第207話 ドナクルム王国制圧1

 ドナクルム王国がガイアベザル帝国に下ったのは、帝国の陸上戦艦の怖さを知っているからだ。

いま威嚇射撃した魔導砲はガイアベザル帝国でさえ使える艦が少ない。

それが使えることに気付けば、簡単に帝国に下った国だからこそ降伏してくるだろうと、俺は楽観視していた。


 だがそうはならなかった。

どうやら現王が裏取引でガイアベザル帝国から支援を受けてクーデターを行っていたらしい。

そのせいなのか何なのか、本当の陸上艦の怖さを知らず、こちらの戦力を侮っているようだ。

いま、城の塔を破壊したにも関わらずにだ。


「まさか、威嚇射撃を本気で外したと思われているのか?」


 嫌な予感しかしない。


ドン! ドカン!


 城塞に設置されている火薬砲が火を噴いた。


「おいおい、この艦に火薬砲が通じるわけがないだろ」


 ドナクルム王国は、降伏を選択せずに徹底抗戦を選択したようだ。

何を根拠にこの艦に勝てると思ったのだろうか?


ブン! パシッ!


 何かがエリュシオンの防御魔法陣に当たって消えた。


「なんだ? おい電脳、何があった!」


『ビーム砲が直撃しましたが、防御魔法陣が自動展開し防御しました。

敵攻撃兵器予測。ラスコー級戦車主砲と推定』


 ラスコー級戦車といえば、キルトタルの倉庫に残骸があるやつだ。

たしかガイアベザル帝国が使ったこともあったな。


「つまり、ガイアベザル帝国の残した兵器を手に入れたから調子に乗っているのか?」


 まさか戦車で陸上艦に勝てると思っていたのか、ドナクルム王国は無謀にも先端を開くことを選択した。

王城から一斉にワイバーンが飛び立った。

ワイバーン騎士程度でどうしようというのか?


「ワイバーンに何か括り付けられているようです」


 見張りが呆れ声で言う。

俺もその方向に【遠目】のスキルを使った。


「ああ、あれは火竜が搭載にしいた爆弾か。

火竜は脚でいくつか掴んで運んでいたが、ワイバーンは1個腹に括り付けるのが限度なんだな」


 MAOシステムによる魔物兵器の攻撃は、ここでもガイアベザル帝国の陸上戦艦を圧倒したのだろう。

その火竜たちがMAOシステム喪失でコントロールを失い放棄した爆弾がそこら中にあった。

補給用の中継基地に爆弾がそのまま残されていたのだ。

ドナクルム王国は、それを拾って流用したというところだろうか。

たしかにガイアベザル帝国の陸上戦艦ならばワイバーンの空爆にも弱そうだ。


「まあ、それでもこの艦には脅威とはならないんだよな……」


 弱いもの滲めのようで悪いが、ワイバーン程度の速度ならば対空重力加速砲で撃ち落とすのは容易い。

俺たちは火竜を相手に戦い、装備を充実させて来ているのだ。


『待つにゃ。そいつはミーニャミーナが落とすにゃ』


 魔導通信機からそう聞こえたと思ったら、軽空母から墳進式戦闘機FA69がカタパルトの音と噴射音を奏でて飛び立った。


ドーン! ドドーン!


 ミーナの墳進式戦闘機FA69が、爆弾を抱えて鈍重になったワイバーンを次から次へと落とす。

というか爆弾を狙い撃っているようでワイバーンが空中で爆発を起こす。


ドン ドン ドン


 城塞の上からの火薬砲も散発的に撃ち込まれている。

これもガイアベザル帝国から奪った兵器なんだろう。

それで勝てると思っているのかもしれない。

確かに火薬砲搭載のガイアベザル帝国の陸上戦艦相手ならば、火薬砲の数さえ揃えれば勝てなくもないだろう。

ガイアベザル帝国の陸上戦艦は舷側に火薬砲をせり出すための穴がある。

そこが弱点だということはドナクルム王国も理解しているのだろう。

だが、火薬砲の砲弾も、こちらは全て防御魔法陣が迎撃してしまい、被害が出ることはない。


「全ての兵器を破壊し鎮圧せよ」


 俺の命令で対空用重力加速砲が起動し水平発射、火薬砲を全て無力化する。

そして対艦用の重力加速砲がラスコー級戦車に照準、発射。

その装甲を打ち抜いて沈黙させた。


「これでも降伏しないのか……。いったい何がそうさせているんだ?」


 俺には戦う力が無くなっても抵抗する理由が理解できなかった。


「火よ、火よ、集いて我の力となり、弾けて我が敵を撃ち滅ぼさん。爆裂火炎弾!」


 城壁に並んでいるのは魔術師だろうか?

ついに人の放つ魔法で陸上艦に対抗しだした。

その魔法は対人対魔物であれば強力なのだろうが、エリュシオンに通じるような威力ではなかった。

どうやら、彼らの事情はもう止められないまでに動いてしまっているようだ。

あの荒廃した農地。彼らも食料がひっ迫しているのかもしれない。

だからと言って、他国を侵略して奪うのは違うだろう。


「人相手に重力加速砲はオーバーキルすぎるな……ならば!

エリュシオン前進! 上空から魔導砲攻撃を行う。

弾種雷魔法広域、電撃微弱、撃て!」


 俺は目に見える敵兵に向けて電撃微弱を広域魔法でお見舞いした。

表に身を晒していた敵兵はその身に電撃微弱を受けて次々に麻痺していった。

特に鎧を着ている兵士には殊の外良く利いたようだ。

これにより抵抗出来る敵兵は目に見える場所にはいないだろう。

さすがに建物の中までは無理だったけど。


「軽空母に連絡。地上部隊出撃せよ。

倒れている敵兵は捕縛し、場内の敵兵は制圧せよ」


 軽空母のにはガルフ傭兵が1000人乗っている。

これでドナクルム王国王城を制圧する。

抵抗するならば、殺すことも容認せざるを得ない。

あくまでも大切なのは味方の命なのだ。


 だが、武器を持たない国民は放っておいても大丈夫だろう。

後で食料援助を考えないとならないかもしれないが。

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