第133話 ペリアルテ商国

 いつのまにかリーンワース王国との国境がキルナール王国との国境となったこともあるが、そこに堅牢な要塞が建造され陸上戦艦の艦隊と軍隊が駐留していたことに、国境を接していた小国であるペリアルテ商国は大騒ぎになった。

ガイアベザル帝国の砲艦外交に屈して属国扱いとなってしまったのに、それに比肩する軍備を持つ国家が隣に領土を構えてしまったのだ。


「噂では、キルナール王国はリーンワース王国と共にガイアベザル帝国の艦隊を退けたらしいぞ」


「そのキルナール王国は、キルト王国、ルナトーク王国、ザール連合国の継承国らしいぞ」


「ああ、各国ゆかりの姫が王に嫁いでいるらしい」


「リーンワース王国の姫も嫁いでいるそうだ」


「だからリーンワース王国が彼の地を割譲したのか!」


「となると、彼の地を得たのも、ルナトーク王国奪還のためであろう」


「拙い。我らがガイアベザル帝国と懇意だと思われたら、我が国が戦場になってしまう!」


 商国の6代表は頭を抱えることとなった。

商国は6つの大商会の代表が合議で治める国だった。

古来から大陸の北と南の物資をお互いに流通させることで利益を得て来た国家だった。

それがキルナール王国が隣国となったことで、国境は要塞により塞がれ自由な商売が不可能となった。

いや、元々はガイアベザル帝国がリーンワース王国に戦争を仕掛けたことが原因だった。

リーンワース王国は商人に寛容だったため、戦争中でも物資の流通を止めなかった。

しかし、キルナール王国は豊富な物資を持ち合わせているようで、北からの物資を必要としていなかった。


「あれは恨まれていると見て良いであろうな」


 代表の一人がぽつりと零したのは、ルナトーク王国の奴隷を取引した件についてだった。

キルナール王国がルナトーク奪還を試みるのならば、ルナトークの奴隷を扱った商会は、皆敵とみなされる可能性があった。


「ガイアベザル帝国の軍門に下ったからには、あの取引は不可避だったのだ」


「その言い訳が通じればよいがな。

事実、我らは奴隷取引で儲けを出しているのだ」


「その儲けを全て差し出せば、許してもらえんだろうか?」


「無理じゃな。お主の所は奴隷の扱いが殊の外厳しかったからのう」


「ああ、勝ち組に乗ったつもりが、とんでもないことになった」


 商国の6代表は溜め息をつくしかなかった。


「とりあえず、我らの誰かを代表に立てて挨拶に向かわねばならない」


「だが、それをすればガイアベザル帝国の駐留軍に目をつけられるぞ」


「なに、奴らは本国が大敗して慌てている。

秘密裡に接触すればバレはしないだろ」


「ならば、アルペン、お主が特使としてキルナール王国へ向かえ」


「え? 私が?」


「言い出しっぺはアルペン、貴様だ。

キルナール王国の戦力がガイアベザル帝国以上ならば、帝国を追い出す手助けを要請し、勝ち組に乗るのだ」


 こうして商国6代表の一人、アルペン商会代表のカムロ=アルペンが商国の特使としてキルナール王国、イスダルの要塞に赴くこととなった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 ペリアルテ商国の特使が密かに接触して来たという報告を受け、俺はその代表特使であるカムロ=アルペンという人物と会うことにした。

しかし、商国は北の帝国の属国となっており傀儡国家のはずだった。

陸上戦艦で勝てないなら、国の中枢人物を殺害して勝機を得るという手段を取らないとも限らなかった。

なので、俺は彼らに会う前に彼らのステータスを【鑑定】により丸裸にすることとした。


 商国の特使団をイスダル要塞の応接室へと迎え入れ、俺は隣の部屋から特使団全員に【鑑定】をかけた。


カムロ=アルペン

 ペルアルテ商国出身

 ペルアルテ商国6代表の一人

 賞罰 なし


リケロ=ミューズ

 ペルアルテ商国出身

 アルペン商会代表補佐

 賞罰 なし


リザベラ

 ルナトーク王国出身 奴隷

 アルペン商会メイド

 賞罰 なし


マヌエラ

 ルナトーク王国出身 奴隷

 アルペン商会メイド

 賞罰 なし


 2人目までは良かったが、3人目、4人目で俺はカムロとやらの真意を疑った。

わざわざ俺の目の前にルナトーク出身の奴隷を連れて来るとはいったいどういった了見なのだろうか。

だが、そんなことよりも問題だったのが5人目だった。


ハマス(ハンス=ザイデル)

 ペルアルテ商国出身(ガイアベザル帝国出身 1級帝国民)

 アルペン商会番頭(隠密 スパイ)

 賞罰 なし(殺人 傷害)


 俺の魔導の極に含まれている【鑑定】だから見破る事が出来たが、()内は全て隠蔽されていた情報だ。

おそらく北の帝国の間者なのだろう。

こんな奴と会ったら、いつ命を狙われるかわかったものではない。

それをカムロは知っているのか知らないのか。

わからないのなら、丁重にお断りしよう。

俺は会見を断ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る