第178話 戦闘準備

 峡谷要塞まで撤退した俺たちの艦隊だが、新型サンドワームやスライムを纏ったベヒモス、大量の火竜に対する速やか且つ有効な対策というものを、俺は見い出せずにいた。

新型サンドワームは固い岩盤をも掘り進み、陸上艦の真下から現れて砲撃することが出来る。

地中は魔導レーダーも探知不能なので奇襲攻撃を受けやすい。

しかも陸上艦は真下への攻撃能力がない。

当然、岩盤よりも柔らかい砂漠地帯ならば、いくらでも隠れながら移動し砲撃してくることだろう。

スライムを纏ったベヒモスは物理・魔法攻撃無効となってしまうため、弾数でスライムを剥がしてベヒモスを倒すしかない。

これは重力加速砲の砲弾を湯水のごとく消費し、火竜への対空砲火に影響が出るほどだった。

火竜の飽和攻撃も陸上艦に対して有効だった。

こちらの砲門数が敵の数に比べて圧倒的に少なく、手数が足りなくなるのに加えて、砲弾の予備が少なく撃ち尽くすという失態を演じた。


「地中の探査能力、真下への攻撃能力と砲門数の増加、さらに1門あたりの携行弾数の増加が必要か……」


「あまり一人でにゃやむことはにゃいにゃ。

サンドワームの対策がわかったにゃ」


「ミーナ、それは本当か?」


 ミーナによると、王都の城壁内に現れたサンドワームは、王都の固い岩盤を抜いて現れたのではなかったという。

地中の柔らかい部分を迂回し、あの場所に出て来たのだろうと、王都の地盤に詳しいキルト族技術者が言っていたそうだ。

あの場所だけは岩盤が無く、井戸が多く掘られていた場所だったそうなのだ。


「そうか。それであのサンドワームは艦の真下からは出て来ずに、少し離れたあの場所から出て来たのか」


 つまり、岩盤が固いところをサンドワームが抜けないという弱点は健在。

強固な岩盤のある所では真下から攻撃はされないということになる。


 となると峡谷要塞は安泰だ。

中央山脈の強固な岩盤と、ベヒモスの甲羅を敷き詰めた床でサンドワームの侵入を防ぐことが出来る。

これで後はスライムを纏ったベヒモスと火竜対策をどうにかすればいいことになる。


 重力加速砲の砲門数の増加は第13ドックに増産を依頼すればどうにかなる。

しかし、陸上艦へと搭載する改装工事が間に合うかがわからない。

となると、1門あたりの携行弾数の増加で対処するしかなくなるが、重力加速砲の砲弾製造は今は俺の手作業なのだ。

物理的に限界がある。

第13ドックで製造することも可能だが、製造ラインの構築に日数がかかる。

材料もそこまで豊富――1日に採掘できる量として――ではないので、製造数に限りがある。

重力加速砲の製造を諦めれば多少は違うだろうが、手数を多くするのは対空防御力としては外せない部分だ。

魔導砲を製造し砲門数を増やし代用するにしても、魔力の問題で魔導機関の能力がおいつかない。

となると陸上艦の増産あるいは固定砲台+魔導機関の組み合わせで配備ということになり、どちらも製造負担的に本末転倒となる。

このままこちらの攻撃力と製造能力を超える攻撃が続けば、魔物の拠点から魔物が湧き続ける限り、いつかこちらは防衛能力が破綻してしまうだろう。


「どうにか弾の製造能力を上げられないものだろうか?」


墳進型戦闘機FA69に搭載された重力加速砲で火竜は落とせるにゃ。

あれは陸上艦のとは口径が違うにゃ。

陸上艦の重力加速砲で火竜を撃つのはオーバースペックにゃ」


「そういや。一部の艦の重力加速砲は小口径砲の搭載だったな。

あれは重防御艦対策で弾数を撃つためだったんだが、実際に北の帝国の航空機を落としていたんだった。

口径が小さければ弾に使う材料も減る。つまり弾の生産力が上がる!」


 自分一人で考えていると自分の常識や固定観念で袋小路に入り込みやすい。

ミーナの意見は、俺が思い込んでいた生産能力を上げるという考えを、材料を節約して生産数を増やすという発想に変えてくれた。

元々機載用重力加速砲は製造ラインが出来ている。

それを対空砲パッケージとして砲塔化して搭載すれば良いわけだ。

艦載用重力加速砲はベヒモスのスライム剥がしに使い、対空用重力加速砲で火竜を落とす。


「いける。ただし弾の増産するには材料をなんとかしないとならないな」


「材料が足りにゃいにゃら材料のある場所に工場を作ればいいにゃ」


 ミーナの発想に脱帽だ。

第13ドックの弾体製造ラインを、材料が豊富な大峡谷に持ってくればいいだけだ。

ここで製造すれば輸送の手間も省ける。

輸送も俺の【転移】頼みだったから俺の負担が大きかった。

国もそうだが、俺がいないと回らないという状況からは脱却するべきだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 第13ドックから弾体製造ラインを大峡谷に移築した。

これにより対空用重力加速砲の弾体生産数が日産10万発に達した。

対空射撃は一撃必中ではないので、火竜1体に対して何発も撃つことを想定している。

キルトの王都ではベヒモスに弾を消費したところに、火竜の大編隊が到来したため艦によっては弾を撃ち尽くしてしまうということがあった。

集中攻撃を受けたら当然そうなるので仕方がない。

だが、今後はベヒモスには対艦砲で、火竜には対空砲で対応することで資源を節約できるようになった。


 そのため対空重力加速砲パッケージが第13ドックで製造され陸上戦艦の改装が行われた。

駆逐艦は各艦両弦に3門合計6門搭載する。

重巡洋艦と航空巡洋艦は両弦に4門合計8門搭載だ。

ざっと100門近い対空砲が配備されたことになる。

輸送は俺の転移、改装は俺の土魔法でやったから、また俺ばっかり働いていたが……。


 今後の予定としては対艦用重力加速砲の弾体もここで製造出来るようにするのと、対空用重力加速砲の増産と要塞への設置を進めないとならない。

これなら、キルト王都も奪還できる。

井戸の場所もベヒモスの甲羅で塞いでしまえばサンドワームも侵入できなくなる。


「だが、まずはこちらに接近中の魔物を排除しないとならないな」


 パッシブレーダーによると、キルト王都に向かっていた魔物の群れが、この峡谷要塞に進路を変えて向かって来ているのだ。

元々こちらに来ていた魔物を含めて膨大な量の魔物が来る。

キルト王都に向かっていた魔物がこちらに向かいだしたのは、どうやら魔物が陸上艦に寄ってくるかららしい。

キルト王都を攻撃していた魔物は餌が尽きたのかその場で反応が消えていた。

ただし、火竜だけはベヒモスの甲羅を経由してこちらに向かっている本隊に合流したようだ。

決戦の日が近づいている。

それまでに予備弾薬を溜めなければならない。

俺の家内制手工業が続く。


「おかしい、俺はスローライフを目指していたはずだ!」

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