第187話 後始末2
お知らせ
間違えて、明日の分も公開してしまいました。
第186話が今日の分です。
読み飛ばしてしまった方は申し訳ありませんが戻っていただけると幸いです。
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俺たちは、臨戦態勢を解いて陸上艦をズイオウ領の外壁の外にある駐機広場に降下させ、山頂レーダーの探知データを観察していた。
何があるかわからないので、まだ待機状態は継続中だ。
航空巡洋艦ライベルクからの魔導通信で、魔物が湧き点に帰還しつつあることが判明した。
どうやら湧き点が襲われたことで魔物に帰還命令が出ていたらしい。
しかし、魔物たちはその帰還目的を忘れてしまったのか、或いは理解していいない様子で、攻撃してくるでもなくバラけだしたそうだ。
「このまま魔物を放置するわけにはいかないだろうな」
俺は、いま旗艦エリュシオンの艦橋にいるのだが、たまたま領地運営の報告に来ていたアイさんに、何とはなしに質問をぶつけた。
「魔物は空腹になれば人や家畜を襲います。
野に放たれた魔物はB級からS級まで危険度が高いものばかりだと聞いています。
これらの駆逐は今後の平和のために必須でしょう」
「だよね。でも、キルト王都での魔物は統制がとれていて一般人は襲わなかったそうなんだよな」
「それは不思議ですね。よっぽど強い支配下にあったのでしょうか?」
支配か。たしかに湧き点が破壊されたことで、魔物は頸木が外れたかのような行動をとっている。
火竜が爆弾を放棄し、ツインホーンライノは背の大砲を煩わしそうに岩に擦り付けて外そうとしていた。
ブラックウルフのような牙や爪を強化された魔物はそのままなので、危険度は増したままだが……。
ライベルクからの報告でも帰還命令を完了した魔物が目的を失っている様子も伺える。
統率されていたことは脅威だったが、むしろ今後は統率されていないことが民衆への脅威となりかねない。
組織的な攻撃はない――群れを作る魔物は元に戻っただけのこと――というのが唯一の救いか。
「よし、このまま第一、第五、第六の3つの戦隊で湧き点までのルートを掃討して行くことにしよう」
とりあえず数日間はズイオウ領の防衛のために留まって警戒しておこう。
皆も疲れているだろう。戦隊ごとに随時休みをとらせようか。
◇
あれから3日、ズイオウ領への脅威は去ったと断定した。
その間俺は嫁と会えなかった時間を埋めるように家族サービスをした。
プチも思いっ切りモフモフさせてもらった。
俺の家族が襲われるかもしれない脅威を完全に排除しなければならないと、決意を固めたのは当然の成り行きだろう。
これから俺たちは戦隊ごとに魔物を駆逐して回る。
第五戦隊は南の大地に広がった魔物の殲滅、第六戦隊は北の大地西部の魔物の殲滅。
そして第一戦隊は砂漠地帯ならびに湧き点付近の魔物の殲滅を任務とした。
ズイオウ領は新設の第七戦隊の一部――3艦の駆逐艦が竣工した――を中心に防衛することになった。
特攻で失ったパンテルの乗員は第七戦隊の新造艦に乗り組むことになった。
第13ドックにはズイオウ領に出ていた防衛艦隊を戻す。
「我々第一戦隊は、大峡谷を抜けて、まずキルト王都に向かい領土を回復する。
まずは王都を魔物から奪還する」
井戸部分にサンドワーム対策をすれば、後は小さな魔物を退治するだけでキルト王都の守りは完璧になる。
そこから魔物を退治し続ければ、いつか国土を取り戻せるだろう。
そうなるとザール連合国も領土を復活させないとならないな。
国民は皆、元の土地に帰りたがるかもしれない。
せっかく建国したキルナール王国だが、国民がいなくなってしまうかもしれない。
スローライフを求めるにはそれも致し方ないかもしれないな。
俺には家族さえ居てくれればそれでいい。
◇
魔物の殲滅を続け、それなりに平和を取り戻すことが出来た。
俺は先延ばしにしていた魔物の湧き点を調査しに向かうことにした。
本来なら真っ先に確認しなければならない場所だったが、航空巡洋艦ライベルクからの報告で施設の完全破壊を確信したため、魔物の殲滅を優先し後回しとなっていた。
今回は詳細調査のため、第13ドックからセバスチャンと同等の性能を持つ執事ゴーレムが派遣されて来て同行している。
「施設の構造的に、この先が制御区画かと思われます」
パンテルの特攻でほとんど灰塵と帰した施設の最奥部にその制御区画はあった。
制御装置には銘板が嵌められている。
「Machine Animal Orga……。
まさかのアルファベットに英単語、先は読めない。
だが、頭文字が
これが魔王の正体か。
結局、召喚された地球人同士がその技術を使って争った名残ってことなのか。
どちらが正義ということもなく生き残った方が勇者となっただけのことなんだろうな。
皮肉にもMAOの名を冠する装置を使った方が魔王にされた。
いや、むしろ開き直って魔王を自称したのかもしれない。
「制御装置は物理的に破壊され完全に沈黙しています。
データをサルベージ出来るかどうかは第13ドックに持って帰らなければ判明しません」
いや、これを持って帰ってそのデータに第13ドックが浸食でもされたら目も当てられない。
MAOはここで完全に眠ってもらおう。
「いや後顧の憂いを無くすために、これは破壊する。
二度と再生しないようにする」
「わかりました」
これで魔王は未来永劫復活しないだろう。
いや、他のMAOシステムが何処かに残っているかも……。
◇
やっかいな仕事が一つ残っていた。
リーンワース王国の陸上駆逐艦の処遇だ。
首謀者と主戦力を失ったため、クーデターは失敗に終わり、リーンワース王は国に戻った。
友好国であり、王は義父でもあるが、このまま陸上駆逐艦を渡すには、配下の貴族にアホが多すぎる。
陸上駆逐艦の戦力は、王城に配備された戦力で対抗できる程度に抑えなければならない。
残った艦は4艦のみ。
我が国にとっては脅威となり得ないが、リーンワースの王宮に向けられたら脅威となってしまうだけの力を持つ。
うちの関係各所と同じように武器使用の場所制限でもかけるか?
いや、そうすると他国――特に南の蛮族の地とか――を攻めかねない。
頭が痛いところだ。
「リーンクロス公爵、次はまともな人選にしてくださいよ?」
「わかっておる。1艦は儂自ら指揮を執ることにした。
もう1艦はリーンワース王が王城の護りに使う」
「なら、その2艦だけ多少強くしておきましょう」
配下の貴族が信用できないなら、これぐらいしかやりようがない。
なさか、王と公爵まで信用できないのなら、この国を滅ぼすしか無くなってしまう。
「よろしく頼む」
こうしてリーンワース王国の陸上艦は王家専用1艦、公爵専用1艦と国防軍2艦という体制になった。
まあ、うちの国が攻めなければ安泰だし、クーデタ―も跳ね返せるだろう。
代金は中破2の修理と武装強化2だから、それなりに払ってもらうからね?
以前の分も忘れないでよ?
そろそろ奴隷に落ちた国民の救出も頭打ちだ。
リーンワース王国は、代金を何で払うつもりだろうか?
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