第129話 陸上戦艦修復2

 次は我が国の陸上戦艦の修理改装点だ。

ダーボンに施した改装内容はほぼ全艦共通して行うことになる。

ほぼというのは後部甲板が飛行甲板になっているタイプの艦はちょっと違うのだ。

今回鹵獲した陸上戦艦の中にはルナワルド(旧ニムルド)と同じタイプの後部飛行甲板装備の艦がいた。

これらの後部飛行甲板を観測機の発着甲板として使おうと思っているのだ。

セバスチャンに訊ねたところ、あれは間違いなく飛行甲板で、観測機を発着させるためのものだった。

その観測機をこの第13ドックでは製造可能だというのだ。

これはワイバーンに代わる新たな装備として使える。

地球人の知識では対艦巨砲より航空戦力となるだろう。

実際キルトタルはどう見ても空母だ。

今のところキルトタルの飛行甲板は農園として使うつもりなので、例え攻撃機を製造出来ても搭載するつもりはない。

むしろ、この世界の人々に航空攻撃の概念を知らせたくない。

今はワイバーン騎士が槍を投げる程度の話だが、これが爆弾を抱えるようになるとズイオウ領の防衛が困ったことになる。

空賊に襲われたキルトタルは最大の危機を迎えることになった。

あの二の舞は御免だった。

なので観測機はあくまでも弾着観測や魔導レーダーの中継用として使う。

実はもう一つ重要任務があるのだが、それは秘密兵器ということで、ここでは話さないことにしよう。


 後部飛行甲板装備タイプにはもう一つ改装点がある。

それは魔導砲の換装だ。

ズイオウ山のレーダー基地と同じ長距離魔導砲を装備することになった。

これは言わば有効射程を長くした魔導砲であり、単純な話では高出力になっただけだ。

直線でしか撃てない光魔法は地平線までが射程距離だからね。

陸上戦艦が高空に浮上すれば、それだけ射程が伸びる。

その威力を維持できる距離が通常の魔導砲と長距離魔導砲の違いだ。

つまり艦隊内での陸上戦艦の用途をそれぞれ特化する方向にしたというわけだ。


 魔導砲に関して、俺の知らない事実がセバスチャンから齎されていた。

あの魔導砲は光魔法だけではないという話のことだ。

これ大事なことなので二度言います。

魔導砲は光魔法だけではない!


 今までは対艦戦闘だったので、威力の高い光魔法を使っていただけで、他の魔法も使うことが出来るのだ。

火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、氷魔法、雷魔法、その特性を生かした攻撃が出来る。

火魔法はそれこそ火炎放射や爆裂攻撃になる。

水魔法は暴徒鎮圧の放水。あまり使いそうにない。

風魔法はウインドカッターによる対人攻撃や竜巻による範囲攻撃。

土魔法は石弾や金属弾を生成して飛ばす質量弾攻撃。

氷魔法は冷気による範囲攻撃で軍団制圧に向いている。

雷魔法は対人対艦どちらにも使えて、発動位置が任意、つまり遠距離攻撃も出来る。

そしてなんと、火魔法と土魔法は放物線軌道で撃てる!

これは地平線の彼方にまで攻撃が出来るということで、戦術範囲が一気に広がる。


 先の観測機の必要性は、これの弾着観測と魔導レーダーの中継のためだ。

高高度の観測機からアクティブレーダーを放射し観測すれば飛躍的に広範囲を探知できる。

この世界では一歩どころか二歩先を行く装備となるだろう。

武装を減らしてまで搭載する価値があることに納得してもらえると思う。


 魔導砲が各種魔法を使えるということで、各艦の防御力の問題が発生した。

といっても俺が危惧しただけで、元々装備されていたんだけどね。

魔法の種類によって、射出物が物理攻撃となる場合があることが判った。

これに加えて俺が開発した重力加速砲がある。 

それらを防御しようとしたら、魔導障壁では物理攻撃は防げないんじゃないかと思ったのだ。

実際、北の帝国の火薬砲には魔導障壁は展開しない。

これは舷側装甲で対処可能という判断だったらしいのだが、ガルムドを重力加速砲で撃った時は舷側装甲を貫通して撃墜している。

これが魔導障壁は物理攻撃に弱いという印象を持つ原因だった。


 だが、これは単に重力加速砲の弾体速度に魔導障壁の展開が追い付いていないだけだった。

魔導障壁には二種類あって、対魔法の魔法防御結界と、対物理の物理防御結界があるのだそうだ。

この物理防御結界の展開速度を速めれば重力加速砲であっても対処可能だということだ。

完全に俺の取り越し苦労だった。

自分の技術が陸上戦艦建造時の想定を上回っていたというちょっと自慢になる話だったけどね。

対魔導砲――光魔法――でも魔法防御結界の魔力消費を上げれば1発ぐらいは防げるらしい。

光の速度に対応できるのに、重力加速砲の弾体の速度に対応出来ないはずが無かったのだ。


 この方針のもと、リーンワース王国の陸上戦艦を修理し、我が国の陸上戦艦も修理と改装を続けた。

修理が完了した側から入れ替えで既存艦を改装に回す。

これによってリーンワース王国は陸上戦艦6艦体制となった。

リーンワース王は陸上戦艦舷側の国旗が殊にお気に入りで、我が国からペンキを購入しあらゆる城塞の壁面に国旗を描かせた。

そして艦の識別を容易にするためか、陸上戦艦の艦首から艦尾にかけて舷側に一本の白線を描かせた。

ちょっとカッコイイ。


 我が艦隊は15艦体制となった。

旗艦は新造の大型戦闘艦。

これは魔導砲を3門搭載した戦闘特化の艦だ。

重力加速砲も副砲として4門搭載している。

名前はエリュシオンだ。シンシアが名付けた。

この艦と入れ替わりでエルシークが第13ドック防衛に戻った。

今回、陸上戦艦という呼び名だったものを、俺は艦種を区分することにした。

エリュシオンは重巡洋艦だ。

この世界では戦艦と言ってもいいのだが、俺のイメージ的に重巡洋艦にした。


 その下に後甲板が飛行甲板となっている艦を戦隊旗艦として置く。

これの艦種が航空巡洋艦で3艦。

旗下に魔導砲1門を搭載している駆逐艦を4艦従える。

この5艦で1戦隊とし、これを第1戦隊から第3戦隊まで編成した。

第1戦隊だけは駆逐艦が1艦少なく、その代わりに旗艦エリュシオンが入る。

この戦隊をもう1戦隊、第13ドック防衛用に新造する。

現在重巡洋艦1が完成間近で、航空巡洋艦1と駆逐艦2が建造中だ。

第13ドックは荒れ地に存在するわけだが、そこは龍脈からの魔力と、金属資源の宝庫でエネルギーと材料には事欠かないそうだ。

ちなみに第13ドックの第4戦隊にはエルシークが入る。

エルシークは魔導砲2門搭載の珍しい艦で、駆逐艦に分類するわけにはいかないので軽巡洋艦とした。

地球では軽巡洋艦は主砲口径の大きさで分類されるのだが、ここでは艦の大きさで分類した。


 北の帝国は遺跡から発掘した陸上戦艦しか持っていない。

リーンワース王国も鹵獲した陸上戦艦と蒸気砲を搭載した陸上輸送艦しか持っていない。

陸上戦艦を新造出来るのは我が国だけ。

このアドバンテージで平和が守られれば良いのだが……。

何と言っても俺がこの世界に来た理由は愛犬とスローライフを送るためなのだから。

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