第135話 商国解放戦

 ペルアルテ商国からの依頼により、俺は北の帝国の駐留軍を追い出す手伝いをしなければならなくなった。

だが、俺たちが矢面に立って商国を解放するべきではない。

商国を解放するのは商国の人間がするべきなのだ。

だからこそ俺は、代表特使のカムロに厳しいことを言わなければならなかった。


「北の帝国の陸上戦艦はこちらで何とかする。

だが、帝国の駐留軍の兵士たちは商国の軍で対処してもらいたい」


「え?」


 俺の言葉にカムロは驚き慌てだした。

まさか、そこまで俺たちにやらせようと思っていたのか?


「我が国は商国の主権を尊重するつもりだ。

となると陸上戦艦を相手にするぐらいのお手伝いしか出来ない」


 カムロは想定外だという顔をしている。

いや、俺は通行権さえもらえれば、別に商国が北の帝国の属国だろうがどうでも良い立場なのだ。

商国が北の帝国の先兵として攻撃してくるなら対処するが、あくまでも他国のこと、わざわざ我が国の民の血を流してまで商国の独立に協力する謂われはない。

もし商国が我が国の通行を妨げるのなら、海上に出て迂回しても良いのだ。

海はどの国のものでもないので、国際的に自由航行が約束されている。

多少遠回りになるのと、陸上戦艦が塩で錆びないかが心配なだけだ。


「そんな……」


 俺は放心状態のカムロに追い打ちするように言葉を続けた。


「商国の財力なら、兵を雇うことも出来るだろう。

いまザール傭兵は暇を持て余しているらしいぞ」


 ザール傭兵のやつら、せっかく俺が戦闘奴隷から解放してやったのに、平和に生活するのが性に合わないらしい。

戦場に出て金を稼ぐ、生まれながらの傭兵なのだろう。

その就職先というか派遣先として、商国に雇わせるのも有りだと俺は思っているのだ。

ザール傭兵の不満も解消し、商国も戦力を得られる。

一石二鳥とはまさにこのことだろう。



 俺の働きかけでカムロはザール傭兵と契約した。

帝国からは交易路の護衛として私兵を持つことを商国は許されていたが、国家としての軍隊は解隊されてしまっていた。

それら解雇された兵を集めようにも、国を離れてしまった者が多かった。

帝国が商国の軍事力を骨抜きにするため、そういった者たちの再就職先を潰して回ったからだ。

即戦力としてのザール傭兵は商国にとって喉から手が出るほど必要なものだった。

そのため、ザール傭兵は有利な条件で契約できたそうだ。


 そんな動きを帝国が察知するのは時間の問題だった。

なぜなら、商国6代表に近い所にスパイが潜んでいたからだ。

事実、6代表の一人カムロの腹心の部下にスパイがいて、そいつを捕まえるのに俺は協力したのだ。

そいつを排除したことで、カムロの周囲は安全になったと見て良かった。

なので、カムロを中心に事を進めていたのだが、商国が裏切るという情報は他の代表についているスパイから帝国駐留軍へと漏れてしまっていた。

カムロも商国本国に交渉内容を報告しなければならない立場であり、6代表の残り5人も身内に潜むスパイの存在を知らないあるいは信じられないために情報漏洩は必然だったのだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 スパイから齎された商国裏切るとうい情報に、ガイアべザル帝国のペルアルテ商国駐留軍幹部は大いに慌てていた。

同時に齎された国境要塞の様子は、駐留軍に危機感すら覚えさせていた。


「リーンワース王国の要塞が、どうやら新興国家に譲渡されたらしい」


「新興国家の名はキルナール王国、陸上戦艦の圧倒的戦闘力で帝国本国の主力艦隊を撃破した国家らしい」


「それがこの地に進出して来たと言うのか?」


「帝国本国は、リーンワース王国とキルナール王国と既に戦争状態に入っている」


「拙い。ここが戦場になるぞ」


「リーンワース王国を抑えるためだけの謂わば見張りような意味合いの我らに戦う意味はあるのか?」


「我らには商売が上手いだけの商国など守る価値はない」


「いや、強いて言えば、商国はルナトーク王国へと繋がる道だ」


「まさか、キルナール王国はルナトークの縁者なのか?」


「ルナトーク奪還を目指しているのならば、ここも只では済まないだろう。

戦いとなるのは必然か」


「商国が裏切り、向こうにつくつもりらしいことから、既に戦いは始まっていると見て良いだろう」


「キルナール王国の戦力は?」


「陸上戦艦5艦を要する艦隊が配備済みらしい」


「奴らの陸上戦艦は全艦魔導砲が生きているらしいぞ」


「我が駐留軍は陸上戦艦2艦のみ、しかも魔導砲を撃てやしない。

我が方に勝ち目はないぞ」


「このままでは戦力分散の愚をすることになる。

我が帝国の東海岸最大戦力が配備されている旧ルナトーク王国に合流すべきだろう」


「うむ。商国に拘る必要はないな」


 こうして、ガイアベザル帝国の駐留軍は陸上戦艦に兵士たちを積むと、旧ルナトーク王国へと撤退していった。

商国は戦場になることなく解放されたのだった。

この戦いとも言えない戦いでザール傭兵は戦わずして大金を得ることになった。

だが、戦わなかったことがザール傭兵にとっての不満そのものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る