第202話 交渉2
俺が出した条件は、今現在リーンワース王国に貸しとなっている蒸気砲や陸上駆逐艦の修理費弾薬等々の代金を、残りのキルト・ルナトーク・ザールの奴隷解放のための代金と北の大峡谷の土地譲渡で相殺するとし、これから修理する陸上駆逐艦の代金は別途借金として残るというものだ。
今後リーンワース王国が陸上駆逐艦を運用していくうえで必要な弾薬代も別途請求する。
さてこれに対してリーンワース王国は、どう回答するのか?
「条件はクランド陛下の申す通りで良いじゃろう」
「え?」
改まって公人としての顔になったリーンクロス公爵の台詞に俺は虚を突かれてしまった。
なぜなら、リーンワース王国は交通の要衝である北の大峡谷の価値をもっと高く評価しているはずで、値段の吊り上げ交渉をしてくると思っていたからだ。
それが、俺の出した条件で良いとはどういう風の吹き回しなのだろうか?
いや、もしかして思ったより残金が大きかったか?
ちょっと意図が掴めないぞ。
「その代わり、別の国の戦争捕虜を戦争奴隷として引き取って欲しいのじゃ。
それを以て残金の返済とさせてくれんかの」
どういうことだ?
また別の国の姫を引き取らせようという事か?
「それは
俺の問いかけにリーンクロス公爵はここだけの話と前置きしたうえでとんでもないことを言い出した。
「実は西の回廊からガイアラン帝国に攻め込むことになっての」
「はい?」
ガイアラン帝国はガイアベザル帝国の帝都を含む西側の土地を占有した新国家だ。
つまりリーンワース王国とは西の回廊を通じて隣国となる。
あの
「ガイアラン帝国の奴らは火薬砲を持っておるので強気の外交をしておっての。
友好関係を結ぶために姫を寄越せだの、傾いた国を復興させるために格安で譲渡した援助物資の代金を踏み倒したりとやりたい放題なのじゃ」
リーンクロス公爵も、彼の国には呆れ果てているようだ。
「元々彼の地は魔物に蹂躙された後、クランド陛下が魔物を退治したおかげで平和が訪れた地じゃ。
その手柄を勝手に奪っておいて何が最強国家じゃ!」
どうやらガイアラン帝国の皇帝が自ら魔物を退治したと喧伝して国を興したらしい。
そういえば、ガイアベザル帝国の遺跡を調べようとした時に既に新国家が興っているので立ち入るなと追い返されたことがあったな。
あれがガイアラン帝国だったのか。
「なるほど。それは俺も反省しないとなりませんね。
あの時、解放と占領を同時に行っていれば面倒なことにならなかった。
我が国には人材が乏しかったので、占領するだけの人的余裕が無かったのです」
「そんな時こそ、わし等を頼ってくだされば良かったものを……」
そうか……。リーンワース王国に占領を依頼すれば良かったな……。
リーンワース王国は人口が多いから陸上兵力としては我が国を上回る存在だった。
まあ、貴族に程度の悪い連中がいるのが困りものだが……。
「考えが至りませんでした」
「今回、ガイアラン帝国が軍事力を背景に
攻め込まれる前に攻め滅ぼそうということになったのじゃ」
それで陸上駆逐艦を修理して欲しいと。
だからリーンワース王国は俺との交渉で譲歩したということか。
確かにガイアラン帝国はめんどくさそうだ。
リーンワース王国がどうにかしてくれるのならば、俺が支援するのも吝かじゃない。
「わかりました。
そうとなれば、なるべく早く陸上駆逐艦は修理しましょう。
ところで、戦争奴隷で支払いというのはまさか……」
「うむ。その戦争での捕虜のことじゃな」
やっぱりそうか!
元々ガイアベザル帝国の者で、せっかく平和になったのに他国を侵略しようとする厄介者を奴隷とはいえ受け入れるのは嫌だな。
「それは遠慮したいです」
「そうか……」
リーンクロス公爵が顎に手を宛てて考え込む。
そして、はたと名案が浮かんだようで話しだした。
「ならば奴らに奴隷化されていた者たちを引き渡すのはどうじゃ?」
ああ、もしかするとそこにまだ我が国の国民が含まれているかもしれないな。
「それならまだ受け入れ可能ですね。
元々その地の人でなければ、おそらくガイアベザル帝国の被害者でしょうから」
当時は考えが及ばなかったけど、こういった人たちを解放せずに立ち去ってしまったのは俺の落ち度だ。
喜んで受け入れよう。
「助かる。
出来れば東から圧をかけてもらえると……。
いや、それは望み過ぎじゃな」
リーンクロス公爵は、俺にも戦争に協力して欲しいと言いかけたようだが、そのまま口を噤んだ。
おそらくこれ以上の成果は得られないと思ったのだろう。
たぶん、北の大峡谷を俺に譲ったのも、北の大峡谷の防衛を
リーンワース王国は二正面で戦うことを嫌い、西の回廊に戦力を集中し主戦場とするのだろう。
もし、ガイアラン帝国がリーンワース王国の背後を突こうと北の大峡谷を侵犯しようとすれば、
借金が減り、さらに利も得る一石二鳥か。
なるほど、やっぱりリーンクロス公爵の爺さん、ただでは転ばない狸だな。
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