第189話 対ボルテア公国1

 俺は早速ボルテア公国が占領している国境の街バロルトに赴いた。

使者を送ることも考えたが、その使者に危害を加えられる恐れがあったので直接接触することにしたのだ。

この世界、使者を殺して首を送りつけて来るなんて普通に行われ得る文化レベルなのだ。


 国境の街バロルトはボルテア公国の駐留軍が進出し占領されていた。

その駐留軍に向かって俺は陸上巡洋艦エリュシオンの拡声器を使って要求を伝えた。


「我々はキルト王国正統後継国家のキルナール王国の者だ。

貴国は我が国の領土を侵犯している。

速やかに我が領より退去し国境を回復せよ」


 俺のその声明に対して、街の城郭から火薬砲が撃ち込まれた。

大した攻撃ではないので防御結界も作動せずに舷側装甲で受け止めた。

もちろん被害なし。ペンキが少し剥げたか?


「今はここが国境線だ。失せろ!」


 男が拡声魔法で答えて来た。

どうやらボルテア公国の駐留軍指揮官らしい。

陸上艦の力は北のガイアベザル帝国に見せつけられているだろうに、どうしてそんな強気に出られるのだろうか?


「この地の魔物は我らが駆逐した。領土を回復したのは我らだ。

貴国が勝手に進駐するのは侵略行為となり、こちらも対応せねばならない。

それは貴国の君主の意思だと思って良いのだな?」


 これで「そうだ」とでも言われたら戦争だよなぁ。

まあ、奴にどれだけ権限があるのかわからないが、敵対行動の落とし前はつけないとならないよな。

弱い相手を蹂躙するのって趣味じゃないんだけどな。


「おいおい、舷側砲も持たないお前らに何が出来ると思っているんだw

いいだろう。戦争だ。我らが帝国から得た力を見せてやる!」


 え? 舷側砲が無いから武装が無いと思っているのか?

そういえば、北の帝国の陸上艦は上甲板の魔導砲が御飾りダミーだったな。

使える艦も故障が不安で滅多に使わないらしいし、まさか使えると思ってもいないのか?


「城郭から発砲炎!」


 敵の火薬砲がまた撃ち込まれる。

爆裂弾が当たる前に今度は防御魔法の魔法陣が展開した。完全に無傷だ。

しかし、次から次へと火薬砲が撃ち込まれて来る。

どうやら戦端が開いてしまったようだ。

しかし、俺たちが魔物を駆逐したんだから、それ相応の戦闘力があるとどうして理解出来ないのだろうか?

仕方ない。上甲板の砲が御飾りでないと見せつけてやろう。

百聞は一見に如かずだ。


「対空重力加速砲水平発射用意。目標、敵火薬砲。発射!」


 片舷4門の対空重力加速砲が目標をロックオンして精密射撃を始める。

ブンという発射音が連続し、ブブブブというように聞こえる。

その音に合わせて城郭の火薬砲がスクラップになっていく。

ほんの数秒で城郭上の火薬砲は沈黙した。


「お前では話にならん。ボルテア公国本国に俺が行くと伝えろ。

次は魔導砲を撃ち込むぞ?」


 俺の合図で街の側にある巨岩に魔導砲の光収束熱線が撃ち込まれた。

どろどろに溶けて爆散する巨岩を見て駐留軍指揮官は慌てて連絡用ワイバーンを飛ばした。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 国境の街バロルトに陸上駆逐艦1艦を残し、俺たちはボルテア公国王都にやって来た。

連絡用ワイバーンを追い抜かさないようにしたので、遅くて退屈な道中だった。

陸上駆逐艦を残したのは街の住民に駐留軍が危害を加えないように見張らせるためだ。

陸上艦の戦闘力にビビった駐留軍指揮官を放っておいたら最後に何をしでかすかわからないからだ。

彼にはもう全滅か撤退かしか選択肢がないのだ。

目を離せば、街で最大限の利益を確保した後で撤退という迷惑な行動に出るだろう。

そこで迷惑を被るのは住人以外の何者でもない。


 ボルテア公国王都に着くと、俺たちを歓迎・・するためにボルテア公国は王城の門を開いて待っていた。


「公王陛下が使者の方と謁見される。

船を降りて参られよ!」


 ここは公国。国王ではなく公王が治めている。

公王とは王の親族である公爵が自らの領地をそのまま国とし王を名乗った場合の呼び名だ。

つまり親戚筋の本家ともいえる王国が後ろに控えているということになる。

戦争になれば、そことも自動的に戦うことになるだろう。


 俺たちは陸上巡洋艦エリュシオンを降り、装甲車で王城前まで乗り付けた。

装甲車は北の帝国でも稀に使われていたそうで、属国化していたボルテア公国では多少馴染みがあったようだ。


 後部扉が開いて護衛騎士たちが装甲車を降り、周囲を警戒する。

護衛隊長は祖国奪還に燃えるターニャだ。


「クリア」


 護衛騎士が安全を確保し周囲を警戒する中、ターニャが装甲車のドアを開き俺に声をかける。


「陛下。安全です。お降りください」


 歓迎されているようだが、安心できないということだろう。

ここは敵の真っただ中なのだ。


「お待ちしておりました。

使者の方にはこれより公王陛下と謁見していただきます」


 公国の案内人である騎士の言葉にターニャが反応する。


「この方はキルナール王国国王のクランド陛下だ。

対等な王としての対談を要求する」


 迎えに来た騎士の言に、護衛隊を指揮しているターニャが口をはさんだ。

王が他国の王に謁見させられるなど、下に見られたのと同じなんだそうだ。


「申し訳ございません。

国王陛下自ら交渉に参られたとはつゆ知らず、失礼いたしました」


 騎士は礼節を重んじてきちんと謝罪すると、しばし待って欲しいと伝え王城に消えた。

俺たちは応接室に案内され、しばし待たされた。

その後の対応としては、急遽時間をとり、謁見ではなく対談の準備が整えられることになった。


「お待たせしました。それではご案内いたします」


 別の案内の騎士に連れられて、王城内を進んでいく。

どうやら謁見の間ではなく、王族が公式な対談をする貴賓室のような場所に連れていかれるようだ。


 案内の騎士が大きな扉の前に俺たちを連れて来ると口を開いた。


「どうぞこちらにお入りください」


 開かれた大扉の向こうには公王と思われる男と護衛騎士が立って・・・待っていた。

先に部屋にいるということは歓迎の印、そして立っているということは対等であるという意味だった。

俺たちはほっと胸を撫で下し安心して室内に入って行った。


 しかし、その時、視界が光に包まれた。

罠だ。俺たちを待たせたのはこの罠を設置するためだったのだ。

俺たちの周囲から攻撃魔法が撃ち込まれていた。

飛んで火にいる夏の虫、敵の首魁がほいほい罠に誘い込まれたのだ。

公王の顔がニヤけるのが目の隅に見えていた。

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