第184話 魔物の遺跡

 マッハ2で魔物の支配地域を飛び抜けた俺たちの艦隊は、魔物が湧いていると思われる大陸北部の山岳地帯にやって来た。

ここには、この惑星の北極部分を山頂とする山脈が聳えており、この大陸からも惑星の裏側の海洋からも北はこの山脈に至るという地形になっている。

その山脈の裾野、北の大地の北西部に魔物が湧く遺跡があった。


『各艦、対空監視を厳とし、魔導砲の光魔法【光収束熱線】を遺跡に撃ち込め!』


 全20門の魔導砲が【光収束熱線】を発射する。

地上からはベヒモスやツインホーンライノの砲撃が陸上艦を狙っている。

今はかろうじて防御結界が効いているが、いつまでもつかはわからない。


『第6戦隊は魔物を魔導砲の火魔法『火炎地獄インフェルノ』で焼け!』


 各艦、火竜による爆撃を対空重力加速砲で迎撃しつつ、艦載重力加速砲で地上の魔物にも対処する。

第1戦隊と第5戦隊はそのま遺跡を魔導砲の威力で掘り返していく。


『遺跡、隔壁露出!』


 光魔法が土砂を焼き剥がし、第13ドックのような隔壁が露出した。


『魔導砲を土魔法『徹甲弾アーマーアップ』に換えて撃ち込め!』


 隔壁を土魔法の徹甲弾が撃ち抜きボロボロにしていく。

ついに遺跡の内部が露出した。


『火魔法『火炎地獄インフェルノ』で遺跡内部を焼け!』


 魔導砲から放たれた燃え盛る炎が遺跡内部を焼く。

ついにスロープから這い上がってくる魔物が途絶えた。


「やったか?」


「グオーーーー!!!」


 そう思った瞬間、雄たけびにも似た咆哮が遺跡内から響いた。

何か巨大な魔物が遺跡から出てこようとしている。


「どうやら、まだ遺跡は生きているようだな」


 地上では第6戦隊が遺跡周囲の魔物を焼き制圧しつつあった。

西の海岸線から南の大陸に渡った魔物たちは、まだここまでは帰って来れない。

明らかな戦力の空白地帯が発生した。


「残るはあの大物か」


 魔物の死骸をかき分けてスロープを上がってくる巨大な影は黒龍だった。

俺はその黒龍をラスボスとみた。

こいつを倒せばもう魔物は湧いて来ない。

そう思いたかったのだ。


『魔導砲一斉発射! 魔法の種類は各艦に任せる!』


 最後の戦いだ。

何が利くかわからない敵には臨機応変でやるしかない。

発射される魔導砲の各種魔弾。

その全てが黒龍に向かい、悉く弾かれた。

艦載重力加速砲も撃ち込まれたが、ダメージを与えることは出来なかった。

黒龍の喉が膨れる。


『ブレスだ! 上空退避!』


 俺は各艦に高度を上げさせて黒龍のブレスを避けさせた。


「ハダルが!」


 第6戦隊の陸上駆逐艦ハダルに黒龍のブレスが掠めた。

しかし、ダメージはそれで十分だったらしく、ハダルは高度を下げて落ちていった。

黒龍は上空の俺たちを睨みつけるが。どうやら次のブレス発射までは間があるようだ。


「(どうする。撤退するしかないのか……)」


 魔導砲も効かず、重力加速砲の弾もはじかれてしまう。

しかも黒龍のブレスは掠めただけで陸上艦を落とす威力があった。

俺たちには成す術はなく、このまま撤退するしかないかと思ったとき、部下から進言が上がった。


『主君、武器が利かないなら、陸上艦の体当たりで倒しましょう』


 陸上軽巡洋艦パンテル艦長のドルマーがそう進言して来た。

たしかにもうそれぐらいしか手は残されていない。

だが、人が乗ったままでそれはさせられない。

俺は決断しパンテルの艦橋に【転移】した。


「ドルマー、全員エリュシオンに移れ、この艦パンテルは自動制御で突っ込ませる」


「わかりました。おい、退艦準備だ」


 ドルマー以下艦橋スタッフ10名と艦内警備の護衛10名が俺の周りに集まる。

【転移】で彼らをエリュシオンに送り、俺は再びパンテルに戻って来た。


「システムコンソール、魔導機関を暴走させられるか?

魔力バーストを意図的に起こしたい」


「可能です。目標は黒龍で宜しいですか?」


「すまんな」


 パンテルの電脳は全てを聞いていて作戦を理解していた。

その作戦が示す結果も……。

俺は【転移】でエリュシオンに戻ると、パンテルの電脳に命令を下した。


『パンテル、発進! 目標黒龍! ありがとう、パンテル』


 パンテルが一瞬でマッハ2に加速する。

そしてそのまま黒龍に体当たりする。

その瞬間パンテルの魔導機関が眩い光を発し爆発した。

意図的な魔力バーストだ。

その爆発は黒龍を消滅させ、魔物の湧く遺跡をも巻き込んでいた。


 パンテル1艦の犠牲により、魔物の湧く遺跡は破壊された。

あとは外に出た全ての魔物を駆逐すればこの戦いは終わる。

その前にズイオウ領に向かった魔物たちを迎撃しないとならない。

この遺跡から出た魔物の本隊は北の大地西部にある北の帝国を滅ぼした後、西の海岸まで出て南下し、そのままリーンワース王国とズイオウ領を脅かしていた。

俺たちが遺跡を強襲したことで、援護に戻る動きがあったが、未だ脅威となっていた。

魔物は魔導機関と旧ガイア帝国の血筋を狙う傾向があるらしい。

リーンワース王国には陸上艦が、ズイオウ領には長距離魔導砲や駐屯艦隊が存在していた。

今一番危険なのは魔導機関が多く存在するズイオウ領なのだ。


 俺は陸上航空巡洋艦ライベルクを遺跡に残し、全13艦の陸上艦をインベントリに収納、降りた乗組員と共にライベルクの前部甲板からズイオウ領の転移陣へと【転移】した。

ライベルクは遺跡の監視のために残る。

もしその場に倒しきれていない強力な魔物が居たり、南の大地からUターンして戻って来た魔物で危なくなったならば、ライベルクにはマッハ2で戻ってくるように厳命してある。

情報だけ手に入ればいいのだ。


「ズイオウ領、間に合ってくれよ」


 もしもの時はキルトタルで逃げるように言ってある。

誰も傷ついていないと良いのだが。

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