第186話 後始末1
魔物の湧き点を破壊した俺たちは、航空巡洋艦ライベルクを現地に残し、魔物の大群の迫るズイオウ領に俺の【転移】で戻って来た。
俺たちはいま、キルトタルの前甲板にある転移魔法陣の上にいる。
俺の【転移】は行ったことのある場所ならば任意の場所に行ける。
だが、キルトタルの前甲板にある転移魔法陣は【転移】の魔法を補助することが出来る。
省エネであり、転移先としての正確性も保証されるため、あえて利用している。
「インベントリから陸上艦を中央広場に出す。
皆、各艦の乗組員で固まってくれ、俺が【転移】で艦まで運ぶ。
まずはアークツルスだ」
俺の指示を受け、各々が各艦ごとの小グループに分かれる。
彼らが乗る陸上艦を、キルトタルの前にある中央広場に1艦ずつ出し、俺が【転移】で乗組員を運んでやり出撃させていく。
キルトタル前の中央広場は陸上艦を一度に全艦出せるほど広くないため1艦ずつになってしまう。
その事がもどかしい。
このような事をしなければならないのは、生き物をインベントリに入れることが出来ないからだ。
なので艦隊を運ぼうとするならば、乗組員を全員降ろして陸上艦を収納、乗組員ごと転移してから陸上艦を出して、そこまで乗組員を運んで乗せるという手間がかかるのだ。
俺の【転移】を使えば、ズイオウ山西側の戦場に転移して、そこに全艦を出して乗組員を転移させることも可能だが、さすがに魔物の前に動けない陸上艦を出すわけにはいかなかった。
これは今後のために陸上艦を泊まらせる港を設置する必要があるな。
「各艦、ズイオウ山の西側に展開、接近する魔物に備えよ。
山頂魔導レーダーとリンクし情報を逐一入手するように」
そう告げながら出撃させる。
俺たちが転移して来たのは、ズイオウ領の市街地が広がるズイオウ山東側だ。
なので各艦の魔導レーダーは死角となって西側の魔物が探知できない。
パッシブレーダーが探知可能だが、魔物が多すぎると大きな塊と認識されてしまうため、あまり役に立たないのだ。
なので山頂魔導レーダーの情報で補う必要があった。
全艦インベントリから出し終わり、最後に俺もエリュシオンに乗った。
艦橋に上がると魔導通信機から声が聞こえていた。
『こちらアークツルス、山頂魔導レーダーにて敵の撤退を確認、繰り返す。
こちらアークツルス、山頂魔導レーダーにて敵の撤退を確認~』
ああ、俺がエリュシオンに乗るまで魔導通信の内容を把握できないというのも考え物だな。
アークツルスは一番初めに山頂魔導レーダーとリンクしたので、その情報を得て直ぐに魔導通信を送ったはずだ。
だが、俺が一番最後にエリュシオンに乗ったため、それまで気付けなかったのだ。
これも今後の課題となるだろう。携帯通信機みたいなものがあればいいのか?
陸上艦各艦に乗組員を運ぶのもキルトタルの前甲板にある転移魔法陣を利用したので、キルトタルの艦橋にある魔導通信機でも受信していたのだろうが気付けなかった。
運用上の問題がかなりある。
『こちらエリュシオン。了解した』
さて、こちらも山頂魔導レーダーとリンクだ。
何がどうなっているのやら?
山頂魔導レーダーからは、リアルタイムのデータと少し前に遡ったデータが送られて来た。
それによると、ズイオウ領に接近して来ていた魔物の群れが、丁度俺たちが魔物の湧き点を攻撃し始めた頃に進撃を停止し撤退に移行したことがわかった。
整然と西の海岸線へと向かっていた魔物たちの様子が変わったのは、丁度俺たちが魔物の湧き点を撃破しただろうか。
いきなり魔物たちは統率失い、四方八方にバラけ出す様子が確認できた。
「これは魔物を制御していた何かの頸木が外れたということか?」
魔物が統率を失ったのなら、見つけ次第各個撃破すればいい。
どうやら陸上艦を執拗に狙う様子も伺えない。
てっきり魔導機関の魔力を餌にしているため、意図的に狙っているものと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
魔物は何者かの明確な指示を受けていたと見た方が良いのかもしれない。
これなら単艦でパトロールして魔物を撃破していけば、
「となると、魔物の湧き点を調査しないとならないな。
何が魔物を狩り立てたのか、それを調べなければならない」
だが、そのためには、バラけた魔物たちを殲滅する必要がある。
野良でも、遭遇すれば脅威なのだ。
それが組織立って攻撃してくることが無くなっただけだ。
「少なくとも、南の大地に侵入した魔物は撃破しないと動けないか……」
湧き点にはライベルクがいる。
何か変化が無ければズイオウ領の安全確保に重きを置こう。
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