第177話 大攻勢
さらに10日後、いよいよ魔物の攻撃が始まった。
この日を予測し、王都の調査に赴いていたキルトの民には、ズイオウ領へと戻ってもらった。
そこには当然サラーナとカリーナさん、王都に捕らわれていたキルトの民も含まれている。
なかなか離れたがらなかったが、安全になればまた来れるのだ。
復興はそれからでも遅くはない。
当然だが、俺の【転移】でズイオウ領へと送り届けた。
キルト王国への復路は食料などの補給物資をインベントリに収納して【転移】で戻る。
これはかなり拙い状況だ。
俺以外に
輸送艦による補給も可能といえば可能だが、補給路は魔物の勢力圏だ。
ベヒモス以外にも砲を持った魔物が存在するし、火竜による航空攻撃もある。
ある程度の数の護衛艦を付けなければ補給路の安全が確保できない。
なので俺が【転移】で物資を運ぶということになる。
俺は陸上戦艦が使用する重力加速砲の砲弾も土魔法で製造している。
通常弾なら第13ドックでも製造出来るが、属性石を使った砲弾は俺しか造れない。
俺への依存度が高すぎる。どうにかならないものか。
道中犠牲になり10体にまで減っていたベヒモスが一斉に進軍を始めた。
俺たちは旧キルト王国王都に造った城壁内で迎撃態勢を整える。
城壁の高さは20m、陸上艦の巡航高度ギリギリだ。
つまり陸上艦が出撃すれば、城壁の上に艦体が出ることになる。
『全艦出撃。防御陣形だ』
俺は陸上艦の出撃を命じ、予め決めていた防御陣形を取らせる。
防御陣形とは、まず城壁の上に制圧火器件対空火器として設置された重力加速砲25門を第一列目とする。
次に駆逐艦11艦を横陣で城壁沿いに一列に並べ、全砲門を敵に向けられるように配置する。
これらの艦により長距離魔導砲4門、魔導砲10門、重力加速砲28門が敵に向けられている。これが第二列目。
長距離魔導砲を備えた航空巡洋艦3艦と重巡洋艦である旗艦エリュシオンがその後方高度40mで艦首を前方に向け第三列目の迎撃ラインを構築する。
ここでは長距離魔導砲6門、重力加速砲16門が敵に向けられる。
さらに城壁から突き出すように聳え立つ高さ50mの2つの塔の天辺には魔導レーダーと長距離魔導砲計2門が配備されている。
この四段構えの布陣が防御陣形だった。
ベヒモスが城壁から25kmの位置に進出して来た。
高度50m――陸上戦艦の場合は甲板までの高さを含む――からの最大射程に入ったことになる。
第三列目の艦からは艦橋上でも視認され、魔導レーダーのアクティブモードでも捕らえらる距離だ。
ベヒモスが最大仰角で背中の砲を撃ち始める。
こちらの射程に入ったことを知っているのだ。
まあ、これは簡単な仕組みだ。
こちらから見えるということは、向こうからも見えるのだ。
ただし、こちらが魔導レーダーで正確に敵を把握しているのと違い、ベヒモス側は目視照準による砲撃となる。
ただ、目標となる王都が広いため、距離さえ合っていれば適当な砲撃でも街には被害が出る。
ベヒモスの放った砲弾は放物線を描き王都の街へと落下し火事を引き起こす。
なかなか嫌な攻撃だ。人を予め避難させておいて良かった。
こちらからは塔の2門と三段目の陸上戦艦の6門の長距離魔導砲計8門をベヒモスに撃ち込む。
光魔法の『光収束熱線』だ。
だが、ここで予期せぬ事態が発生した。
ベヒモスに『光収束熱線』が直撃するも被害が無い。
あれよあれよという間にベヒモス10体が接近してくる。
「ベヒモスにキングスライムが纏わりついています!」
見張り員が【鷹の目】スキルでやっと状況を確認した。
ベヒモスはキングスライムを纏っていた。
キングスライムは対魔法攻撃無効に対物理攻撃無効――死なないだけで体はダメージを受け小さくなるが――を持つ。
倒すには正確に核を撃ち抜くしかない。
核はここからは見えない。
ベヒモスに共生しているということは、おそらくベヒモスの甲羅のどこかに守られているのだろう。
「対魔法攻撃無効、対物理攻撃無効といってもキングスライムを倒せないだけだ。
重力加速砲を使えばスライムの体を抜けた弾体はベヒモスに被害を与えられる。
魔導砲も撃ち続ければスライムも小さくなっていく。
手数で倒すしかない」
通信員により各艦に命令が伝達され、巡洋艦群から一斉に攻撃が開始される。
たしかにベヒモスは倒せるが、倒すのに時間がかかる。
そのため、あれよあれよという間に城壁の手前の砂漠に掘った谷までベヒモスの接近を許してしまう。
背中の砲からは引っ切り無しに砲弾が撃ち込まれ、王都を焼いていく。
これでは王都を再整備しても何度でも焼かれてしまう。
ここを補給拠点とするにはベヒモスを射程外で倒す手段がいるな。
「火竜の大編隊視認!」
見張り員が叫ぶ。
どうやら魔物たちは、アークツルスの偵察時よりも戦力が増えているようだ。
あの発見された大群の後方にも魔物の群れが連なっていた可能性はある。
火竜ならば、もっと後方から飛んで来ることも不思議ではない。
どうやら魔物は飽和攻撃を仕掛けて来たようだ。
こちらの
重力加速砲も城壁配備分を入れても69門しかない。
数百の火竜が一斉に攻撃して来たら、こちらも確実に被害を受ける。
「仕方ない。後方に下がりつつ迎撃だ。
接近される前に撃ち落とすしかない。
距離をとって火竜に爆撃をさせるな」
俺は前世の知識で航空攻撃の怖さを知っている。
物量攻撃の恐ろしさもだ。
『バーアム、重力加速砲残弾ゼロ、撃ち尽くしました!』
『パンテル、同じく撃ち尽くしました!』
思ったより弾の消費が激しい。
魔導砲は次弾発射までの待ち時間が長い。
重力加速砲が撃てなくなった艦に集中攻撃されたら拙い。
「後方、サンドワームです!」
「なんだって!」
艦隊が退いていく先にサンドワームが現れた。
固い岩盤で守られていると思われた王都の中にサンドワームが侵入した。
いったいどうやって?
「サンドワームから砲撃! 新種です!」
今までサンドワームは高度さえ上げれば脅威ではなかった。
しかし、これからはサンドワームによる砲撃にも気を付けなければならなくなった。
このままでは、誰か犠牲者が出てしまう。
『こちらクランド。キルト王都から
これは命令だ。異論は許さない!』
『くっ。我らの王都をまた捨てることになるのか!』
キルト族の艦長から怨嗟の声が上がる。
『命令に従え。再起の時は来る。戦力を整えてから必ず王都は奪還する!
命令に従えないなら艦の指揮権を奪ってでも連れ帰るぞ!』
『わかりました。命令に従います……』
俺たちは陸上艦15艦でそのまま南下し、最大速度――マッハの方ではなく安全に定めたやつ――で峡谷要塞まで後退した。
全艦無事に撤退出来たのは幸いだった。
ここもキルト王都のように攻撃を受けるかもしれない。
だが幸い移動速度ではこちらに分がある。
その猶予期間で対処法を考え整備しなければならなかった。
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