第169話 進軍
火竜との先の戦闘では、
慣れない機体に乗った獣人たちが、オートのみと言い聞かせていたにもかかわらず、マニュアルで操縦してしまったからだ。
尤も、
火竜と1体落とす間に
そんな場面になって、獣人たちがおめおめと撃墜されるのを傍観するわけがない。
マニュアルで操縦し、なんとか回避しようとしたが、機体の速度が速すぎて操縦しきれなかったというのが実情だった。
上空を直掩する
火竜は固くて強い。重力加速砲が撃てなければこちらの損害も大きかっただろう。
ミーナたちが無理して乗り込んでいてくれて助かった。
撃墜された獣人たちは、命大事にの方針でなんとか不時着し機体を失うだけで済んだ。
火竜の攻撃は牙と爪、体当たりによるものなので、機体が空中爆発するといった被害が無く、不時着が可能な損傷で済んでいた。
火竜といえば炎のブレスを吐くイメージだが、それは火龍であって火竜は生息地が溶岩地帯で火に強いだけの翼竜なのだそうだ。
まあ、獣人たちも即死じゃなければ俺の魔法でなんとかなる。
なので死者は一人も出ていない。
それがパイロットという貴重な人材の育成に繋がった。
堕とされても生きている。堕ちても新しい機体で出ればいい。
機体の損耗は織り込み済みだったため毎日補充があった。
いや、俺が転移で持って来ているんだけどね。
獣人に熟練者が増えるわけだ。
後発組の機体はソフト改修も済んでいて、重力加速砲がゴレーム制御でも撃てるようになっていた。
この改修は先行配備組の機体にも行われたが、既に獣人たちの操縦はゴーレムを越えていた。
彼らの動体視力と反射神経、身体の頑丈さが戦闘機向きだったと言える。
そして後発組の翼下に吊り下げられているのは主兵装の墳進弾、所謂ミサイルだった。
どうやら墳進弾が無ければ火竜と戦うのは無謀だったらしい。
それで1:2のスコアと言われていたのだから、重力加速砲を装備したのは大きかったと言えよう。
重力加速砲は陸上艦の対空砲火としても重宝されている。
ここだけはガイア帝国の技術を俺の技術が上回ってしまったのかもしれない。
いや、獣人たちの能力により2:1のスコアをたたき出せたのかな?
補給も簡易空母で燃料弾薬ともに供給されている。
簡易空母の母体となった輸送艦は、あの航空巡洋艦となったルナワルドのような駆逐艦の後部に直結して運用出来るようにした新型輸送艦だ。
元々キルトタルの魔導砲を輸送するために設計されたので、全通のフラット甲板を持っていたため、軽空母転用が容易だった。
飛行甲板の長さは輸送艦を3艦縦に連ねることで解決した。
ここでもドッキング機構が有効に活用された。
さすがに簡易空母では
操縦は翼面形状を変えることと2基の墳進口を3次元的に動かして行っている。
これ航空力学を誰かがもたらした結果だよね?
そんな火竜より優勢な機体32機で北の峡谷の上空にはエアカバーが齎されていた。
この機体数に魔物側が対抗するには64体の火竜で互角。優位に立つなら100体越えが必要だろう。
制空権は取ったも同じだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミーナたちが地味に火竜の数を減らしていたのが功を奏したのか、今現在は火竜の攻撃を危なげなく排除出来ていた。
制空権を得た俺たちは陸上艦を峡谷に侵入させて山脈で隔てられた北の大地へと向かっていた。
大峡谷の出口が見える。先頭は魔導砲3門装備のエリュシオンだ。
旗艦が最前で突っ込むのもどうかと思うのだが、前甲板に魔導砲を2門、後甲板に1門装備している艦は、このエリュシオンと第13ドックを守る同型艦リュミエールの新型重巡洋艦2艦だけだ。
同様に魔導砲2門装備のエルシーク型は、前甲板と後甲板に各1門装備なので、狭い峡谷では前に向けられる魔導砲は他の駆逐艦と同じ1門となってしまう。
2門の魔導砲を前に向けられるということは、魔導砲のチャージ時間が半分になるのに等しい。
必殺の光魔法『光収束熱線』が当たればベヒモスでさえ駆逐できる。
しかし、発射した直後のチャージ中に次のベヒモスに狙われたら陸上艦とはいえ危うくなる。
そこで2門目が直ぐに撃てれば、そんな敵の連続攻撃も対処可能ということになる。
敵はさらに次のベヒモスを用意するかもしれない。
しかし、その時には先ほど撃った1門目の魔導砲の発射準備が整っているのだ。
なので魔導砲を2門前甲板に装備するエリュシオンしか先頭を行くのに適した艦がいなかった。
盲点だった。今後は前甲板に魔導砲を2門装備した軽巡洋艦を製造しよう。
想定通り、大峡谷の左壁に隠れていたベヒモスが大峡谷の出口を塞ぐように出て来ると砲弾を発射しようとする。
制空権をとっているため、その様子は
エリュシオンが第一魔導砲塔をベヒモスに向け光魔法を発射する。
エリュシオンが装備しているのは出力強化型の長距離魔導砲だ。
光魔法がベヒモスの魔法結界を貫通しベヒモスの首を甲羅の中まで焼き尽くす。
続けて大峡谷の右壁に隠れていたベヒモスが大峡谷の出口を塞ぐように出て来ると砲弾を発射しようとする。
エリュシオンは第二魔導砲塔をベヒモスに向け光魔法を発射する。
その間に第一魔導砲塔には魔力ストレージからエネルギーがチャージされていく。
次のベヒモスが現れたとしても次弾を撃つ準備は整っていた。
まさに想定通りの展開だった。
『よし、このまま大峡谷を出る。
後部魔導砲および重力加速砲準備。
死角に隠れた魔物を撃つ!
後続の艦も我に続け!』
エリュシオンが大峡谷を突破し、3門の魔導砲で魔物を殲滅していく。
魔物は大峡谷の出口両脇にへばりつく様に隠れていた。
ベヒモスも数体混じっている。
エリュシオン以下陸上艦は緊急加速で時速100kmを出している。
単縦陣で大峡谷を突破して来た陸上艦15隻と輸送艦6隻は大峡谷の出口の魔物を駆逐し、橋頭保を確保した。
ここに砦を建設し、重力加速砲と魔導砲2門装備の駆逐艦で出口を守る。
その後、旧キルト王国まで進出し前線基地とする予定だ。
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