第101話 強襲作戦
重力制御装置に繋がるエネルギー伝送管を破壊したため、敵艦は緩やかに墜落した。
魔力バーストも無く、火薬の誘爆もそれほど無かったし、高度があまり高くなかった。
なので、乗組員が生き残っていることが推察される。
結局俺は、やりたくもない白兵戦を余儀なくされていた。
俺のブルーとティアのオレンジ、ニルのワイバーン騎兵隊5騎の合計7騎が強行偵察のため後部倉庫から出撃する。
後部倉庫は日本だと護衛艦の後部にあるヘリ格納庫みたいな感じだろうか。
倉庫の出入口が後方の広い甲板に繋がっていて、そこにワイバーンを引き出して発進させるかたちだ。
ワイバーンの翼は意外とパワーがあって、その場でホバリングも出来るので垂直離着艦が可能だ。
まさにヘリコプターっぽい運用が出来る。
余談だが、マッハ加速の時に後部倉庫のワイバーンがどうなったか心配だったのだが、後部格納庫の壁に【状態固定】の魔法がかかっていて無事だった。
倉庫という性質上、荷崩れの懸念から魔導具が設置してあったらしい。
つまり艦橋の指令室や船室にも魔導具を設置すればマッハ加速での戦闘も可能になるということだ。
普通なら【状態固定】の魔導具が、とんでもなく高価なものになるのかもしれない。
だが、俺なら魔宝石や燃料石の生成から術式のコピーまで自前で出来てしまうので、原価ゼロでいくらでも造ることが出来る。
後で大盤振る舞いしておこう。
今思うと北の帝国の第五皇子アギトが墜落死した理由も、艦橋指揮所に【状態固定】の魔道具が無かったからなのだろう。
元々無かったのか、壊れて撤去されたのかはわからないが、ニムルドを修理した時に気付かなかったということは、どちらにしろ設置されていなかったということだろう。
だが、この敵艦はどうだろう?
もし、艦橋指揮所や船室にまで【状態固定】の魔道具が設置されていたなら、かなりの数の敵兵が残っている可能性がある。
それを偵察するためのワイバーン偵察強襲部隊だ。
ワイバーン騎兵用のワイバーンは大型種を連れて来た。
ワイバーンの背には鞍が設置されており、騎手1、同乗者の騎士――革の軽鎧装備――2の合計3人が騎乗する。
俺とティアのワイバーンもタンデム仕様なので同乗者を1人ずつ乗せられる。
つまり俺とティア、ニル以下のワイバーン騎兵の他に12人の騎士を連れていけるのだ。
「全員騎乗したな? これより敵艦に向けて強行偵察を行い、可能ならば敵艦の上甲板に着艦、そのまま白兵戦で敵艦を制圧する。
降伏を勧告し降伏したなら武装解除して拘束しろ。抵抗するなら排除してかまわん。
魔銃の使用も許可する。必ず生き残れ」
「「「「はっ! 了解しました」」」」
全員が一斉に答える。
「わんわん、わん!(ご主人、プチも行く!)」
え? プチ? 何張り切ってるの?
「プチ、今回はお留守番だ。
そうだ。プチはルナワルドを守れ!
一番大事な仕事だ」
「わん(わかった)」
ふう。プチが納得してくれて助かった。
「気を取り直していくぞ!」
「「「「はっ!」」」」
この騎士たちは魔銃を装備させた最精鋭部隊だ。
魔宝石と燃料石を使った雷系の魔銃――レールガン開発の副産物――なので、本人が魔法を使えなくても魔力に乏しくても使用可能だ。
これは以前、リーンワース王国に提供したライフルとは違って範囲攻撃は出来ない。
威力と攻撃範囲が狭めてあり1発で1人、所謂
さらに燃料石を簡単に交換でき、即時に魔法をリチャージできる改良版だ。
燃料石1つで撃てるのは致死レベルで20発。麻痺レベルに威力を落とせば50発は撃てる。
これは魔銃側面のセレクターで変更する。
騎士は普段は剣を使うが、陸上戦艦の内部のような狭い場所では魔銃は剣より重宝するはずだ。
今回はなるべく麻痺で使用するように命じた。
狭いと味方に当てる
まあ、相手が魔法耐性が高い魔法使いだったりしたときは
騎士に支給した拘束具は地球でいう結束バンドだ。
意外なことに、外国では警察や軍隊が犯人や捕虜を拘束するのにこれを重用しているらしい。
簡単にスピーディーに拘束でき、刃物が無ければ外せないほど丈夫。
これを大量生産して支給した。
そしてもう一つ。
この世界には魔法使いがいる。
結束バンドなど魔法で簡単に排除できてしまう。
火の魔法で燃やしたり、風の魔法で切ったりするのは、魔法使いにとって簡単なお仕事である。
なので魔法使い専用の魔力阻害効果つきの結束具がいる。
これは手錠型の魔道具を作って各自1つずつ支給している。
この装備で敵艦に強行突入する。
まさか奴らもワイバーンで乗り込んで来るとは思うまい。
「ニル隊は騎士を降ろしたら第二陣を折り返し運んでくれ。
よし、出撃だ!」
ワイバーンが一斉に羽ばたき、空へと舞い昇る。
そのまま敵艦へと最高スピードで向かう。
先行したワイバーン騎兵が、敵艦の周囲を廻り上甲板と艦橋の様子を伺う。
「上甲板に敵影なし。艦橋には動くものが見えます」
先行して偵察に向かったニル隊のワイバーン騎兵が報告する。
この世界には弓と魔法ぐらいしか対空兵器がない。
北の帝国は火薬砲を持っているが高速で移動するワイバーンを狙い撃つことも、散弾のようなものを使うことも出来ない。
全て人力で狙いを付けているので、敵兵さえ居なければワイバーンは安心して着艦できるのだ。
「よし、手筈通りに上甲板に着艦、騎士を降ろせ」
俺たちは敵艦の前甲板と後甲板に部隊を分けて着艦した。
後甲板の指揮はティアに任せ、俺は前甲板から艦橋に向かう。
従う騎士はティアの方に5人と俺の方に7人だ。
俺たちを降ろしたニル隊がルナワルドに戻る。
折り返し残りの騎士全員にあたる13人を連れて来る予定だ。
ルナワルドの守備はプチと700番代ゴーレムに任せてある。
残りの騎士はティア隊7人、俺の隊6人に分け残敵掃討に向かわせる。
「先行する。目標は艦橋の制圧だ」
「「「はっ!」」」
奇襲効果も考えて先行して敵艦内に侵入する。
敵艦の構造はルナワルドと全く同じで、上甲板には艦橋構造物へと侵入できる扉がある。
おそらく俺達が前甲板に降りたのは艦橋から目撃していただろう。
俺はインベントリから700番代ゴーレムを1台出して扉を開けさせる。
開けた途端に弓やボウガン、魔法で狙われるというのは良くあることだからだ。
しかし、艦橋基部の出入り口は敵の抵抗はなかった。
そのままゴーレムを盾にして階段を上がる。
2階入り口も抵抗なし、となると最上階の3階に立て籠もる心算か。
ゴーレムを先行させ階段を上がる。
目の前には3階の扉がある。
「ゴーレム、突入と同時にスタングレネード発射、鎮圧する」
「陛下、我々が先行します」
騎士たちが俺の前に出る。
そういや、俺は国王だったんだ。
何も俺が先頭を切って突入しなければならない理由はない。
ここは騎士に任せるのも上に立つ者の務めか?
「任せる」
「「「はっ!」」」
あ、なんか嬉しそうだ。
人に任せるのも部下を持つ上司の務めなんだな。
「よし、準備はいいな? スタングレネード発射!」
俺の合図で700番代ゴーレムが扉を開け中にスタングレネードを発射する。
大音響と光が艦橋内に溢れる。
俺たちは口を開き目を瞑り耳を塞いで、その光と音を防ぐ。
めくら撃ちを防ぐため700番代ゴーレムを盾にしている。
これも訓練の賜物だ。いつのまにか騎士が特殊部隊化している気もするが……。
瞼から光が消えたのを確認すると目を開く。
「突入!」
俺の命令でゴーレムを先頭に騎士たちが艦橋内に突入する。
反撃はなし。
騎士たちの後を追って俺も突入する。
そこには目を覆いうめき声を上げ、のた打ち回る北の帝国の軍人たちがいた。
「武装解除して拘束。7人か。丁度だな。全員魔道具で拘束しておけ」
艦橋内部には7人の司令部要員がいた。
上等な軍服を着た艦長と副長みられる人物。その他の一般兵が5人。役目は見た目ではわからない。
あ、1人は舵輪の側にいるから総舵手か?
陸上戦艦は艦の電脳が動かしているものだと思っていたが、そうではないようだ。
そのマン=マシンインターフェイスがシステムコンソールなのだ。
この艦は人の操作で動かしているのか?
どうやら電脳の機能が限定的なようだ。
騎士が全員に魔道具の手錠をかけ、足を結束バンドで縛っていく。
騎士が丁度7人いたので手錠が間に合て良かった。
あ、予備がインベントリ内にも手錠があったわ。
しばらく周辺の部屋を確認させ、艦橋に騎士たちが戻って来たところで、伝声管からティアの声がした。
『主君、そちらは制圧できましたか?』
俺は声のした伝声管に向かって大声を上げる。
「ああ、7名捕虜にした。そちらは?」
『一般兵13人を拘束しました。中甲板には焼死者もいましたが、他は墜落の衝撃で亡くなったようです』
つまり、【状態固定】の魔導具があったのはここだけだったということか。
この艦には後部倉庫がない。
つまり【状態固定】の魔導具があった部屋以外では誰も生き残れなかったということだろう。
「そうか、一旦後部甲板に集合しよう」
『了解しました』
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
後部甲板に着くとティアの部隊は12人全員が集合していた。
ニルたちワイバーン騎兵も着艦している。
「こっちの捕虜はこの7人だ。そっちと合わせて20人か。
ルナワルドの中は見せたくないので、ちょっとリーンワース王国に運んでしまおう。
うちでは持て余すからな」
捕虜全員を麻痺させて【転移】でリーンワース王国の転移陣へと向かう。
目の前の景色が変わり、リーンワース王国の王城警備の騎士と目が合った。
俺が転移して来たのを見て警備の騎士の1人が慌てて上司に報告にいく。
しばらく待つとリーンワース王国の近衛騎士団長が現れた。
面識はあるが名前までは知らない。
今度聞いておこう。
「クランド陛下、これはいったいどうしたことですか?」
俺が国王の娘婿で一国の主だと知っている騎士団長は、大慌てでやって来てくれたようだ。
「これは騎士団長、北の帝国の陸上戦艦と交戦しましてな」
「ええっ!」
騎士団長が捕虜の方に目を向け驚きの声を上げる。
「北の帝国の高級将校2人と部下18人だ。
うちでは持て余すので交戦国である
「確かに北の帝国の特級帝国民のようですな」
騎士団長が今後の対応を思案しだしたのを見て、俺はルナワルドに帰ることにした。
「じゃあ、頼んだよ」
「ちょ、待……」
騎士団長の制止の言葉を振り切って俺は【転移】した。
俺は敵艦の後部甲板に【転移】で戻って来た。
既に騎士たちはルナワルドへワイバーンで戻っており、ここにはニルとティアしか居なかった。
ワイバーンもブルーとオレンジのみ。
「よし撤収。この艦は俺のインベントリに入れとく」
俺はニルの騎乗したブルーの後部に乗って上空に舞い上がった。
そして上空から敵艦をインベントリに収納、中の遺体はインベントリの自動仕分け機能で分離した。
墜落の穴に遺体を出すと火魔法で火葬、土魔法で埋める。
「悪いな。これが戦争だ。撃たなければこっちが撃たれていた。
死んだらみな同じだ。成仏しろよ」
俺は仏教式の合掌をする。
これで冥福が祈れるかはわからないが、自己満足にはなる。
「さあ、帰るか」
俺たちはルナワルドへの帰路についた。
その途中でニルがボソリと呟いた。
「主人、なんで作戦に【転移】を使わなかった?」
あ、そういや目視できる場所には行ったことがなくても転移出来るんだった。
拙い。すっかり忘れていた。
俺は冷や汗が垂れるのを自覚した。
「そ、それは……。そう訓練だよ。俺が居なくても同じ作戦がこなせるようにさ」
ニルがジト目で見ている。
「ん。そう。(そういうことにしておいてあげる)」
これは誤魔化せてないな。
でも言わないでくれてありがとう。ニル。
さあ、これで第13ドックに向かえるぞ。
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