第130話 王国

 リーンワース王国から貰った新たな領地は、先の話に出ていたズイオウ領に隣接する土地ではなく、ズイオウ領から遠く離れた東の海岸沿いだった。

ここは北の帝国からの東の迂回路にあたる。

北の帝国は大陸北部の中央西寄りに位置している。

そこから東の砂漠を越えるとキルト王国で、更に数国と東の山脈を越えるとルナトーク王国へと辿り着く。

その先にあるのが東の海岸となり、西に中央山脈を見ながら南下するとリーンワース王国の領土へと出られる。

その中央山脈と海岸との間の領地をカナタは貰うことになったのだ。

まさに、そこは国境の最前線だった。


「また俺たちを防波堤に使うつもりなのか?」


 しかし、海を手に入れたことは大きかった。

そこでは無尽蔵に塩が採取できるからだ。

リーンワース王国は我が国に塩を売って儲けようとしていた。

海沿いの領地の割譲はそれを放棄したに等しい。

これにより限りのあるズイオウ領地下からの塩採取は終了し、海から採取し自由に手に入れる事が出来るようになった。

それに海の向こうにも人が住む大陸がある。

そこと貿易出来れば、我が国は更なる発展が望める。

そして国境の向こう側は北の帝国に侵略されたルナトーク王国だ。

こんな戦略的に価値のある土地をくれたというのは、むしろリーンワース王の善意ではないのか?

これも一応、便宜をはかってくれたということなんじゃないだろうか?

リーンワース王は、俺を利用しようとするが、ズイオウ領を侵略しようとするまでの悪意を持っているわけでは無いのだと思う。

危険なのは貴族たちで、そこは更なる警戒をする必要があるだろう。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 北の帝国との戦争が有耶無耶のうちに中断されたので、俺は内政に勤しんでいた。

その目玉の一つだった食肉鮮魚工場が今日完成した。

第13ドックで手に入れた食用の魔物がポップする魔法陣を手に入れ、それをズイオウ領に設置して工場建物を建てたのだ。

最初は俺が燃料石を生産して稼働させようと思っていたんだが、第13ドックから魔導機関と魔力ストレージを持って来たので安定して魔力供給が出来るようになった。

こうなると、第13ドックにあった解体ラインも自動化したくなり、輸送艦で設備のピストン輸送を行った。

陸上輸送艦も量産され飛躍的に輸送量が増えた。

この陸上輸送艦に乗組員を乗せて育てることで、後に陸上戦艦の乗組員に出来るという思わぬ副産物も得ることが出来た。


 今まで食肉は食肉ダンジョンで魔物を狩り、解体して国民に供給していた。

しかし、それだけでは供給不足だったため、食肉工場の存在は国民の食生活を豊かにすることになった。

また、供給過剰分を売ることが出来たので外貨獲得にも貢献した。

鮮魚工場の魚介類も内陸のこの地では珍しいものであり、リーンワース王国の王都にも輸出し大公報を得た。

ここでも陸上輸送艦部隊が活躍した。


 第13ドックでは俺が供給した野菜が農業プラントで生産出来るようになっていた。

だが、農業の効率はズイオウ領の農地の方が上だった。

【促成栽培】と【農地回復】の魔導具による農業は、十万単位の国民の食を満たすのに十分だった。

農業従事者も多く、国民の産業として成立していて、その邪魔をする農業プラントの設置は憚られた。

第13ドック生産分は余剰よとなり、これも輸出に回すことになった。


 キルト族に渡したマチュラから羊毛が収穫できた。

マチュラは年4回毛を刈ることが出来るのだが、初の収穫だった。

この毛から毛糸を生産し、それが編まれウール製品が供給されるようになった。

ここらへんはキルト族はお手の物だった。

初生産分の毛布が俺に献上されて来た。


「ナラン、これはこれで素晴らしいのだが、色はこれだけなのか?」


 そう毛布の色は草木染の茶色だったのだ。

洋服などは、青、黄、赤など全体的に淡めだが明るい色があるのだが、これらはやたら高価で貴重品だった。

まあ、俺は嫁にそんな服を買いまくっていたので、国民の服の色を見て初めてそれが一般的ではないのだと気付いたわけだが。

なので染色は贅沢品であり、毛布のような実用品には、そんな染色をするものではないのだった。


「明るい色の草木染をするのは一部の贅沢品のみですね。

元々染色用の草木が貴重ですし、色は落ちやすいので何度も染めますし、そう大量に出来るものではないのです」


「染色用の草木は畑で促成栽培しよう。色落ちは対処方法を知っている。

それで布や毛布を染めよう」


 俺は地球の知識と魔導の極の知識で解決策がわかってしまった。

染色用の植物は畑で促成栽培してしまえばよい。

染色用の植物も魔導の極で植物の種類がわかった。

そして色落ち対策は定着剤を使用すればいいのだ。

これは地球の知識でみょうばん等の定着剤の存在を知っていた。


 布の生産にはシルクキャタピラーという芋虫が吐く糸が使えると聞き、何とか手に入れようと画策していた。

しかし、このシルクキャタピラーによる糸の生産は、国家規模の規制がなされており、実物を手に入れることがほぼ不可能だった。

生息地も管理されていて、勝手に採取も不可能だった。

しかし、思わぬアイデアから実物を手に入れることが出来た。

食肉生産の魔法陣は魔物の召喚が出来る。

この設定如何によっては、シルクキャタピラーが召喚出来るのではないか?

問題はあっさり解決した。

セバスチャンに問い合わせたところ、簡単なソフト書き換えでシルクキャタピラーを召喚出来てしまった。

これにより絹が生産出来るようになった。

畑では綿花の栽培も始まっており、これらから綿も生産可能となった。

糸を縒り布を織り染色し服を生産する。

これらをキルト族が担うことになった。

ここにズイオウ領で大規模服飾産業が開花することとなった。

これもまた外貨獲得に貢献するのだった。


 食肉生産魔法陣のソフト書き換えは多様な応用が可能だった。

マチュラ、ホルホル牛、地球産のジャージー牛、鶏まで召喚出来るようになった。

危険な魔物は召喚時に麻痺させられて肉となるが、これらの家畜はそのまま召喚することで牧畜にまわすことが出来た。

特に鶏は卵生産のために需要が多く、肉も美味いので養鶏業が盛んに行われるようになっていたため、新たな鶏が入手出来、担当のザールの民が大層喜び活躍した。


 農業のルナトーク、牧畜服飾のキルト、養鶏建築傭兵のザール、また各種特殊能力を持つ国民は個人商店を開業した。

政治行政、軍事警察機構の公的機関も整い、国民たちの仕事も充実し生活も安定、ここズイオウ領は国としての体裁が整った。


「いつまでもキルト=ルナトーク=ザール王国とは言ってられないな。

これからはそうだなキルナール王国とでも呼ぼうか」


 俺の一言でこの国はキルナール王国となった。

俺はこれ以降、クランド=ササキ=キルナールと呼ばれることになった。

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