第205話 参戦理由

「クランド、どうしたにゃ?

王様自ら来にゃくても、ミーニャミーナたちだけで対処可能にゃ?

クランドはどっしり構えてくれていればいいにゃ」


 ザーラシアの前甲板に設置された魔法陣に転移して来た俺に、ミーナが驚いて駆け寄る。


「すまない、ミーナ。

せっかく平和になれるのに、まだ自らの野望を成就させたいと思うやつがいるとは思ってなくてな。

あの国に大規模な欺瞞魔法があることにも気付いてなかった。

さっさと平定しておくべきだったよ」


 俺の真剣な顔にミーナも表情を引き締める。


「まあにゃ。こちらが手を出さにゃいと思うと、付け上がるバカがここいらには多かったにゃ」


 実力差があったとしても、それを使わないならば怖くない。

どこまで付け上がっても大丈夫かというチキンレースとなっていたのだろう。

それを俺が平和主義だとばかりに放置していたため、表向きは平和を装っていれば、裏で何をやっても構わないという連中を冗長させてしまった。

ガイアベザル帝国のように恐怖で縛った方が平和が齎されていたと思うと、やりきれない気持ちになる。

平和に過ごしていたならば他国への不干渉を命じていたために、裏で不幸の連鎖が止まらなかった。

それならば、俺自らがその不幸の連鎖を断ち切ってやろう。


「ドナクルム王国とはどのような国だ?」


「ザール連合が敗れた原因を作った最初の裏切り者にゃ。

ガイアベザル帝国の工作で一人の魔術師がクーデターを起こしたのにゃ。

王家が簒奪されて今はそいつが王にゃ」


 そんなことがザール連合で起きていたのか。

だからザールはザール連合国としてではなく、ザール王国とガルフ国の2国のみの開放という話になっていたのか。

戦前のように全ての連合国家が復帰しなかったのは、そんな理由があったのか。


「魔術師団によって軍の移動に欺瞞魔法が使われていたにゃ。

気付いた時には難民にゃんみんが大挙して来ていたにゃ。

その時には既に元ザール連合国のルンべリア王国が攻め落とされて併合された後だったにゃ」


「いくら欺瞞されていたとはいえ、ルンべリア王国から救援の要請はなかったのか?」


 俺の質問にミーナは顔を顰めながら答えた。


「ルンべリア王国も裏切り者にゃ。

さすがに裏切った相手に助けてくれとは言えにゃかったにゃ」


 それは確かに無理だろうな。

たぶん、ザールの民も誰も助けたがらないだろうしな。


「しかし、なぜ同じ立場の裏切り者でありながら、ルンベリア王国は攻められたんだ?」


「それは、ルンベリア王国に動く状態の陸上艦があったからにゃ」


 ああ、ガイアベザル帝国の遺産か。

俺が半ばまで戦力を削り、ついにはMAOシステムに止めを刺されたため、各地にガイアベザル帝国の兵器が残されたままになっているのだ。


「どうやら、その現ドナクルム王は、陸上艦に勝ってそれを手に入れたようだにゃ」


「はぁ? 陸上艦に勝った? 生身で?」


 忘れがちだが、この世界は剣と魔法でドラゴンでも倒すだけの力のある世界だ。

個人の能力で陸上艦を上回ることが出来ても不思議ではない。


「そうにゃ。たった一人で戦場の勝敗を左右する力があるにゃ。

ルンベリア王国は、その力に平伏し属国とにゃり、今や一緒ににゃって隣のバスティア国に攻め込んでいるにゃ」


 なんと迷惑な連中だろうか。

そこに勝算があると思って相乗りしたというのだろうか?

いや、それだけその現ドナクルム王というやつの個人能力が優れているのだろう。

個人の力だけで陸上艦を攻め落とせるとは、相当なチート持ちだろう。


「バスティア国からの救援要請は?」


「こちらとの接点のにゃい小国だったから来てにゃいにゃ。

しかし、流れ流れて難民にゃんみんがやって来たにゃ」


 つまり、難民にはその国を代表して救援を求める資格のある立場の者がいなかったのか。


「いくら平和を乱すからと、世界の警察気どりで参戦するわけにはいかないか。

それではドナクルム王国と変わらない。

となると、何を根拠に参戦するかだが……」


「奴らは奴隷として攫った我が国の国民をまだ返還していにゃいにゃ」


「そうか、期日を決めて国民を返さなかったら参戦でいけるか」


 この世界、言いがかりで戦争となることも多々ある。

明らかに我が国の国民を害しているのならば、立派な参戦理由になる。

まあ、一応は話し合いから始めるのだが、話の通じる相手とも思えない。


「早速交渉に向おう。とりあえずは返還要求と小国侵略に対する避難声明を出す。

陸上艦でドナクルム王国の王城に乗り付けるぞ」


 この世界、通信手段が限られている。

陸上艦を持っていれば魔導通信で相互通信が可能だが、ガイアベザル帝国ですら、その機能を使用できていなかった。

次に早い通信手段はワイバーン便であり、この場合使者を出すとその使者が殺されてしまう可能性がある。

次にクックルー便という伝書鳩のような通信手段があるが、これは確実性に乏しい。

そして、最後が騎馬による親書の輸送となる。

これも使者が殺される可能性があるため使えないし、時間がかかりすぎる。

そのため、陸上艦で乗り付けようということとなったのだ。


「撃ってきたら、それはそれで参戦理由ににゃるにゃ」


 この世界、領空侵犯といった概念はない。

国境を越えて軍を進めれば、それは即侵略行為となるが、乗り物である陸上艦が国境を越えても、それを取り締まる国際法は整備されていない。


 俺とミーナは政治的駆け引きという微妙なズルをするだけなのだ。

だが、相手が悪辣なのだ。俺たちなど小悪党にもなっていないだろう。

奴らの武器を取り上げて陸上部隊で制圧するしか平和は訪れない。

やるしかないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る