第199話 決意

「ご主人様、制圧しましたー♡」


 陽葵ひまりが右手で商人風の男の襟首を掴んでズルズルと引き摺っていた。

男は両ももと両腕をレーザーか何かで貫かれて行動不能に陥っていた

しかもご丁寧に魔法が使えないようにと魔法枷という魔導具が両腕に嵌められている。

【探知】による男の表示は赤、先ほどから反応のあった敵対者その人だった。


陽葵ひまり、敵対者を制圧しろと言ったけど、これは何かな?」


 俺は穴の開いた太ももと腕を指差して訊ねた。


「制圧だよ?」


「……。次からはもっと穏便に制圧出来るかな?」


「怪我させちゃダメなの?」


 アニメ声で小首を傾げる仕草があざとい。


「取り押さえる程度にして欲しいかな」


「わかった」


 あの穴は戦闘用の700番代ゴーレムが装備しているレーザーより高性能な光線兵器で撃った痕なんじゃないだろうか。

そういや陽葵ひまりの中身は第13ドック謹製のスペシャルゴーレムだった。

なんだかこいつを野放しにしてはいけない気がして来た。


「俺は何もしていない……。助けてくれ……」


 男がか細い弱々しい声で訴えて来る。

でも残念。敵対者であることは【探知】でバレバレだ。

【鑑定】でもガイアラン帝国の工作員って称号が見える。

どうしよう。

牢屋に入れておいても無駄飯食わすだけなんだよな。

そうだ。このまま釈放して、ここの警備の恐ろしさを伝えてもらおう。


「怪我させて悪かったな。ほれ【ヒール】」


 俺は【ヒール】で男を治療してやった。


「だが、君はステータスで工作員だと判明している」


 男は俺の魔法で一瞬で傷が癒えたことと、隠蔽したはずの称号がバレていることに驚いていた。


「このまま入国させるわけにはいかない。今後出入り禁止だ。

連れていけ。魔法枷は城壁の外ではずしてやる」


 俺は城壁の外へ男を追放するようにと、数少ない警備の人間に命じた。


陽葵ひまり、この程度なら捕まえて事情聴取して釈放だ。

傷つけたり殺したりするのは相手が行動を起こしてからだ」


「わかったー」


 本当に理解したのかは疑問だが、陽葵ひまりは警備の者について男の後を追った。

まさか男が行動を起こすのを待っているのではあるまいな?

ああ、男が城門の外で処刑されるんじゃないかとビビってるじゃないか……。


 困ったことにガイアラン帝国を名乗る新国家は、ガイアベザル帝国亡き後を取って代わろうと侵略の手を緩めていなかった。

彼らはガイアベザル帝国でも末端の者たちだったようで、キルナール王国の艦隊がガイアベザル帝国の艦隊を蹂躙していた事実を知らないようだ。

たしかにガイアベザル帝国の民衆にとって、国を滅ぼしたのはMAOシステムが生み出した魔物の軍勢だろう。

南の大地に侵攻したガイアベザル帝国が、どのような目にあったかなんて知りもしないのだろう。

魔物を討伐したのがキルナール王国の艦隊だという事も知らないらしい。

うちの持っている陸上戦艦がガイアベザル帝国程度の戦闘力であると思えば、自らが所持し数を増やしている火薬砲でなんとかなると思っているふしがある。

やめて欲しい。

あまりにオーバーキルだから対人で陸上戦艦を使わないだけで、いざとなったらガイアラン帝国を100回は滅亡させられる。

奴らの王に「その装備で大丈夫なのか?」と聞いてやりたい。


 今後も人による攻撃が続くことになるのだろうか?

そうなると陽葵ひまり型の【探知】装備のメイドゴーレムを増やした方がいいんだろうか?

あ、陽葵ひまりに【探知】させてメイドゴーレムに制圧を指示させるか。

いや制圧は良くない。メイドゴーレムたちも第13ドック謹製だ。

自重させないととんでもないことになる。

今後は制圧と言わずに逮捕と言い換えよう。


 【探知】で敵対者だと判明した自称商人の男は、陽葵ひまりにより体術と攻撃魔法を使用させられたことで正体を露呈しステータス内容が変化したことが判明した。

ステータス偽装だったのだろうか、商人と偽装されていたJOBが正体を晒した瞬間にガイアラン帝国工作員となった。

やはりいくらステータスをチェックしても偽装がある限り無駄だということだろう。

いっそ奴隷化された国民を連れて来るダンキンの所以外は出入り禁止にして鎖国しようか。

いや、ここに攻めて来る魅力がなければいいのか。

ここが攻められる理由は、魔導具と陸上艦か。

それと俺の甘い対応か。

キルト王国解放は俺の手で行ったため人命を極力守って戦った。

グミ弾を利用したのもその一環だ。

だがルナトーク王国とザール連合国に向かわせた艦隊は自国を荒らす不届き者たちを武力で粛清して回ったという。

次に同じことをしたら同じ目にあうという恐怖による平和維持。

それがこの世界では有効なのかもしれない。


「ああ、失敗したかな」


 俺はまた工作員解放という失敗をしたのかもしれない。

陽葵ひまりによる攻撃は、あの工作員個人には恐怖を植え付けることになっただろうが、それを身を以て経験していない者には通じない可能性がある。

むしろ工作員を生きて帰したことにより次に来る工作員も生きて帰れる甘い国だと思われるかもしれない。

俺はそのことに気付いてえらく落ち込んだ。


「それが主様の良い所ではないのか?」


 俺の様子を心配したのかサラーナが隣に来て慰めてくれた。


「わわわん、わわわん、わんわんわん(ご主人、ご主人、プチも警備する)」


 プチも身体を擦り付けて慰めてくれる。

それに焼きもちを焼いたのかサラーナも俺に抱き着いて来た。

いつのまにか、ここに残った嫁たちが代わる代わる抱き着いて来た。


「そうだ。俺がやろうとしていたのは家族を守ることだった!

方法なんてどうでも良い。結果が大事だ」


 俺は家族と幸せにスローライフを続けることが目的だったと再認識するのだった。


「よし、ズイオウ領は鎖国だ!」


 国に入れるのは奴隷解放されるために集められた3国の国民だけ。

あ、ダンキンの商会だけは出入りを許そう。

これまでダンキンだけは問題を起こしていない。

それに解放奴隷を連れて来る事業はダンキンの所が一手に引き受けている。

いちいち出入りを制限していたら帰還事業が回らない。

そこは今の警備人数でもなんとかなるだろう。


 新たに商国からも帰還奴隷がやって来る。

彼らはルナトーク王国に直接帰還させよう。

受け入れ先が近い方が良いだろうし、怖がられていた方が開放も早まるだろう。


 ズイオウ領へと商売に来ている者たちは我が国が生産する食料や物産が目当てだ。

今でも食料は自動工場により過剰生産されている。

それを輸出するのは問題ない。

こちらも不足している物資は輸入したい。

それを行うには城壁の外に商談スペースがあれば良いだろう。

所謂長崎の出島のようなシステムをつくれば良い。


 国民たちは解放した祖国に帰ってもズイオウ領ここに残っても良い。

各国を回る陸上輸送艦による連絡便を増便しよう。

いつでも国民がズイオウ領ここに帰って来れるようにしておこう。

ズイオウ領ここがキルナール王国の首都だと、いやキルト、ルナトーク、ザールの3国の国民がキルナール王国民だと自覚できるようにしていこう。

そのためにはズイオウ領ここと遠隔地の物資の流通や人の動きを活発にしよう。

分割された国土が常に繋がっていると意識できるように体制を整えよう。

ここから3国の復興を支援すれば、そのうち戻ってくる国民も増えるに違いない。

食料や衣服の生産工場はズイオウ領ここが最大だ。

出稼ぎでも良いから人が留まってくれれば、また賑やかになっていくだろう。

人が増えれば警備に割く人員も増やすことが出来る。

ズイオウ領ここを旧祖国より魅力のある街に発展させよう。

そうすれば、いつかは鎖国を解くことが出来るようになる。

あ、最近の教科書では、これだけ外と接触している状態を鎖国と言わなくなったんだっけ。

何か良い言い方は無いものだろうか。

入国制限? しっくり来ないな。

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