第204話 間違った群雄割拠

お知らせ

 申し訳ありませんが、クオリティアップのため、この第204話からを大幅改稿することにしました。

先まで読んでいただいた読者様、ごめんなさい。

そこまで戻るまで、しばらくお付き合いいただけると幸いです。


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 修理した艦と、譲渡の決まった陸上駆逐艦をリーンワース王国に引き渡した後、俺は久しぶりにスローライフを満喫していた。


「ご主人様、ペルアルテ商国の処遇、滞りなく完了いたしました」


 行政を任せているアイが報告を上げて来る。

ここはキルトタルの上、艦橋に付随する屋敷の前にあるテラスだ。

俺はそこのデッキチェアに座って畑を眺めながら、プチを抱いてモフモフしつつそれを聞いていた。

これが今の平和な日常だ。


「そうか、やっと終わったか」


 懸案事項だったペルアルテ商国は、ボルテア公国と同様の契約魔法で縛ることになり、今後は属国として生き残ることとなった。

先のルナトーク王国とペルアルテ商国の争いで、北東自治区を占領し賠償として領有することとなった。

つまり商国は三方をキルナール王国に囲まれており、残りの一方も内乱の続く小国ばかりとなってしまっていた。

しかも主要取引先であるボルテア公国とボルダード王国が親キルナール王国に転向したため、キルナール王国と揉めること=商売が成り立たなくなっていたのだ。

そこでペルアルテ商国の代表はキルナール王国に下り属国として商売に励むこととなった。

ちなみに代表が5から4に減っているのは、北東自治区の代表がルナトーク王国に手を出した強硬派だったことで戦死しているからだった。

ウェイデン伯爵も容赦なくやったものだ。


「ザール方面に動きは?」


「はい、ザール王国、ガルフ国ともに喧嘩を売って来る国は無くなったと思っていたのですが……。

どうやら騙されていたようです」


「騙されていた?」


「はい。ザール王国と国境を接している国にドナクルム王国という国があります。

そこはガイアベザル帝国から解放された後、大人しくしているものと思われていました」


「思われていた?」


「実は、その隣国のルンベリア王国とバスティア国からの難民が他国を経由してザール王国へとやって来たのです」


「平和なはずの二国からか?」


「はいそうです。

ミーナ様が事情を聴いたところ、ドナクルム王国がルンベリア王国に侵攻、その後ルンベリア王国を属国として、バスティア国に攻め込んだそうなのです」


 俺は、そのアイからの報告に耳を疑った。

何の動きも見せていなかったはずのドナクルム王国が隣国を併合し、さらにその先の小国もせめていたというのだ。


「なぜわからなかった? いや、これが騙されていたということか。

どうやって欺瞞していたのだ?」


「魔法です」


「魔法だと?」


 俺にとってそれは予想の外の答えだった。

だが、この世界は剣と魔法の世界だ。

陸上艦の戦力を持たない国は、その剣と魔法の力で魔物から国を守っているのだ。

俺だって魔導の極みのおかげで、魔法で魔物を倒したこともある。

陸上艦の力が凄すぎて、そんな世界だということを俺は忘れてしまっていた。


「ドナクルム王国は魔術師の多い国です。

その攻撃力もさることながら、集団による防御魔法や結界魔法、欺瞞魔法などが得意なのです」


「つまり、軍の出撃も戦闘の様子も欺瞞により気付かなかったということだな」


「はい。難民が来るまでは、そのようなことが出来ることも失念していた次第です」


 これは明らかに我が国の失態だ。

騙されていたとはいえ、助けを求める人々に気付かなかったのだ。

難民の受け入れはもちろん、ここは我が国の軍を動かしてでも侵略行為を止めなければならない。


「難民の皆は手厚く保護するように」


 もう俺は戦争にはうんざりしていたのだが、この侵略行為は違うと思う。

ガイアベザル帝国の恐怖で抑えられていた国が、その箍が外れたからと、その侵略側にまわる。

まともな国家元首ならば、その得られた平和を有難く享受すべきなのだ。


 難民には女子供が多かったという。

戦争とは戦う意志のある者同士でやるものであり、非戦闘員を巻き込むのは言語道断だ。

忘れていたが、この世界、そこらへんの倫理観に欠ける者たちが多い。

我が国が気付けなかった結果、不幸な子供たちが出たということに、俺は責任を感じてしまった。


「これは止めなければならないな。

ザールにはミーナの第3戦隊が行っているよな?」


「はい」


「その我が国を騙してまで侵略をしていた国家にはお灸を据える」


「はっ。ミーナ殿も喜ぶことでしょう」


 そうか、ミーナは手を出したくても、俺の命令を待っていたのか。

砂漠の東側で片が付いていないのは、ザール連合の周辺国だけだ。

俺はその砂漠の東の地だけでも戦いの無い世界を作ってやるべきかもしれないな。


「よし、第5戦隊も大峡谷要塞から出撃させろ。

砂漠を横断して小国群に向かわせるのだ。

ただし、叩くのは戦闘員のみだ。それを徹底するように厳命せよ。

民間人の虐殺、略奪行為を行ったものは犯罪人として処罰してかまわん」


 俺の平和なスローライフは簡単に終わってしまった。

わざわざズイオウ領にまで手を出してくる奴もいるし、せっかくガイアベザル帝国が倒れたのに、他国に侵略の手を伸ばすような王がいる国がある。

もうそのような国は潰してしまうべきかもしれない。

そのためには、陽葵ひまりのような【探知】を使えるゴーレムを従軍させるべきかもしれないな。

犯罪者を炙り出して処罰する必要がある。

今度こそこの大陸に平和を齎したいものだ。


 こうなったら、俺が率先して行動するべきだろうな。


「エリュシオン、出撃準備。

俺も一足先にザールに乗り込むぞ」


 俺はエリュシオンをインベントリに収納するとザールにいる第3戦隊の旗艦ザーラシアの前甲板に【転移】した。

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