第251話 覇権民主主義

Side:バイゼン共和国


「危険です! それだけはやめた方が……」


「これは中央政府の決定だ、我々は国民の支持を得ているのだよ?」


 トラファルガー帝国を攻めたのも、国民の声を無視出来なかったからだった。

貴族制を廃し共和制民主主義をとった結果、この国は何も理解していない国民の声で無謀な戦争へと突入することが多くなった。

所謂、覇権民主主義だ。

共和制とは言うが、単純に隣国を攻めて併合したに過ぎない。

その国民たちが自由を得て1票を手に入れると、また新たな富を求めて戦争を要求するのだ。


 ゲートから戦艦という兵器を手に入れた時、国民はその力強い存在感に湧き、長年手を出すことも憚られた大国、トラファルガー帝国を攻めることを要求した。

初戦は勝ち続けた。

大国トラファルガー帝国といえども、未来兵器の戦艦には太刀打ち出来なかったからだ。

だが、それは戦艦が遊弋出来る大陸沿岸だけの話だった。

そしてトラファルガー帝国の要であるゲートの存在する帝都までは、戦艦の航続距離が届かなかった。


 戦争は膠着状態に陥った。

大陸内地では、陸軍力に勝るトラファルガー帝国が有利だった。

戦艦の力はそこまでは届かなかったからだ。


 そんなある日、我が共和国の戦艦が消息を絶った。

最初は海洋性の魔物にでもやられたのだろうと思われていた。

しかし、それは違っていた。

トラファルガー帝国が戦艦を所持し反撃を開始したのだ。

それは後から判明したのだが、ゲートの技術者がハニートラップにかかり、その戦艦を得ているゲートのアドレスを知られてしまったからだった。

戦線は押し返され、逆に新兵器を投入されて我が共和国が不利な状況に陥り始めた。


 そんなおり、我が共和国と交易をしていた西大陸にある魔法国家の輸送船が、トラファルガー帝国の潜水艦に沈められた。

その調査に現れた魔法国家、キルナール王国の戦艦――いや彼らは重巡洋艦と言っていたか――は、その巨大さと魔法由来の性能で、我が共和国の戦艦を遥かに凌駕していた。

その報告を中央政府に上げたところ、中央政府は同盟という名でキルナール王国を利用することを考えた。

彼らが我々では太刀打ちできない潜水艦を沈めることが出来たからだ。


 そして、トラファルガー帝国に大侵攻の兆候有りとスパイからの情報が上がって来た時、中央政府は欺瞞装置付き戦艦までも沈められるキルナール王国に援軍を要求した。

キルナール王国は共通の敵であるトラファルガー帝国打倒に協力的であり、その超長距離砲撃を防ぎ、魔法攻撃によりトラファルガー帝国の艦隊を撃破、後始末を我々に任せて戦場を去った。


 その報告を中央政府に行った結果が、あの冒頭の言葉につながる。


「魔法国家の兵器を得れば、我が共和国は東大陸も西大陸も征服できるだろう」


「は?」


「なに、相手はたった3艦しか所持していないのだろう?

ならば艦砲射撃で港に停泊している状態で破壊してしまえば良い。

敵の港の位置は把握済みだろう?

ならば敵の射程外から艦砲射撃を行えるはずだ」


「危険です! それだけはやめた方が……」


「これは中央政府の決定だ、我々は国民の支持を得ているのだよ?」


 この者たち、いや国民はどこを見ていたのだろうか?

そのたった3艦で我が共和国に倍するトラファルガー帝国艦隊を迎撃し撤退させたのだぞ?

まさか、後処理を任された我が艦隊が沈めた戦艦の数で大戦果を挙げたとでも思っているのか?

それは誤解だ。既に魔法で燃えて戦闘力を失った戦艦を沈めただけのことなのだ。


「私は、我が国の存続を危険に晒すような命令には従えません。

職を辞したいと思います」


 反乱しても良いが、中央政府側の腰巾着どもとの内戦になるだけだ。

ここは職を辞して抗議する以外、私は方法を持たなかった。

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