第219話 対潜水艦戦
バイゼン共和国の戦艦グラスターは、地球で言うと前弩級戦艦に分類される艦だった。
全長160mの艦体に小口径と中口径の砲を多く積んで、その弾数で優位に立つというのが設計思想だろうか。
それに比べてタカオは全長300mという巨体だったが、そこには小口径にしか見えない魔導砲と対艦重力加速砲を3門ずつ6門しか搭載していない。
左右の甲板に合計8門搭載している対空重力加速砲も、小さすぎて機銃にしか見えていないことだろう。
後部飛行甲板も何もないように見えて、戦艦グラスターからしたら、大きさの割に頼りない艦に見えていることだろう。
「グラスターの速度は?」
「27kph(km/h)程度のようです」
「タカオの巡行速度の半分か……」
この数値は戦艦グラスターも最高速度ではなく巡航速度だろう。
おそらく最高速度でも37kphいくかいかないかだろう。
これは長くなりそうだと俺はため息をついた。
「
陸上輸送艦を2艦前後に連結することで全長240m級の軽空母として使っていた。
つまり陸上輸送艦1艦で全長120mといったところだ。
その陸上輸送艦を流用して海上輸送船は造られていた。
主力艦である戦艦が160mの国に、我が国は120mの輸送船で貿易していた……。
どう見られていたのかと思うと、ちょっと引いてしまう。
やらかした感が半端ないのだ。
ここでうちの艦はもっと速いのでお先にとは言えないのが辛かった。
◇
のんびり航海を続けて行くうちに、戦艦グラスターの甲板上が慌ただしくなった。
「発光通信員、何事か訊ねろ」
「はい」
『何が起きているのか、報告を願う』
『潜水艦出没海域に入ったため、臨戦態勢に入った』
どうやら潜水艦に襲われやすい海域に入ったようだ。
つまり、こちらもターゲットにされるということであり、先に教えておいて欲しかったところだ。
「魔導レーダーに反応は?」
「パッシブ、アクティブ共にありません」
だが、安心できないのは、前回の潜水艦との遭遇戦で判明していた。
やつらは海水に魔力が多く含まれる場所を把握していて、その存在を隠すことが出来るのだ。
「爆雷発射準備。いつでも魚雷迎撃が可能なように待機だ」
警戒体制のまま、緊張を強いられる航行が続く。
「魔導レーダーに感あり。
魚雷です。その数4。
目標は戦艦グラスターです!」
「迎撃は可能か?」
「可能です。
戦艦グラスターが気付いていないため、魚雷が直進中なので楽です」
「ならば、迎撃せよ。爆雷、撃て!」
ドン、ドン、ドン、ドン
前甲板に装備された魔導砲塔2基が目標を定めると、2発ずつ爆雷を発射した。
爆雷は放物線を描き、タカオの前方を航行中の戦艦グラスター右舷400mほどの海面に、続けて落ちて行った。
ドーン、ドドーン、ドドーン、ドドーン、ドン
海中で爆雷による4つの爆発音とそれに重なるように4つの魚雷の爆発音が発生した。
こちらの攻撃は上手く魚雷を迎撃出来たようだ。
「発光通信です『音をたてて邪魔をするな』だそうです」
どうやら、こちらが魚雷を迎撃したことに気付いていないようだ。
それならば、お手並み拝見といこう。
「魚雷4迎撃と返答しておけ。いや、魚雷では通じないのか?」
「了解。水中兵器と置き換えておきます」
魚雷という名前は、俺の地球での知識で付けたものだった。
バイゼン共和国では何と呼称するのかがわからなかった。
こちらからそう返信すると、戦艦グラスターの甲板上が慌ただしくなった。
魚雷を避けるためだろうか、不定期に急な舵をとりはじめた。
「あれはホーミング魚雷だったよな?
あれで回避できるのか?」
まあ、邪魔をするなというのだから、自力でどうにかしてもらおう。
次は助けてくれと言われるまで放置しておくつもりだ。
「魔導レーダーに感あり。
魚雷です。その数6。
目標は戦艦グラスターに2、こちらに4です!」
「戦艦グラスターに警告。
水中兵器がそちらに2、こちらに4接近中だ。
こちらは勝手に迎撃する。以上だ」
「了解」
『警告、水中兵器6接近中。
そちらに2、こちらに4。
こちらは先の兵器で勝手に迎撃する』
こちらは先ほどと同じ手順で魚雷4を爆雷の誘爆で処理した。
残る魚雷2は戦艦グラスターを追尾中だ。
戦艦グラスターは機関砲を海面に撃ち込んでいる。
どうやら隣の大陸は全く違う機械文明が生き残っているようだ。
ガイアベザル帝国の火薬砲が玩具に見えるようなレベルの兵器が残っていた。
「戦艦グラスターより発光通信、『救援を求む!』です」
やっと現実を把握したようだ。
おそらく潜水艦と遭遇し沈められた艦がどのように沈められたのか理解が及んでいなかったのだろう。
生き残った兵に魚雷が追ってくるなどと言われても信じられなかったのだろう。
「とらえているな? 爆雷、撃て!」
ドン、ドン
2発の爆雷が発射され、海中で爆発、戦艦グラスターを追尾していた魚雷2は破壊された。
「潜水艦、捕らえました!」
こちらを追い始めたのか、潜水艦の反応がアクティブレーダーに映った。
「斥力場フィールド、潜水艦を狙え!」
「了解、斥力場フィールド、展開しました」
ぐるりと右旋回し、潜水艦に左舷を向けたタカオの左舷重力加速砲が潜水艦に斥力場フィールドを展開した。
位置取りを変えないと撃てないのは今後どうにかする必要があるな。
海面に開く筒状の空間の先には潜水艦の艦体が見えていた。
「重力加速砲発射!」
「発射します」
ズン
重力加速砲の砲弾は斥力場で海水が押し退けられた空間を通り潜水艦に直進する。
ガゴン!
そして潜水艦に直撃し大穴を開ける。
と同時に斥力場が切られると、その空間に向かって海水が物凄い勢いで流入した。
穴の開いた潜水艦に海水が襲い掛かる。
潜水艦は二度と浮き上がることはないだろう。
「潜水艦、迎撃終了。
だが、警戒を緩めるな!」
こうして俺の重巡タカオは潜水艦の迎撃に成功したのだった。
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