第201話 交渉1
ダンキンが北の大峡谷割譲の条件を持ち帰ってしばらくすると、リーンクロス公爵がワイバーン便でやって来た。
一応、リーンワース王国から陸上駆逐艦の魔導通信機で訪問のお伺いが来ていたため、俺もあの話だろうと待ち受けていたところだ。
護衛の騎士が乗るワイバーン含めて5騎による訪問で、魔導レーダーにしっかり捉えられていたので、直ぐに来訪がわかった。
ここでも【探知】の魔導具が有効だった。
現世のように敵味方識別装置が生物であるワイバーンにあるわけがないので、これが敵国による奇襲だった場合に、目視では対応が後手に回りかねない。
本来なら領空に侵入した不明飛翔体にこちらからもスクランブルをかけて対応すべきなんだろうけど、いまズイオウ領は圧倒的に人手が足りていない。
ミーナの
その敵味方識別が、
魔導レーダーのパッシブモードは魔力を捉えることで機能しているため、その捉えた魔力で個人を識別可能なようなのだ。
魔導の極によると、魔力には個々に固有の波長があるらしく、それを元に個人が特定され、【探知】によってアカシックレコードが検索されて敵対的であるかどうかの識別が出来るということらしい。
その
公爵の爺さんは、リーンワース王国の益になるなら何だって利用するというスタンスの御仁だ。
今のところ俺やキルナール王国に害意は無いと見られる。
ただ、俺がリーンワース王国の益にならないと判断すれば、どう転ぶかわからない人ではあるのだ。
今後も【探知】で彼の腹の中を注意深く観察して行こう。
他人の内心が神の視点で読めるというのも便利ではあるが、地球だったら倫理的にアウトだろうな。
護衛の騎士9人――ワイバーンに二人乗りで来た――は、もう少し薄い青――友好度低寄りの中――。
あくまでも公爵の護衛だから、誰でも疑ってかかるのは仕事上必要だろうから、こんなもんかもしれない。
今すぐ俺を襲おうと考えていないというか頭の片隅にもないから青になっているのだ。
安心して対面出来るというものだ。
「婿殿、暫くぶりであったな」
リーンクロス公爵はリーンワース王家の血筋の御方だ。
現リーンワース王の叔父にあたる人物だと聞いている。
俺はリーンワース王の娘を嫁に貰っているので、公爵は俺からも義理の大叔父ということになる。
なので、一国――いや三国あるか――の王となっている俺を婿殿と呼んだのだろう。
これは国と国との会談ではなく、親戚の間の世間話だということに持って行きたいのだろう。
「大叔父殿もご健勝で何よりです」
仕方ない。こちらも親戚として対応しよう。
おそらく親戚なんだから修理代どうにかならないかという話だろう。
「シンシアとクラリスは元気かの?
二人ともまだ子は出来ぬのであろう?」
おお、本当に親戚の爺ちゃんとの会話だ。
シンシアはリーンワース王国第6王女でクラリスは第7王女なんだよな。
あれ? 俺って政略結婚でリーンワース王国と深い仲になってるのか。
2人は嫁とはいえあまり会えないので、ついつい忘れがちになってしまう。
「はい。もうしわけありませんが、まだ子は出来ません」
まあ、やることやってないので出来ないのだが……。
俺にとっては彼女たちの年齢がちょっと……。
地球の、日本の常識だと手を出しにくい年齢なのだ。
リーンクロス公爵は親戚の良い爺さんといった笑顔で話している。
これは本気で心配してもらっていると見ていいのかな?
「そうなのか。おい」
リーンクロス公爵が、後ろに控えていた護衛の騎士に何かを持ってくるように促す。
騎士が持って来たのは小瓶に入った何かのポーションだった。
「これを使えば一発じゃ。
王侯貴族の間では常識の例の薬じゃ」
そういえば、跡取りを作らなければならない貴族の夫婦が、必ず子を成す究極の薬があると聞いたことがあった。
まさかそれがこれか!
【鑑定】……、うん、やっぱりあれだ。
でも、俺に子がいないのはやることやってないからなんだが……。
薬がなくても、やればできる……はず。
これはもう覚悟を決めなければいけない段階に入っているのだろうか。
「あ、ありがとうごさいます。
何分、出が平民ゆえ、仕来たりに疎いところがあります。
至らぬ点はご指導いただけると幸いです」
「うむ」
そんな益体ない世間話がしばらく続き、俺とリーンワース王は親戚なんだと強く印象付けられた後、いよいよ本題に入った。
「さて、北の大峡谷割譲の話なのじゃが」
来たー。ダンキンに持ち帰ってもらった条件をリーンワース王国がどうするつもりなのか、いよいよ正念場だ。
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