第九章 次元転移門編

第268話 ゲート探索

Side:トラファルガー帝国


「父上、彼の国キルナール王国をこのままにしておいてよろしいのですか!」


 その声に謁見の間の玉座に座る皇帝は渋面を湛えた。


「またそれか。ジョージよ、そうは言うが、戦えば負けるのは必定。

彼の国に覇権的な野心がない限り、手を出さないことが最大の防御であろう」


 皇帝に意見したのは、この国の第一皇子であるジョージ皇子だった。

彼こそが、転生者であった。偶然なことに転生前の本名を譲治という。

日本で事故に遭い、死んだと思ったら、この世界に記憶を持ったまま生を受けた。

その知識で優位に立てると有頂天になっていたところ、現実は甘くなかった。


 隣国バイゼン共和国はゲートの産物というオーバーテクノロジーで攻めて来るわ。

その隣国に巻き返しをかけられたと思ったら、西大陸の魔導技術を持つキルナール王国の船を誤って沈めてしまい、交戦状態となってしまった。

やっとバイゼン共和国の悪逆非道さを理解してもらい、謝罪を受け入れてもらい逆に同盟関係になった時には、せっかく整備した大艦隊の半数を彼の国に沈められていた。

踏んだり蹴ったりだった。

さらに、彼の国の王、クランドによる魔導&先端技術のハイブリッド技術を見せられ、自分にこの世界の覇者は絶望的だと嘆いていた。


「だからこそ、彼の国の技術の上を行く未来技術をゲートより手に入れるのです」


「それは、ヘンリーがやらかしたばかりではないか。

多大な犠牲を払い、やっと抑え込んだが、あれが隣国のように暴走状態になったならば、我が国は滅んでいたぞ」


 ヘンリーとは第二皇子のことだ。

兄ジョージが着々と実績を積んでいるのを目の当たりにし、焦りからゲートの座標をいじり、危険な世界を引き当ててしまっていた。

その世界から物資を運び出している最中にガードロボットが作動し、こちらの世界にまで進出して攻撃を加えて来ていた。

ガードロボットはまさに殺戮機械であり多大な犠牲者が出た。

幸い、ゲートのエネルギー供給を落とすことに成功。

こちらの世界に残された分のガードロボットを多大な犠牲を払って破壊していた。


「あの世界の技術ならば、彼の国を凌駕しているでしょう」


「それはそうだが、安全に手に入らないならば害悪でしかない」


 皇帝は国を滅ぼしかねない世界への接続を認める気はなかった。

しかし、ジョージ皇子はある提案をし、皇帝に妥協してもらおうと画策していた。


「そこで、実験をさせてください。時の設定をいじるのです。

あの世界の過去か未来、あの殺戮機械が開発されていない時代か、既に壊れて機能していない時代を探します。

そして他の機械を手に入れるのです」


「しかし、それでも殺戮機械が出てくれば犠牲者が出るぞ」


 殺戮機械1台を倒すのに100人近い犠牲者が出るのだ。

皇帝は安易に認めるわけにはいかなかった。


「ご安心ください。

そのための志願者が集まっております」


「そんな者どもがいるのか?」


 死んでも良い志願者?

まさかバイゼン共和国の捕虜かと皇帝は思った。

捕虜が命をかけて帝国を守るわけがない。

ここで話は終わりだと皇帝は考えていた。


「はい、乗艦を彼の国の戦艦に沈められ家族を殺された者たちです。

彼らの不満は危険なレベルに達しております。

なぜ彼の国と友好関係を結ぶのかと。

その矛先が我が帝室に向かわぬように、目的を与える必要があります」


「それが、危険なゲートの探索か」


 たしかに不満分子の存在は把握していた。

殺された家族の仇をなぜ討たないのだという根強い意見は消えることがなかった。

今後帝政を揺るがしかねない火種だと皇帝も認識していた。

それをジョージ皇子が上手く利用するつもりだと理解し、皇帝は僅かだが話に乗り気になった。


「彼の国を倒すためと言えば、喜んで命を差し出すでしょう。

例え失敗し未来技術が得られなかったとしても、不満分子の一掃に使えます。

どうかご裁可を」


 皇帝もその話は悪くないと思い始めていた。

成功しても失敗しても、我が帝室に都合の良い結果となるのだ。


「くれぐれも、危険な世界を引いた時の対策を怠るのではないぞ」


「はっ」


 こうして危険なゲート探索が再開されたのだった。

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