第142話 占領軍分遣艦隊1
中央道を南下していたガイアベザル帝国ルナトーク占領軍分遣艦隊は、ぺリアルテ商国駐留軍の陸上戦艦2艦と増援の3艦からなる艦隊だった。
彼らの任務はイスダル要塞の攻略であると思われていたが、それはブラフであり実は商国の街の上を西進してキルナール王国の艦隊を横から突くのが真の任務だった。
そのタイミングはタイムスケジュールにより決められており、主力艦隊の動向に関係なくそろそろ西進する時間となっていた。
「魔導レーダーに感あり。距離30?」
分遣艦隊の中には魔導レーダーが生きている艦もあれば、死んでいる艦もあった。
だが、幸いにもこの分遣艦隊の旗艦であるガニメデは魔導レーダーが生きている艦だった。
その魔導レーダーが30km先の反応を探知していた。
レーダー員が訝しがったのは、その距離だった。
本来、魔導レーダーは惑星の丸みのため地平線の先は探知出来ない。
陸上戦艦が浮上している分多少の誤差が出るが、概ね22kmが探知限界だった。
それが30km先の何かを探知している。
つまり、それは高度の高い位置に存在しているということだった。
「小さいな。まさか空飛ぶ機械か!」
横からレーダー画面を覗いた艦長が叫ぶ。
帝国でも空飛ぶ機械の存在は知られていた。
遺跡から手に入れて運用しようと試みたのだが、あっと言う間に墜落させて運用は断念されていた。
それが飛んでいることに驚いた艦長だが、次の瞬間、更なる驚きに目を見開いた。
ドーーーン!
「魔導砲、至近弾!」
見張り員が叫ぶ。
単縦陣で進む分遣艦隊の先頭を行く陸上戦艦ハダルに魔導砲の至近弾が降り注いでいた。
魔導砲といえば水平に進んで来るものと思っていた艦長は、その角度に驚いた。
それは、撃ち下ろされたが如く空から降って来たのだ。
「敵の陸上戦艦の浮上攻撃か!?」
分遣艦隊司令のダッソーが叫ぶが、艦長はそうでないことを理解していた。
「いいえ、レーダーに映った対象は小さく、おそらく空飛ぶ機械です。
魔導砲が撃てるなど聞いたこともありません」
しかし、その方向から魔導砲が撃ち下ろされたのは事実だった。
「まさか、敵の空飛ぶ機械は魔導砲を撃てるのか!」
ダッソーの誤解は旗艦の艦橋に恐慌を齎した。
空飛ぶ機械が撃っているというのは誤りだが、魔導砲が30km以上の距離を越えて届いていることは事実だった。
「拙い。各艦に伝達。
防御魔法陣全力展開。魔導砲に備えよ!」
ダッソーの指示に通信員が光魔法で各艦に伝達を始める。
しかし、それは間に合わなかった。
スガ――――ン!
それは魔導砲の第二射が先頭を行く陸上戦艦ハダルに直撃した轟音だった。
ハダルは魔導機関が停止しゆっくりと墜落して行った。
その際に艦が傾き、積んでいた火薬砲の弾薬が転がって誘爆して巨大な黒煙のキノコ雲を上げた。
「各艦、艦首を西に向けろ!」
幸い旗艦ガニメデは単縦陣で進む艦隊の4番目に位置していた。
残る艦を助けなければならないとダッソーは敵に艦首を向け、被弾面積を小さくするように命じた。
スガ――――ン!
「ガクルクスに直撃!」
先頭のハダルが撃墜されたため、それを避けようと舵を切っていた二番艦のガクルクスが魔導砲の第三射の直撃を受け沈む。
ドーーーン! カキ――ン!
三番艦に向かって来た魔導砲の第四射が防御魔法陣に弾かれた。
やっと旗艦からの指示が各艦に届き実行されたのだ。
この艦隊は囮となるために、全艦が防御魔法陣を強化されていた。
通常の2倍の魔力を込めることで防御魔法陣の能力を向上させたのだ。
それはイレギュラーな使い方であり、いつ防御魔法陣が使えなくなるかわからない賭けでもあった。
「そうか、あの空飛ぶ機械は防御魔法陣で魔導砲を反射しているのだ。
司令、魔導砲による空飛ぶ機械の迎撃許可を!」
艦長が敵の秘密兵器の仕組みを見破った。
だが、艦長の一存では魔導砲の使用が出来なかったため、分遣艦隊司令であるダッソーにお伺いを立てたのだ。
「許可する。全力を挙げて迎撃せよ」
ダッソーの許可により敵の空飛ぶ機械に向けてガニメデの魔導砲が撃ち込まれた。
その威力は減衰していて陸上戦艦にとっては脅威となり得なかったが、空飛ぶ機械には有効だった。
空飛ぶ機械は慌ててそれを避けると西の空に逃げ帰って行った。
こうして分遣艦隊は敵艦隊からの長距離魔導砲を防ぐことが出来たのだ。
「このまま突撃する。
防御魔法陣は健在か?」
「今のところ問題ありません」
ガイアベザル帝国ルナトーク占領軍分遣艦隊の反撃が始まった。
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