第115話 膠着、修理

 左舷の蒸気砲は使用不能だが、応急修理によりザーラシアを戦線に復帰させることに成功した俺たちは、エルシーク、ルナワルド、ザーラシアの3艦で敵艦隊を追撃したのだが、早々に打つ手が無くなってしまっていた。

魔導レーダーによると、敵艦隊はボルダルの北、ガイアベザル帝国とリーンワース王国の国境を隔てる山脈に穿たれた唯一の通交路である大峡谷の奥まで撤退していた。


「うーん。魔導砲を撃てば敵艦を撃破出来るだろうが、こちらも撃たれて相打ちだな」


 狭い峡谷に魔導砲を撃ち込んだら敵艦も避けようがないが、逆にこちらも反撃を避けられないので、敵旗艦と思われる大型艦の魔導砲に撃たれてしまう。

しかも、魔導砲搭載の敵旗艦を守るように他の艦が単縦陣で盾になっている。

この敵艦4艦を撃って排除する前に、こちらの3艦が撃たれてしまえば相手の勝ちだ。

射線は直線上に固定されるので、撃つためには撃たれる危険がついて回る。

つまり、こちらとしては敵旗艦の魔導砲の存在が、攻撃を躊躇わせる抑止力となっていた。

しかし、敵艦隊も動けないので、お互い打つ手がなく膠着状態に突入した。

俺らは峡谷出口の北の要塞奪還を諦めて撤退するしかなかった。


 ルドヴェガース要塞では敵兵の捕縛や撃破された陸上戦艦の鹵獲作業が始まっていた。

城塞に突っ込んだ陸上戦艦はリーンワース王国の戦利品なので、リーンワース王国の兵士が大喜びしている。

一方、リグルド大破の原因を作った騎士たちは大目玉を食らっていた。


「おまえら何をした!」


 ブラハード将軍の怒鳴り声が作戦指令室に響く。


「我らは何もしていない。何も出来なかっただけだ」


 騎士が悪びれることもなく言ってのける。


「でも何か触ったよな? 調べればわかるぞ?

リグルド・システムコンソール、電脳、生きてるか?」


 俺は情報端末でリグルドのシステムコンソールを介して電脳にアクセスする。


『はい。予備魔導ストレージのエネルギーで基本システムは稼働しています』


 情報端末にリグルドの電脳からの通信が繋がった。

俺は端末からその通信内容を皆に聞けるように流してやる。


「何があった」


 騎士の方をちらりと見ながらリグルドの電脳に説明を求めた。

俺は「自白するなら今だぞ?」と目で圧をかけた。


 視線を逸らす騎士たち。


『彼らは魔導通信機で遊んでいました』


「は?」


『私に命令したかったのでしょう。

そのうち艦内に声が響くのが面白くなったらしく、歌い始めました』


 俺は頭を抱えるしかなかった。

大事な通信機で遊んで肝心な通信を受けそこなったのか?

たしかに俺が機能制限をかけたから、色々と試したくなったんだろうが、触るなって言ったよな?


「それで大破に至ったと? 電脳は何をやっていた?」


『艦内の緊急事態に対応しておりました』


 おいおい。初耳だぞ?


「緊急事態?」


『はい。機関室に侵入した者がおりまして、マニュアル操作が出来るバルブなどを弄り倒しまして……』


「まさか魔導機関を暴走させかけたのか?」


 俺は騎士の方を睨む。

一人の騎士が視線を逸らす。

ブラハード将軍の顔がみるみる赤くなっていく。


『ゴーレムを派遣し対応しましたが、その間艦の制御が疎かになっておりました』


「外部の脅威より内部の脅威の方が優先順位が高かったというわけだな?」


『はい』


 魔導機関が暴走しかねないのに緊急回避をしたり魔導砲を撃ったりは出来ないわな。

まさかここまでやらかしているとは思わなかった。


「どうやら最大の敵は内部にいたようだぞ? ブラハード将軍」


「恥ずかしい限りだ。こいつらは王国有力貴族の子弟でな。

まさかクランド陛下に無理強いをしていたとは俺の耳にも入っていなかった。

この者たちには王国の資産を棄損した責任をとってもらう。

今後はリーンワース王国の資産だからと言って無理強いはさせないことを誓おう」


 まったく、リーンワース王国の貴族も信用ならない奴らばかりだ。

貴族位に胡坐をかいて、能力の伴わない子弟がゴロゴロいる。

しかも、そういった奴に限ってプライドだけは一人前以上。

これが貴族制の弊害ってやつだろうか。


 うちではそうならないように気を付けよう。

それとリーンワース王国にフルスペックの陸上戦艦を渡すのは危険だわ。

何より想定外の悪戯による自爆が怖い。

隣で自爆されたら、こっちまで巻き込まれてしまう。


「まさか、味方と思っていた方が脅威度が高いとは思わなかったぞ」



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 膠着状態とはいえ、無駄に時間を浪費していては、北の帝国に増援を迎える暇を与えることになる。

こちらも増援を得なければならないのだが、これ以上の余剰戦力などこちらにはなく、壊れた艦を修理するぐらいしか俺にはやりようがなかった。

俺は敵の陸上戦艦の残骸5艦分とリグルド、ザーラシアをインベントリに収納し第13ドックに転移した。


 どこで察知しているのかわからないのだが、俺の訪問に気付いたセバスチャンが直ぐに俺の元へとやって来た。


「これはクランド様、お帰りなさいませ。

いかがなされましたか?」


「陸上戦艦の修理を頼みたい。ザーラシアを優先し、残りは早い順で早急に対処して欲しい」


 俺がドックにザーラシア、リグルドと5艦の鹵獲陸上戦艦の残骸を出すと、セバスチャンがドックの電脳とやりとりを始めた。


「はい。ザーラシアは1日で修理可能です。

次にラーケン、その次にレオパルドが比較的早く直せそうです。

魔導砲の用意には3日かかりますのでご了承を」


「魔導砲は後回しでいい。

ラーケンとレオパルドには俺が開発した重力加速砲を主砲として搭載する。

それだとその2艦はいつ頃修理が終わる?」


 こちらはなるべく早急に数が欲しいのだ。

魔導砲が艦首から舷側まで抜けたような艦は早急な修理は無理だろうが、上手い事重力制御装置を打ち抜かれた艦ならば、余剰の重力制御装置があれば早く直せるだろう。


「はい。重力加速砲は用意していただければ直ぐにでも。

重力制御機関は在庫的に……。2日、いえ1日半で終わらせましょう」


「頼む。

なんなら、他の艦から部品取りをしても構わない」


「部品が使えるか調べてみましょう」


 これで明後日までにはザーラシア含めて3艦が戦線復帰出来ることになった。

問題は乗組員か。

リーゼやティアのような指揮経験のある騎士団長クラスが必要だな。


「他の4艦も修理を頼む。

ああ、リーンワース王国のリグルドとそれ・・は魔導砲を搭載しなくて良い。

今後は俺が作った重力加速砲だけを主砲とする。

修理も一番後回しでいいぞ」


 面倒だからリーンワース王国の陸上戦艦は後回しにした。

ついでに魔導砲を渡すのは危険だから主砲として重力加速砲のみの搭載としておく。

いや、それでも対策は不十分か。


「この2艦は機関室への隔壁も追加で欲しい。

勝手に人が侵入できないようにしておいてくれ。

残りの2艦は魔導砲含めて完全修理だ。

ラーケンとレオパルドは後で魔導砲に換装する」


「はい。となるとリグルド用として準備していた魔導砲が流用出来ますので、それはレオパルドに載せておきましょう」


「ああ、そうだな」


 キルト=ルナトーク=ザールの所属艦なら魔導砲があってもいいし、リグルドに用意していたものなら余っているということだしな。


「はい。それではザーラシア、ラーケン、レオパルドの3艦の修理が終わり次第、オライオン、パンテルを完全修理、ジーベルドとリグルドは隔壁追加で最後ということで宜しいですね?」


「それで頼む」


 それにしても、ドックに係留しただけで各艦からデータを吸い上げて名前を把握しているんだな。

さて俺は第一陣の修理が終わるまで、ズイオウ領で乗組員を選抜するか。

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