第70話 ポイント11侵入

 空賊がアジトとしていた木造建築物が連なる奥に小高い丘があった。

その丘の麓には大きな洞窟が口を開けており、そこから戦車と戦闘機が引き出されていたようだ。

洞窟からは戦車のキャタピラーと戦闘機の主脚がつけたであろう轍が刻まれていたのだ。


「この中にポイント11があるんだろうか?」


 俺はモバイル端末の向こうのシステムコンソールにそう問いかけた。

システムコンソールは俺たちに同行した700番台ゴーレムの目を通じて様子を把握していたので、その問いに返答することが出来た。


『ここは物資の搬出入口です。

この先の隔壁内がポイント11の構内になります。

おそらく隔壁は閉ざされているでしょう。

その隔壁までの間には空賊が居る可能性があります』


 そこには破壊され、無理やりこじ開けられたシャッターがあった。

中に空賊が残っているかもしれないので、俺はゴーレムに偵察させることにした。


「ゴーレム、中を偵察して来てくれ」


 ゴーレムには攻撃許可を出さない。

なぜならゴーレムには空賊と人質の区別がつかないからだ。

そこは俺が【鑑定】で調べるしかない。

どうやら俺は【鑑定】でその人物のジョブやレベル、賞罰などを見ることが出来るようなのだ。

今まで犯罪者を詳しく【鑑定】したことが無かったため気付かなかったのだが、空賊の生死を調べようと【鑑定】したところ、生死どころか空賊が過去にした犯罪歴が履歴書のように判ったのだ。

あの戦闘機に乗った空賊も【鑑定】すればボスかどうかわかったはずだった。

まあ、今さらインベントリから取り出してまで確かめようとは思わないけどね。


ガキン


「くそ、歯が立たないぞ!」

「おい、あれを持て来い」


 中にゴーレムが入ってしばらくすると、中から怒声が響いて来た。


ドーン!


 続けて爆発音がした。

バズーカ的な射出武器を使ったのだろうか?


「くそ! やはり無傷か」

「ありゃ奥に行くと出て来るゴーレムだ」

「誰か戦車を持って来い!」

「戦車じゃなければ倒せないぞ」

「いや、戦車は出て行ったきり戻って来ないだろうが!」

「うそだろ、戦車がやられたのか」

「じゃあ、ここの持ち主が帰って来たとでも言うのかよ」

「逃げるぞ。ボスも帰って来ないしここはもう駄目だ」


 そんな声が聞こえて来たと思ったら、シャッターの中から10人程度の空賊が飛び出して来た。

だが、シャッターの前には剣を構えたリーゼとティアが待ち構えていた。

しかし、空賊らの目はその二人を見ていなかった。

彼らが目を向けたのは、フェンリルとなって巨大化して後方に陣取る聖獣モードのプチの方だった。


「ふぇ、フェンリル!」

「お終いだ……」


 その呆けた連中を俺は【鑑定】していく。


「全員空賊だ。犯罪歴は強盗、殺人、強姦その他。

重罪のオンパレードかよ。っちゃっても良い犯歴だな」


 俺の鑑定結果がGOサインになったのか、リーザとティアが動いた。


「うわ」「がっ」「げふ」「げぼ」「ぐえ」「ぶふぉ」


 だが、さすがに二人では六人を相手にするのが限度だった。

プチはあまりにも弱すぎる空賊に対して危害を加えることを躊躇していた。

見かけはごつくなっていたが、中身は可愛いチワワのままなのだ。

その隙をついて空賊が散り散りに逃げる。

俺は魔銃を手にすると雷魔法を最低レベルで撃つ。


「あばば」「ぶぼぼ」「べべべ」「ばばば」


 さすが魔銃、遠距離攻撃はお手の物だった。

空賊は雷の電気で痺れて動かなくなった。


「あれ? 死んでないよね?」


 まあ、重罪持ちだから死んでもこちらは咎められることはないのだが……。

兵器の中にいて外から見えない敵は殺しているが、さすがに直接は初めてかもしれない。

俺の日本人としてのメンタリティが心にダメージを与えるかと思ったのだが……。

どうやら何らかの加護かスキルが働いてなんともなかった。


「もしかして、精神耐性ってやつが働いたか?」


 この世界には精神攻撃を受けても耐えることが出来るスキルが存在している。

極シリーズに統合されていて良く判らないが、それが受動的に対応してくれたのかもしれない。

どうやら俺は、あの時の日本の俺ではもうないらしい。

もう帰ることは無いのだ。ここで生き、子をなし育て、そして死んでいくしかない。

そのためには生活の安寧を手に入れなければならない。

ガイアベザル帝国が追って来ても撃退する力が必要だ。


 俺たちが空賊の残党に対処していると、奥へと行っていたゴーレムが帰って来た。


『捕らわれている者は確認できませんでした。

倉庫類は漁られ、ゴーレムも何体か倒されていましたが、奥は隔壁が閉鎖され侵入を許していません』


 システムコンソールがモバイル端末を通して報告を上げてきた。


「つまり、ポイント11の本体は空賊には荒らされておらず無傷ということか?」


『無傷かどうかは内部に侵入してみないとわかりません』


 先ほどの会話では空賊は度々ゴーレムと戦っていた様子だったのだが、閉鎖されていてもどこからか出入りしていたということだろうか。


「侵入方法はわかるのか?」


『はい、ここの管理者権限をクランド様が確保するだけのことです。

システムコンソールが生きていれば電脳と接触できるでしょう』


 俺はゴーレムに例のシステムコンソールへと案内された。

こうもシステムコンソールが存在すると呼び名に区別がつかなくなってきた。

艦のシステムコンソールは、さすがに艦の電脳と呼ぶようにしようか。


「システムコンソールと呼ぶと区別がつかないな。

今後は艦の電脳でよいか?」


 対人インターフェースがシステムコンソールだっただけで、この会話をしている本体は陸上戦艦に搭載された電脳上の人工知能だ。

目の前の相手としてシステムコンソールと呼んでいたが、それがもう1台あったらどっちを指すのかわからなくなる。

艦の電脳、ポイント11の電脳、目の前のシステムコンソールと区別出来るようにしないとならなかった。


『艦の電脳だと、どの艦を指すの判らなくなります。

ニムルドのような固有名詞でお呼びください』


「元々の名前はないのか?」


『既にその名は捨てました』


 なにやら電脳が悲しそうな声色で答えた。

いや、同じなのにそう感じただけかもしれない。

そこには何等かの事情があるのだろう。


「困ったな。農園艦では味気ないな。

そうだ、サラーナの国、キルトの風でキルトタルでどうだ?」


『良い名前です。これより我が艦はキルトタルと登録いたします』


 艦の名前がキルトタルとなった瞬間だった。


『主様、素晴らしいお名前です。

このサラーナ感動いたしました。

増々妻としての務めに励みましょうぞ』


 この会話はキルトタルの艦橋に残っていたサラーナたちにも聞こえたらしい。

しっかりキルトタルが通信を繋げてくれた。

いや、サラーナ。おまえ励んだことないだろ。

いかにも毎晩励んでいるように言うな。

まあ、喜んでくれたなら良いんだけどね。

もしニムルドも直せたら、そっちはアイリーンの国ルナトーク絡みの名前にしてあげよう。

修理出来るかはポイント11次第だけどね。


「キルトタル、このシステムコンソールに登録すれば良いんだな?」


 俺は同名問題をクリアすると、キルトタルに訊ねた。


『はい。システムは生きていますので、同じ手順でお願いします』


 それはキルトタルの管理者になった時と同じ手順ということだろう。


「たしか、このスキャン装置に手を置くんだったな」


 俺はシステムコンソールの画面脇にあるスキャン装置に手を置いた。

するとシステムコンソールの画面に光が灯りスキャン装置が作動した。

少しチクリとする痛みがするが、それは俺のDNAを採取したということだろう。

俺のDNAは最高権限に近い資格があるらしいから、ここポイント11も俺を管理者として受け入れてくれるだろう。


『管理権限者と認めます。

管理者名を登録してください』


「クランド」


『クランド様を管理者として登録しました。

ようこそポイント11へ』


 ポイント11の電脳はそう言うと重厚な隔壁を開いた。

空賊が何度も破ろうとしただろう隔壁は、俺の目の前で簡単に開いて行った。

その隔壁はラスコー級戦車の主砲でも打ち破れない強度があったため、空賊でも開けられなかったのだ。

埋もれた状態から空賊に発見され、外部へとアクセスできる状態となった。

それから50年、アンテナ修理に派遣したゴーレムは、空賊と遭遇しその任務を果たせないでいたのだった。

ゴーレムは人の命令を受けなければ人には危害を加えられない。

戦闘力は上回っていても、自衛以外には手が出せなかったのだ。


 ちなみに戦闘機とラスコー級戦車は、資材搬出入口から搬出する寸前で外に出ていたものだったらしい。

誰に渡そうとして、誰に阻止されたのかは電脳からは語られなかった。


「ここへは修理で立ち寄った。

陸上戦艦の修理は可能か?」


『申し訳ありません。

ドックが破壊されているため修理不能です。

ただし補修部品のいくつかは提供可能です』


「魔導砲は修理出来るか?」


『いくつかの部品がございます』


 ポイント11の電脳からの報告を受け、ゴーレムがシステムコンソールにケーブルを繋いだ。

魔導通信が使えないため、キルトタルの電脳がゴーレム経由でポイント11の電脳と有線でやり取りをして、補修部品のリストを提供してもらっているようだ。


『クランド様、魔導砲塔が手に入らないため第1砲塔は修理出来ませんが、第2砲塔は補修部品により発射可能まで修理出来そうです。

加えて対空砲が4基、VA52を2機と空対空ミサイルを補充できます。

対地ミサイル、対艦ミサイルは在りません』


 ガイアベザル帝国に対抗するには、対地ミサイル、対艦ミサイルが手に入らないのは痛いが、魔導砲が1基でも修理出来るのなら少しは安心だな。

それとVA52は垂直離着陸機だそうだ。

これならいちいち俺がレビテーションで浮かせなくても、格納庫と直結したエレベーターの上からでも直接飛び立つことが出来る。


ガシャンガシャン


 ポイント11の中から機材を手にしたゴーレムがガシャンガシャンと音を立てながら出て来た。

おそらく魔導通信を回復するためのアンテナを修理するつもりだ。

空賊に邪魔されていた作業を漸く開始できるのだろう。


『ドックが使用不能、及び機材不足のため、魔道機関の調整はここではできません。

基幹基地である第13ドックを目指す必要があります』


 キルトタルの電脳から新たな目的地が示された。

だが自衛のため暫くはここで魔導砲の修理を行うことになるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る