第253話 暴走する上、従う下

「さあ、これで退いてくれよ」


 我が国にとって、そんな数の艦隊はいつでも沈めることが出来る。

その警告で発射した対艦ミサイルだ。

今ならトラファルガー帝国のように、破壊した港湾施設を賠償すれば、講和も可能だ。

それにしても、既にタカオ他の実力は見せたはずなのに、なぜこのような暴挙に出たのだろうか?


『敵艦隊、依然として砲撃を継続』


「だめだったか……」


 弾着観測機VA52から、残念な報告が来た。

これは現場の判断では引けない命令が出ているということだろう。

先ほど沈めた一際大きな戦艦も、先の海戦には出て来ていなかった。

ゴードン司令の西部方面艦隊とは違う組織が動いているということだろう。


「ああ、国のトップが動いたか」


 バイゼン共和国は、東大陸の西側半分を領土としている。

その南岸は既にトラファルガー帝国に抑えられ、現在西部方面艦隊が最前線を守っている。

それはそこにゲートが存在するからであり、最大海洋戦力が集中していたはずだ。

そこに派遣されていなかった大型戦艦の存在は、最大海洋戦力の集中という観点からは異常だ。

その大型戦艦を残す必要のある場所、つまり北岸に位置する首都、そこを守るために大型戦艦は存在しているのだろう。

それがわざわざここまで来たとなると、国のトップがそう判断したということだろう。

いや、共和制民主主義ならば、議会レベルで我が国侵略が決定したのだ。


 最早、砲撃して来る艦隊の国籍など、どうでも良い。

脅威は排除する。その後、戦力不足で敵国に負けるようなことがあっても自業自得だ。


『タカオ、カゲロウ、ユキカゼに命令、全速前進、敵艦に目視距離まで接近し、魔導砲の光魔法【光収束熱線】を撃ち込め。

遠距離攻撃不要、目に見える距離で戦闘力を見せつけて沈めろ。

全て沈め……いや、被害報告用に1艦逃がせ。

この大被害を本国に伝えさせて二度と手を出す気を起こさせるな』


 未だに砲弾が飛んで来ているのだ。

撃って良いのは撃たれる覚悟のあるものだけだ。

徹底的に葬ってやる。


 新型である海洋戦闘艦は、全ての魔導砲を艦首方向に向けられるように設計されている。

現在、両舷上甲板に配置されている対空重力加速砲8基を使用するために、3艦の艦首は敵艦隊に向いていた。

舷側を敵に向けた状態だと、片舷の4基しか使用出来ないからだ。

後部にも魔導砲を搭載していれば、そのような迎撃態勢も取ったかもしれないが、生憎そんな設計にはなっていない。


 敵艦の位置は弾着観測機VA52からのアクティブレーダーの中継で把握済みだ。

先の海戦のように火魔法の【爆裂弾】を使えば今でも射程内となる。

だが、それだと何にやられたのか敵艦隊は把握出来ないだろう。

直接我が艦隊が見える状態で沈める。

誰にどうのように沈められたのか、その光景を目に焼き付けて本国に報告してもらわなければならない。


 その後、然程の時間もかからず、敵艦隊は最後の1艦を残して全滅した。

全滅とは全部隊の3割が戦闘能力を損耗することを言う。

9割沈めれば明らかな全滅判定となる。

この日、バイゼン共和国の艦隊は、その戦闘能力を失った。

このまま陸軍力も海軍力も勝るトラファルガー帝国が攻め込めば、容易に占領出来ることだろう。


 最初は両国の戦力が拮抗し膠着状態となる冷戦状態を俺は望んでいた。

しかし、二国間の条約を平気で破って攻撃してくるような国家は信用ならない。

手心を加える価値がないと判断した。

この裏切りを行ったのは、ほぼバイゼン共和国で確定だが、仮にトラファルガー帝国の欺瞞工作だったとしても、彼の国も我が国との和平交渉をしていた最中だ。

この手痛い被害を受けたのが、どちらの国だとしても、我が国は生き残った方と懇意になれば良いだけだった。

なぜならば、攻撃を仕掛けて来た方の海軍力を徹底的に叩いたのだ、まだ艦艇が残っていて攻撃出来る方が勝つという論理になる。


 まあ、残念ながらバイゼン共和国なんだろうけどね。

さて、後で泣きついて来たら、どうしてくれようか。

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