第126話 戦後処理2

「北の帝国の捕虜だ。後はよろしく」


 俺はリーンワース王国の転移魔法陣に転移すると捕虜を押し付けて、直ぐに帰ろうとする。

面倒事の押し付けは有無を言わせないのが基本だ。


「クランド陛下、しばし待たれよ!」


 俺が直ぐに帰ろうとすると、近衛騎士団長のブライアスが俺の帰還を慌てて止めた。

どうやら国王ちちうえとリーンクロス公爵の爺さんが俺に会いたいらしい。


「大事な話だとのことだ。必ず連れてまいれと命令されている」


 泣きそうな顔のブライアスに俺は仕方なく付いていくことにした。

彼も板挟みで辛いだろう。会うぐらいなら何も問題はない。

その話の内容に関しては別だが……。


 謁見の間ではなく、俺は国王の執務室にそのまま通された。

こんな顔パス状態、たとえ外国からの国賓でも滅多にあるわけがない。

俺も義理の息子としてリーンワース王国に馴染んで来ているのかもしれない。


「これは国王陛下ちちうえ、ご機嫌麗しい様子、何かございましたか?」


 社交辞令で挨拶をする。

国王ちちうえが渋い顔をする。

これは貴族語で「俺は機嫌が悪い。さっさと帰せ」という意味になる。

まあ帰りたいのは事実だけど、機嫌が悪いわけじゃないんだけどね。


「此度の北の帝国撃退と帝都防衛、感謝しておる」


 国王ちちうえが頭を下げる。

国王が頭を下げるなど、あまりあってはならないことだ。

まあ帝都に向かう北の帝国の陸上戦艦の残骸を見たら、どれだけの危機だったか国王にも理解出来たのだろう。


「その褒章・・を出したくて呼んだというわけなのじゃ」


 え? 褒美をくれるの? なら話は別だわ。

喜んで受け取りましょう。


「うちにはまだ娘がおってな「それは遠慮します」」


 俺は食い気味に嫁入りを拒否する。

苦笑いするリーンクロス公爵爺さん


「つれないのう。ならズイオウ領の周辺領地を同量贈与しよう」


 え? 追加でくれるの?

リーンワース王国の中に他国領が増えるというのは問題だろうに、まあもらえるならありがたい。

都市整備には金と労力をかけているから、周辺も発展するという目論見か?

まあ、あそこに俺の戦力があれば、北の帝国からの守りになるという腹積もりもあるか。

今回のように王都を守ってもらえるなら安いものだろう。


「おお、それは有難い」


「婿殿には、末永く我が国と友誼を結んでもらいたいからの」


「お気持ち感謝します」


 俺は領地が倍増になったことで有頂天になっていた。


「ところで、北の要塞のことなのじゃが」


「はあ」


 北の要塞? 何かあったか?


「要塞砲が破壊した陸上戦艦が4艦あってのう」


 ああ、それか!

大破鹵獲した陸上戦艦は例の如く第13ドックへ持って行って修理して使うことになる。

うちで確保した7艦+鹵獲1艦は修理と整備で既にドック入りしている。

ここで話題に出ているのは、ボルダルの要塞で撃破された敵陸上戦艦4艦のこと。

これは俺が製造してリーンワース王国で使用している重力加速砲が撃墜したので、リーンワース王国所有の武器が撃墜したということで権利が丸々リーンワース王国にあった。

その4艦も直してほしいということだが……。

前の2艦に、この4艦を加えたらリーンワース王国の陸上戦艦は合計6艦になる。

善からぬことを思いつく輩が出なければ良いが……。


「それと、ルグルドがまた……」


「直すのですか? 高いですよ?

それにリグルドはボルダルの要塞司令が独断専行した結果だそうじゃないですか」


 俺は少し牽制してみる。


「ぐぬぬ。奴は更迭した。

度重なる要塞陥落と陸上戦艦を失った責任を取らせて腹を切らせた」


 ちなみに腹を切るというのは辞めさせたことの比喩であり、実際に腹は切っていない。

本人は不満だが責任をとらせたという意味合いだ。


「それは当然でしょう。

私が提供した重力加速砲が無ければ要塞を突破されていたところですからね。

それで、修理費の方は?

前回の陸上戦艦の修理費も、ボルダルの要塞の修復費もまだいただいてないのですが?」


「いっそ、奴の領地だったボルダルを渡そう。

欲しければ他の土地もやるぞ?」


 金じゃなくて現物支給か。

このペースで修理していたら、そのうちリーンワース王国を全部もらうことになるぞ?

うーん。どうしようか。

ボルダルの要塞にオライオンとパンテルを張り付かせておくのも負担になっているからな。

何より乗組員が常駐になっているのが可哀想だ。

定期的に入れ替える予定だけど、それが要らなくなるのは大きいか。

そうだ、あれを認めてもらおう。


「わかりました。修理しましょう。

その代わり認めていただきたいことがあります」


「何じゃ?」


「以前、南の蛮族の地までリーンワース王国を通って行ったことがありましたよね?」


「ああ、あったの」


「あの時、南の蛮族の土地を刈り取りまして、そこを我が国の領土と認めてください。

それと他にも土地をください」


 国王ちちうえがホッとした表情を見せる。

もっと無理難題を言うと思われていたらしい。

俺はそんな無理難題を言ったことはないはずだが?


「そんなもので良ければ認めよう。それと娘もつけよう」


 どれだけ俺との繋がりを欲しているんだ。

また娘が付いて来たよ。


「娘さんはもう充分です」


「しかし、南の蛮族の土地を統治するには都合の良い娘じゃぞ?」


 え? 何それ? まさか……。


「こんなこともあろうかと、南の蛮族と対立しておる部族・・の有力者の娘を妻に迎えておる。

その娘と儂の間に出来た子じゃ。この繋がりはきっと役に立つぞ」


 国王ちちうえ……。

融和政策に政略結婚を使いすぎでは?


「善は急げじゃ。おい、シンシアを呼んで来るのじゃ」


 国王ちちうえはベルを鳴らすと執事を呼び、娘のシンシアを呼びに行かせた。


              ・

              ・

              ・


「父上、いかがされたのですか?」


 シンシアが国王執務室にやって来た。

驚いた。シンシアはエルフだ。

あの特徴的な長い耳――笹耳――の美少女だ。

南の部族ってエルフだったのか。


「おう、シンシア、こちらがお前が嫁ぐクランド陛下じゃ」


 国王ちちうえが、速攻で嫁入りを伝えた。

まだ俺は受け入れるって言ってないよね?


「まあ、クラリスが嫁いだあのクランド陛下ですの?」


 シンシアはクラリスの1歳上の姉で仲が良いらしい。

この前の里帰りでいろいろ聞いていたらしく、俺に興味津々のようだ。


「そうだ。今日から婿殿のもとへ行くのじゃ」


「え?」


 それで決まっちゃうの?


「南の土地を手に入れるにはエルフと折り合いをつけななければならないじゃろう。

話を聞くと彼の地は荒れ地でエルフもさほど重要視していないだろうが、有力者の縁者を嫁に持てば話が速いぞ?」


国王陛下ちちうえ、ありがとうございます」


 シンシアの嫁入りが決まった瞬間だった。

国王ちちうえもイケメン老人だからエルフの血の入ったシンシアは更なる美人だ。

喜んで嫁いでくれるなら断る理由がもうなかった。

こうして俺は第4の嫁を迎えたのだった。

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