で攻めれば、多脚ロボット1体ぐらいは手に入れることが可能だ。

多大な犠牲を払ってだが、反政府分子だ、その犠牲はどちらにしろ国のためになる。



 ◇  ◇  ◇



Side:クランド


 転移門ゲートで到達可能な最大限の過去に多脚ゴーレムを偵察に向かわせた。

そこにはこの兵器工場を造った知的生命体が居るのか否か、それを確かめたかったのだ。

しかし、到達可能な最大限の過去であっても、兵器工場は今と同じ打ち捨てられた状態だった。

俺は、この過去から全ての工場を支配下に置くことにした。

これにより、この世界の技術全てを手に入れることが出来るのだ。


 トラファルガー帝国の転移門ゲート接続点を発見した。

工場警備に紛れ込ませた多脚ゴーレムが襲われたのだ。

彼らの襲撃方法はあまりに悲惨だった。

それは人命を消費しての襲撃だったのだ。

そこには人権など存在せず、人の死体の上に積み上げられた未来兵器の捕獲行為だった。


 これが発見できたのは、多脚ゴーレムの相互記憶共有のおかげだった。

未来において、過去の仲間が襲われたという記憶が突然発生したのだ。

これこそタイムパラドックスによる補正だった。

どうやら、同じ世界の転移門ゲートは、接続先の変化を共有するようだ。

俺たちが弄った世界も、トラファルガー帝国が弄った世界も、その変化はお互いに共有するということだ。

変化させられる前の世界は世界線が分岐し別アドレスのどこかへ行ってしまったのだ。


「これはどうしたものか」


 このままでは大量の人命が失われる。

助けるためにはわざと捕獲されてやれば良いのだが、それによりトラファルガー帝国の軍事力が増強されると、こちらの世界で人命が奪われる。

ここは心を鬼にしてでも反撃させるしかなかった。

そのため、過去に遡って警備を厳重にすることとなった。

未来で製造された多脚戦車の設計図を過去に運んで製造させる、それにより進化した多脚戦車をまた過去に送る。

こうして技術の進化ループが始まった。


「いや、これター〇ネーターのパターンじゃん」


 危ないところだった。

進化した機械が人類の存在に疑問を持って襲って来るというフラグが立ってしまっていた。

このフラグを折るには、過去に新型を送り込むのを止めれば良い。

そうなる前に気付けて良かった。


 これにより、トラファルガー帝国に多脚ゴーレムなどが奪われる案件が継続することになった。

でも大丈夫だ。奪われたふりをして、実はトラファルガー帝国内を偵察させているのだ。

そこで判明したのは……。

あの大海戦で犠牲になった者の家族たちが、対キルナール王国との戦争のために命をかけているという事実だった。

トラファルガー帝国は、キルナール王我が国と戦う近い未来に向けて、着々と準備を進めていたのだ。

人の恨みは消えないものだったのだ。

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