第183話 大反攻
西の海岸線に南の大地への侵入経路があることが、魔物に知られたのは痛手だった。
海上は城壁では守れないからだ。
では、海から上陸されないように大陸西側の海岸線を全て壁で覆うか?
そんなバカな対処は出来るはずもない。
中央山脈の西端の部分だけでも城壁で守ったとする。
だが、そうしたとしても広大な海の上を迂回されたら対処不能だ。
まあ、泳げない魔物は排除出来るだろうし、海難事故により魔物が減るかもしれない。
この侵入経路は東の海岸も該当するのだが、東の海岸に出るには大砂漠地帯を通るしかなく、そこを進行できる魔物が限定されることと、砂漠越えは多大な犠牲を払う必要があるため現実的ではなかった。
「救いは移動距離と移動速度か」
あまりにも迂回路が長大過ぎて、足の遅いベヒモスはおいそれと進出出来ていない。
先行している魔物の中心は、足の速い四つ足動物系のようだ。
偵察によると、現在、魔物の4/5が西ルートを移動中とのことだ。
「頭が良いようで、結構魔物は考えなしのようだな」
このまま一気に魔物の湧き点を強襲するという手も打てそうだった。
西から来る魔物の種類ならば魔導砲の火魔法弾で焼き尽くせるだろう。
やかいなベヒモスは移動速度がネックになり、火竜は中継点の確保で進出が遅れるはずだ。
逆に西回りを選択したことで、中央まで戻るのにも時間が必要になる。
リーンワース王国のクーデター軍も囮としては優秀な結果となった。
「西の魔物はズイオウ領に任せる。
第13ドックの防衛艦隊にもズイオウ領の防衛を頼もう。
いざとなったら俺が艦隊をインベントリに収納してズイオウ領まで転移する。
俺たちは北の湧き点を強襲し、一気に決着をつける!」
保険もかけた。勝算もある。
この賭けに勝てば平和が訪れる。
「敵の襲撃を止められず、いよいよになったら、ズイオウ領は放棄して構わない。
全員でキルトタルに搭乗し全速で海外に逃げろ」
そのためのキルトタルだ。
家が動くなら家ごと逃げればいい。
「バカ貴族がやらかしたことを、最大限に利用してやる。
現在の戦力では西の海岸線と峡谷要塞二正面での防衛は不可能だ。
この起死回生の一手以外は我々の負けとなるだろう。
陸上艦のリミッターを解除する。
陸上艦の本当の速度を見せてやれ!」
俺の率いる15艦の陸上艦は北の果ての魔物の本拠地に殴り込みをかけることになった。
これが人類最後の大反攻になるかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
峡谷要塞前に15艦の陸上艦が並んでいる。
魔導レーダーにより魔物の湧き点の位置は既にわかっていた。
そこへ向けて陸上艦が全速力で突入する。
『高度30m、リミッターを解除した最大速度を出す。
障害となるのは火竜ならびにワイバーン等の航空戦力だろう。
その中心を速度に任せて突っ切る。
迎撃は必要最小限に留めよ。弾薬は敵の本拠地に撃ち込む』
全乗組員が息を呑む。
この決死の作戦が失敗すれば人類の負けが決まるのだ。
『全員、状態固定エリアに入ったか?
Gでやられるぞ』
『『『発進準備完了。いつでも発進できます』』』
次々と僚艦の発進準備が完了していく。
『よし、最大速度準備。発進!』
その瞬間、15艦の陸上艦が音速を越えた。
陸上艦は重力傾斜で空中を前方に向けて急速落下していく。
まるでカタパルトで射出されたかのような急加速。
ゼロからマッハ2まで一瞬で増速した陸上艦は魔物の頭上を弾丸のように飛んで行った。
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