第198話 趣味全開

 俺の【探知】に反応の出た敵対者が、この街までやって来るには時間がまだある。

とりあえず、メイドゴーレムに【探知】の魔導具を装備させておこう。

魔導具には魔宝石という制御用の石を利用する。

そこに特定の魔法なりを魔法陣化して付与することで魔法を実行させるのだ。

俺は魔宝石をそこらへんの石から創造すると、制御用の魔法陣を書き込んだ。

これに燃料石を接続すれば【探知】の魔導具の出来上がりだ。


 この世界、魔導具と魔道具という二つの魔法道具がある。

発音は魔導・具と魔・道具という感じで使い分ける。

魔導具は魔宝石と燃料石を組み合わせた燃料石さえ交換充填すれば半永久的に使えるもの。

魔道具は属性石と呼ばれる地水火風光闇の属性を持つ魔石を利用した使い捨てのものを指した。

俺は魔導具程度ならば、魔導の極みと生産の極みのおかげで簡単に作ることが出来るのだ。


「よし完成だ。

設定は俺と家族、国や役人に対する悪意を持つ者を赤表示でいいだろう。

その赤表示の人物をメイドゴーレムに制圧してもらおう」


 謎の判断方法による敵対者の探知。

これには神の視点の判定結果が反映しているのだろうか?

或いは一人一人の当事者本人の心を覗いて判断しているのか。

どっちにしろ人間技ではなかった。

それが魔法の一言で納得させられるのがこの世界か……。


「よし。魔導具を実装したぞ」


 俺はメイドゴーレムに【探知】の魔法を付与した魔導具を搭載し、不審人物を探し出すセンサーとしてメイドゴーレムを制御している魔宝石に繋げた。

あとはゴーレムのシステムがデータを活用してくれれば完成……。

いや、このメイドゴーレムはスペシャル個体だ。

他と混同しないように外観も変える必要がある。

身長、体形、スリーサイズ、髪の色、髪の長さ、目の色、顔の造形いろいろ弄ってカスタムメイドとするのだ。


 あ、なんかオ〇エント工業じみて来たな。

よし、メイド服も秋葉原のメイドさん風で……。

服の製造も生産の極みでどうとでもなるのだ。


 そこには魔導の極と生産の極を最大限に発揮した趣味全開のダッチワイ違う!――メイドさんが完成していた。

チャームポイントは丸眼鏡。腰までの黒髪に秋葉原メイドさん風ミニスカメイド服を着ている。

顔はアイドル数人の良い所どりでバランス重視のお嬢様系にした。

声もアニメ声だ!


「すみません。調子に乗りました……」


 いざ完成してみると製作中のノリが恥ずかしくなるという典型例だった。

気を取り直して実験だ。

現在、城壁へと近づいて来る敵対者がいる。

その対処をこの特別製メイドゴーレムにさせる。


「ああ、名前が無いと命令するのにも面倒だな」


 名前か……。日本人の外観だから日本的な名前で……。

そうだ。子供に付けたい名前全国1位の陽葵ひまりにしよう。

ほんの数年前までは陽菜ひなだったのだが、時代は変わったようだ。


「今日からお前の名前は陽葵ひまりだ。

いま、ここに敵対者が接近中だ。

おそらく一般人に紛れ込んでいるはずだ。

その敵対者を他の者に被害が及ばないように制圧しろ」


「かしこまりましたです~。ご主人様~♡

ひまり、行ってきま~す」


 この時俺は、改造した外観に惑わされて、陽葵ひまりが元第13ドック謹製だったことを失念していた。

あの「制圧」という言葉によって何が起きるのか、俺は想像すらしていなかった。



 ◇



「敵対者確認しました。単独行動のもようです。

周囲への影響小とみなします。

ひまり、制圧行動に入ります」


 機械的な感情の籠っていない声で陽葵ひまりが呟く。

まるで軍事的な訓練を積んだことがあるような雰囲気を醸し出していた。

アニメ声なのが台無しだが。


 陽葵ひまりは【探知】により敵対者と認定された商人風の男の前に一瞬で詰めると、ラリアットのようなかたちで右腕を男の首にかけ引き倒した。


「カハッ」


 男は首を軸に後方に一回転するとゴロゴロと転がって行った。

喉が詰まって変な声が出ている。

しかし、男は受け身を取って陽葵ひまりの攻撃を軽減させていたようで、直ぐに体制を整えると陽葵ひまりに向けて【ファイアボール】の魔法を放った。

その火球を陽葵ひまりは軽く手で打ち払う。

男と陽葵ひまりは距離を置いて対峙した。


「何しやがる!」


 突然の暴力に男が怒りの声を上げる。

当たり前だ。男はまだ・・何もしていないのだから。

男は北の大地で興った新国家の所謂破壊工作員だった。

ガイアベザル帝国亡き後に、その支配地域と技術を乗っ取り、新たな王を立て、その残された武力で他国を侵略し続けていた。


 このキルナール王国のズイオウ領にやって来たのも、噂の陸上戦艦や魔導具の技術を盗むのが目的で、あわよくばクランド王を亡き者にして国を乗っ取ろうと画策していた。

この首都は人口が激減して警備も緩くなっている。

男が活躍するには打って付けの場だった。

これは簡単な仕事になりそうだ。

そう思っていた矢先、何もしないうちから変な女に攻撃を受けたのだ。


「貴方を我が国の敵対者と認定しました。

大人しく制圧されてください」


「何を言う。俺はしがない商人だぞ!」


「語るに落ちましたね~。

商人がそんな体術を使うわけないじゃないですか~!」


 陽葵ひまりは警戒態勢を解き、元の間延びした話方になっていた。


 それに誘導されたのか、男は一瞬しまったという顔をしてしまった。

どうやら全てお見通しらしい。どこからバレたのか?

男はその可能性を脳裏で検索していた。

思い当たるふしは無いが、ここは一つ逃げるしかないか?

男がそう考えていると、陽葵ひまりが攻撃態勢に入った。


「えいっ☆ ふぉとんれーざー」


「ギャーーーーッ!!!!」


 陽葵ひまりの右腕から光の線が男に向かった。

その光の線は男の両太ももと両腕を貫き行動不能にしていた。


「これ以上抵抗しないでくださいね♪」


 男は陽葵ひまりに引き摺られ城門をくぐることになった。

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