第84話 再び内政へ

「というわけで、新しく嫁いで来たクラリスだ」


 俺は二人の嫁と皆を集めて、リーンワース王国から嫁に来た第七王女クラリスを紹介した。


「彼女はリーンワース王国の王女であると同時に、戦闘奴隷との中に混じっていたザール連合国の王家の血筋でもある。

今後の統治に必要な旗印になれる存在なんだ。許して欲しい」


 俺の説明に嫁二人がジト目を向けて来る。

これは「また嫁を増やして」という非難の視線ではないな。

そうだよな。政略結婚だから仕方ないという説明じゃダメだ。

俺がクラリスを嫁にしたかったのだ。


「この政略結婚は政治的なしがらみであると同時に俺のたっての望みでもある。

俺がクラリスを気に入った。仲良くしてくれ」


 俺は正直に自分の気持ちをぶっちゃけた。

皆に怒られるかと思ったら全員が好意的な態度を示してくれた。

既に二人の嫁を娶っておいて、政略結婚を理由にするなんて嫁二人にもクラリスにも失礼だった。

これで良かったんだ。


「クラリスと申します。旦那様の妻として励んでまいりたいと思います。

皆々様方、よろしくお願いいたします」


「よろしくね、クラリス。

わたくしはアイリーン=ルナトーク=ササキ。

クランド様の第一夫人です」


 アイリーンがクラリスに声をかける。

それを契機としてサラーナが自己紹介を始めた。

皆も嫁という立場ではないが仲間として挨拶している。

良かった。皆仲良くやっていけそうだ。


 あ、クラリスってリーンワース王国の王女だから序列は何処にするべきなんだろうか?

アイリーンの第一夫人は民の数的に譲れないし、サラーナは最初に嫁になると言い出した存在だし。

大国の姫だけど第三夫人で我慢してもらえるだろうか?




◇  ◇  ◇  ◇  ◆



「主人、ワイバーンが戻ってない」


 ニルの言葉に俺は慌てた。

ルドヴェガース要塞都市までワイバーンに乗って行ったのに、帰りは【転移】で戻ってしまったので、ワイバーンをルドヴェガースに置いて来てしまっていたのだ。

ルドヴェガースのワイバーン厩舎に空きが無かったので、ワイバーンを空にはなっていたのが災いした。

俺はニルと共にルドヴェガースまで【転移】すると笛でワイバーンを呼んでもらった。


 集まったワイバーンが「ギャーギャー」と文句を言っている。

俺の他種言語スキルによると『腹減った』だそうだ。

ワイバーンはアホなのであまり会話は成立しないが、俺なら言っている単語ぐらいはわかるのだ。


「ん。ほれ」


 そのワイバーンの声に、ニルが魔法ポシェットから魔物肉を出してワイバーンに与えている。


「え? ニルってワイバーン語わかるんだ!?」


 俺の驚きの声にニルが怪訝な表情を向ける。


「言葉がわかるわけない。様子がわかるだけ」


 ニルがワイバーンの口を指さす。

ワイバーンの口から涎が垂れまくりだった。

ああ、これなら誰でもわかるな。

ワイバーンも狩りで腹を満たすことぐらいは出来るが、ここでそれをしても良いのか判断に迷ったのだろう。

その点はニルがしっかり調教していて助かった。

ワイバーンがリーンワース王国の資産に手を出していたら大問題だった。


 ワイバーンに魔物肉を与えて落ち着いたところで、そのままワイバーンと共に【転移】しようとしたところ、防衛責任者のブラハード将軍が慌てた様子で駆け寄って来た。


「クランド陛下、しばし待たれよ!」


 俺は拙い奴に捕まってしまったと思い、しかめっ面をしてしまう。

ワイバーンの餌やりに時間をくってしまったので、俺が来ているという報告がブラハード将軍まで上がる時間を与えてしまったのだろう。

俺が会いたくなさそうな空気を出していることを察したブラハード将軍が引きつった笑みを浮かべながら近寄って来る。


「陛下には申し訳ないことをした。

本国よりきついお叱りを受けた。

これこの通り謝罪させてくれ」


 ブラハード将軍は土下座する勢いで謝罪をして来た。


「いや、あれは跳ねっ返りのやったことですから。

王国からも謝罪を受けましたし、もう気にしてませんよ」


 俺は本音に面倒を避けるための建前を乗せてこの件を打ち切る。


「実はお詫びの代わりと言ってはなんだが、ボルダル奪還作戦で戦闘奴隷を保護しておいた。受け取ってくれ」


 ブラハード将軍の好意である戦闘奴隷は3千人も居た。

見たところ、おそらくキルトの民でもルナトークの民でもない。

何故ならその戦闘奴隷は全員が獣人だったからだ。

まさかと思うが、管理経費の節約で俺に押し付けたいんじゃないだろうな?


 彼らはザール連合国を含めて、そこの傭兵だった可能性はあるが、おそらく違う国の民だろう。

折角確保してくれた戦闘奴隷たちだけど、俺が求めるキルトやルナトークの民ではない。

あ、クラリスを娶った今ならザール連合国ガルフ国の民でも受け入れることになるか。

俺はこの辺の地理に疎いので国名まではわからないが、別の国の出身かもしれない。

だが、ミーナも獣人だから、その縁者が含まれていると困るな。

放っておくわけにもいかないか。


「わかった全員連れて帰ろう。

ところで戦況はどうなっている?

ボルダルを奪還したなら北の要塞も奪還したんじゃないのか?」


「ああ、陸上戦艦の無い奴らは戦闘奴隷頼りで弱すぎた。

北の要塞を守る戦力も無かった。

戦闘を避け、北の要塞から撤退して行ったわ」


 となると、陸上戦艦が再び出て来るまでは余裕があるのかな。

その陸上戦艦をリーンワース王国が落とせるとなると、北の帝国もその対策で慌てているところだろうな。


「しばらくは膠着状態と見ていいかな?」


「ああ、ただ、弾薬の補充を頼みたい。次は決してあの武器をそちらに向けないと誓おう」


 ふむ。北の要塞を守ってもらえれば、こちらの内政が捗るな。

防衛出来るだけの弾薬は補充するべきだな。


「そこはまたリーンクロス公爵を通してくれ。

前向きに検討すると約束しよう」


「ありがたい」


 臨時会談はこれにて終了した。

俺はワイバーンと獣人の戦闘奴隷たちを連れて【転移】でズイオウ領に戻った。



◇  ◇  ◇  ◆  ◇



「ご主人様、何処へ行っておられたのですか?

それにその方たちは?」


 ズイオウ領に【転移】で戻ると、アイが待ち構えていた。

そこは【転移】で大量の人員が移動してくると、その場に居る者を巻き込む危険があるということで設けた【転移】専用広場だった。

この広場は、これから【転移】する人員を集めるためと、外から【転移】してくる者のために、【転移】で使用する以外は立入禁止のエリアとして確保されていた。


 俺が【転移】で出かけたことを知って、アイは安全地帯で待っていたようだ。


「やあ、アイ。ちょっとルドヴェガース要塞都市までワイバーンを迎えに行っていた。

そうしたら戦闘奴隷を保護してるというので、連れて帰って来たんだよ」


「ご主人様にはご主人様にしか出来ないことがあるのですから、出かける時は一言私に声をおかけください。

それに勝手に人を増やすと国民の受け入れ計画に狂いが生じます。

その方たちの住居や食事はどうするおつもりなのですか?」


 アイが俺をジト目で見ながらチクチクと嫌味を言う。

全て正論なので反論の余地がない。

現在ズイオウ領には奴隷商から解放されたキルトとルナトークの民が2万4千人。

先日ルドヴェガースから連れて来た戦闘奴隷が1万人。

そして今日俺が連れて来た獣人が3千人増えて、人口は合計3万7千人にまで膨らんでいた。


「ご主人様には、まず【農地回復】と【促成栽培】の魔導具を作ってもらいます。

種や苗は現在の畑から入手可能です。ご主人様はノータッチで構いません。

畑の開墾や種蒔きも人力で行います。

【農地回復】と【促成栽培】はふねの農地から魔導具を運んで現在は使いまわしています。

食料の増産が急務です。収穫の労働力だけは充分以上にあるので、ご主人様はご主人様にしか出来ないことをしてください!」


 アイにめっちゃ怒られた。彼女を都市計画責任者にしたのだから当然か。

人が増えるということは、住み家と仕事を与えて食わせなければならない。

何も産業が無い所に4万人弱の生活手段を創設するのは、まともなやり方では無理というものだ。


「それと、行政に関われる人材を確保してください。

全員の能力を把握して適材適所で働いてもらわなければなりません。

今はご主人様がただ国民に食べせているだけです。

いつか破綻しますよ? 国民には自ら働いて生活してもらわなければなりません」


 それを俺がするの?

いや、だから行政に関わる人材を発掘して丸投げするべきなのか。

どうすればいいんだ?


 その時、魔導の極が仕事をした。

全国民を【鑑定】し、JOBとスキルをチェックして適材適所に配置するばいいとのアドバイスを得た。


 俺は全国民に【鑑定】をかけた。

全ての国民のJOBやスキルが見えてしまう。

その中から行政に関われるJOBやスキル持ちをピックアップしリスト化する。


「えーと、とりあえず暇な人は……。

シャーロとティア、このリストの人を探して連れて来てくれ」


「了解しました」 


「それとターニャとアンはウェイデン伯爵の治安部隊と一緒に、このリストの人物を捕まえてくれ。帝国のスパイだ」


「!」「承りました」


 俺のスパイという発言にターニャが驚く。しかし、気を引き締めるとスパイ捕縛に向けウェイデン伯爵の元へと協力要請に向かった。

アンは別行動でスパイの行動監視に向かう。リストにはスパイの現在の居場所とスキルで描いた似顔絵がついているのだ。

まさか【鑑定】で出身国や所属が丸見えだとは思わなかったよ。

ルドヴェガースで奴隷契約の有無だけで帝国人を見分けたのは失敗だった。

敵国に潜入するために戦争奴隷のふりをするからには奴隷魔法をかけられるぐらいは平気でやるということだな。


「ミーナはいるか? ミーナはボルダルから連れて来られた獣人達を面接してくれ。

ほとんど傭兵あがりらしい。我らに恭順するか去るか聞いてくれ」


「わかったにゃ。金で雇えと言われたらどうするにゃ?」


「奴隷解放分は働けと言ってくれ。残れば北の帝国と戦わせてやるとも伝えろ」


 その言葉にミーナはニヤリとすると席を立った。


「さてと、俺は内職を始めるか」


 俺は【農地回復】と【促成栽培】の魔導具と生活に必要な水の属性石と火の属性石を量産する。

火と水の複合属性石を使ったシャワーヘッドも作っておこう。

あれはお湯を出す魔道具として何処でも使えるからな。

とりあえず自活出来るだけの設備を作り、後は仕事分で食材を配給でもする形に移行させないとな。

なんと言っても今や共同食堂の規模が信じられないものになっているからな。

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