第141話 秘密兵器
商国の南部には中央山脈の北部山沿いを西へと向かう
これは大陸南部と大陸北部を結ぶ東の海岸沿いの海岸道から、大陸中央へと物資を運ぶ交易路として、最初に発展した古い街道だった。
その街道を西に向かうと、商国の南北を結ぶ主要街道である中央道や
俺たちの艦隊は、その山横道から中央道へと進出した。
「敵艦隊に動きがあります」
魔導レーダーの索敵範囲はアクティブレーダーで地平線の見えている所までの約22kmだ。
だが、パッシブレーダーならば地平線の先まで探知することが出来る。
これは陸上戦艦の魔導機関が発する魔力を【魔力探知】により捉えることで機能している。
つまり、魔導機関のような強力な魔力波動が出ていなければ探知することができない。
逆に巨大な魔力波動の側にある小さな魔力波動も探知できない。
その探知能力は、陸上戦艦の数や大まかな位置がわかる程度であり、長距離射撃の射撃管制に使えるほどの正確性は持ち合わせていない。
それでも遠方の陸上戦艦がどのような動きを見せたかを知ることが出来、それだけでも利用価値は高かった。
「動いたか」
どうやら、北の帝国の旧ルナトーク王国占領軍は商国に優秀なスパイを潜り込ませているらしい。
商国が裏切るという情報により駐屯軍を逃がし、今度は俺たちの艦隊が動いたと知り主力艦隊にこちらの動向を報告しているようだ。
その情報により北の帝国は主力艦隊を動かして来た様子だった。
北の帝国は、陸上戦艦に搭載されている魔導通信機を上手く使うことが出来ない。
ほとんどの陸上戦艦が発掘品であり、外部に出ている魔導アンテナが劣化していることが多いからだ。
鹵獲した陸上戦艦を調べて判ったことだが、魔導アンテナを修理しようとした形跡すら無かった。
これは魔導アンテナの重要性を理解していないか、交換部品が無いということなのだろう。
そのため、なんらかの信号が出ていることを捉えることが出来ても、音声や詳細なデータをやり取りすることは不可能だった。
そのような技術水準なため、スパイ個人が使えるような個人用魔導通信機など持っているはずがなかった。
つまり、そこには魔導通信を使えないが故の情報伝達のタイムラグがあるのだった。
「速いな。
俺たちがイスダル要塞を出てどちらに向かうか、報告されていたということだな?」
「そのようです。
商国からの情報漏洩を防ぐのは無理なのでしょう」
占領軍主力艦隊は、俺たちが山横道を進んだと見るや、艦隊を分けて海岸道を南下させていた。
残りの艦隊は未だ旧ルナトーク王国領に残り、我が艦隊の動きを探っているようだった。
「俺たちが中央道を北上したことも既に報告されているのだろうな」
俺たちはそのタイムラグを活用して、少ない戦力で優位に立たなければならなかった。
「イスダル要塞に警告を出しますか?」
「いや、イスダル要塞に連絡すると、こちらの位置がばれる。
向こうでも敵艦隊を把握していると信じよう。
それにいざとなったら……」
北の帝国は、こちらの通信波によって位置を割り出すということをしているようだった。
ズイオウ領がターゲットにされたことと、第13ドックに調査の陸上戦艦が来たことがそれを証明していた。
「連絡員を【転移魔法陣】で各艦へ送れ。
旗艦から戦闘開始の合図を送るまで通信管制を継続。だ」
「了解しました」
各艦の艦首に設置された【転移魔法陣】は、魔導ストレージから魔力を得て指定先の艦の【転移魔法陣】まで転移することが可能になった。
これにより、俺が介在しなくても各艦への人員の移動がスムーズに行えるようになった。
まあ、転移が自由になったおかげで、戦闘行動中だというのにキルトタルから勝手に訪問者が来たりする。
今日もプチが勝手にやって来ている。
「わん、わわん。(ご主人、あいたかった)」
「そうか、俺もプチに会いたかったよ!」
俺はプチを思う存分モフモフして癒し成分を充填した。
まだ戦端は開かれていないので許すが、危ないので断腸の思いだがもうしばらくしたら帰ってもらう。
プチも理解しているのか、1日1回こうして訪問してはモフモフされて帰っていく。
俺は嫁たちやプチ、国民の平和な生活のために帝国との戦争を終わらさなければならない。
プチの癒しを得てそう決意を新たにする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暫く北進すると、いよいよ占領軍の主力艦隊が中央道を南下し始めた。
どうやら俺たちの艦隊が中央道を北上しているとの情報が占領軍主力艦隊まで届いたようだ。
海岸道を南下している艦隊ともいずれすれ違うことになるが、俺たちはお互いに
海岸道と中央道は50km以上離れているからだ。
つまり本来ならお互いに魔導砲の射程外ということになる。
「このままだと、占領軍の主力と正面から当たることになるな」
占領軍主力艦隊とはまだ100kmは離れている。
航空攻撃でもしない限り、お互いに攻撃は出来ないと敵も思っていることだろう。
「今のうちに海岸道の分遣艦隊に一当てするか」
俺はついに秘密兵器の使用を決断した。
どうせ我が艦隊が中央道を北上していることは敵にはバレたのだ。
「通信管制解除。
ルナワルドに通信。観測機発進。
秘密兵器を使う!」
『了解しました。
観測機発進。長距離魔導砲光学魔法で発射体制』
ルナワルドの飛行甲板から
ミーナは艦長となったため、今は戦闘機に乗っていないが、後任の育成はしっかりやってくれた。
それが威力を発揮する時が来た。
「
機載魔導レーダーの映像でます」
その情報がデータリンクによって艦隊全てに伝わった。
これにより遠距離に対する
「よし、魔力伝送開始!」
エリュシオンの魔導砲塔が
これにより、機体下部の魔法陣が作動する。
「目標、敵分遣艦隊の先頭艦。便宜上これ以後は1番艦、以降2番艦3番艦と呼称する。
ルナワルド、長距離魔導砲発射!」
ルナワルドから発射された長距離魔導砲の光条が
そこに展開された魔導
直線的にしか発射できない光魔法が反射して敵艦に向かったのだ。
その射程距離は長距離魔導砲の高出力により、50km以上離れた敵艦にまで減衰することなく威力を維持したまま届いた。
しかし、第1射は空中の
少しの誤差が長距離では大きな差となるのだ。
「初弾外れました」
「かまわん。そのまま第二射発射!」
「魔導反応消失。直撃のもよう」
エリュシオンのレーダー手が敵艦撃沈の報告をする。
エリュシオンの
おそらく墜落により魔導機関がスクラムしたのだ。
魔導機関がスクラムすると、魔力が減少するため
それにより撃沈と推定できるのだ。
『敵艦より黒煙が上がりました』
どうやら火薬砲の弾薬が誘爆しているようだ。
俺の言う秘密兵器とは長距離魔導砲による反射攻撃だった。
今回は間に合わせで、魔導
「よし、続けて目標敵2番艦。撃て」
反射攻撃による敵分遣艦隊蹂躙が始まった。
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