第69話 決戦、ポイント11②

『ポイント11手前に木造構造物と滑走路と思われる平坦地を確認。

ワイバーン複数を確認。個体識別、襲撃ワイバーンに該当在り。

空賊のアジトで間違いありません』


 俺はミーナが乗ったFA69をレビテーションで浮かすと、右舷後部ハッチを開けて外へと押し出した。

機体全体が外へと出るも、俺のレビテーションで空中に浮いている。

ちょっと加減がわからず、機体がハッチの高さから少し沈んだことで、コクピットを上から見下ろす感じになった。

するとコクピット内のミーナと視線が合った。


「行くにゃ」


 ミーナは風防越しに大声で言うとFA69のエンジンに点火した。

推進力を得た機体は、轟音と共にあっと言う間に飛び立った。


『大丈夫にゃ。発進成功にゃ』


 モバイル端末からミーナの声がする。

どうやらシステムコンソールが機体からの通信を転送してくれているようだ。

ミーナのFA69は陸上戦艦の周囲を一周するとそのままポイント11の方向に飛んで行った。


『ラスコー級1台、便宜上戦車Aとします。

戦車Aがこちらに向かって動き出しました。

もう1台、便宜上戦車BはFA69に向けて砲塔が動いています』


「ミーナに連絡は?」


『端末にどうぞ』


 どうやらモバイル端末に話しかければミーナに伝わるようにしてくれたようだ。


「ミーナ、戦車の攻撃に気を付けてくれ。

ただし敵対行動があるまでは攻撃は控えるように」


 人工知能だけなら、或いは敵味方識別信号を受信しているなら、向こうからの攻撃はないはずだった。

攻撃してくるのならば、それはラスコー級戦車が空賊の手に落ちていることを意味する。


 人工知能が単独では人に危害を加えられないとはいえ、攻撃を受ければ身を守る行動に移ることが出来る。

最大限の注意を払って人を殺さずに撃退するということは可能なのだ。

なので、こちらが先に攻撃してしまっては、人工知能側の友好的に接しようとしていた場合、その行動を阻害しかねなかった。


 俺が遺跡だと思って陸上戦艦の艦橋に穴をあけてしまった時も、システムコンソールは友好的な態度を崩さなかった。

人工知能には最初から人と敵対する意思がないのだ。

たかが艦橋に穴を開けた程度ならば、敵対行動とみなさなかったのだ。

俺が非武装だったのも功を奏した点だったのだろう。

システムコンソールは俺との接触を望み、俺を管理者として陸上戦艦のコントロールを委ねてくれた。

そこにDNAによる審査があったとはいえ、人工知能は基本的に人には優しいのだ。


 では、この陸上戦艦が戦った敵とは何なのだろう?

管理者が明確に敵と認定し攻撃命令を出した者、或いはもしかすると人ならざる者だったのかもしれない。


「ラスコー級戦車は対空戦闘が可能なのか?」


 俺は陸上戦艦をポイント11に向かわせつつシステムコンソールに訊ねた。


『遠距離であれば主砲が、近距離ならばレーザーで対空戦闘が可能です。

ただし、高速移動する航空機相手には余程の偶然が無ければ当たりはしません』


「つまり戦車は航空機には無力に等しいわけだ」


『はい。戦車は対空戦闘に特化した車両か、対空ミサイルシステム、或いは制空戦闘機とセットで行動するべき兵器です』


 ラスコー級戦車が空賊の手にあるとして、そこまでポイント11を占拠できていないということなのだろうか?

或いはポイント11の機能が破壊されているのか……。 


『戦車B主砲発射。目標FA69。外れます』


 どうやら最初から外れるとわかる攻撃だったようだ。

戦車から発射された光条が一直線に空へと消えていく。

ミーナも回避行動をすることなくスルーしていた。

だが、俺はその主砲の威力に戸惑った。


「ラスコー級戦車と700番台ゴーレムは、同等の戦闘力ではなかったのか?

どう見てもあの主砲はゴーレムのレーザーより強力だが?」


『700番台ゴーレムは、バックウェポンとして光魔法投射ユニットを装備可能です。

それを装備することでラスコー級戦車の主砲と同等となります』


 オプション込みで同等ということか。


「その装備は?」


『現在、我が艦の武器庫には存在していません。

戦車A主砲発砲。目標本艦。魔導障壁展開します』


 陸上戦艦の艦首に巨大な魔法陣が描かれた。

と同時に戦車Aが発砲した主砲の光条が魔法の防壁に当たり散って消えた。


『迎撃成功。戦車A、Bともに交戦規定クリアしました。

未だ敵味方識別信号に反応なし。

攻撃許可願います』


 と言っても陸上戦艦にはラスコー級戦車を攻撃する手段は残っていなかった。

同等の性能を持つはずのゴーレムはオプション装備が無ければ太刀打ちできず、艦の純正搭載兵器はほぼ全てが壊れていた。


 とりあえずあれを使うか。


「蒸気砲で迎撃。弾種徹甲弾」


 俺は硬さで定評のあるアダマンタイトを弾頭にした徹甲弾を撃ち込むことにした。

こんなこともあろうかと思ってコツコツと揃えた弾種だった。


ポンポンポン


 間抜けな破裂音がして徹甲弾が撃ち出された。

その発射音はポン菓子機の音を大げさにしさような感じだった。

急激に膨張した蒸気の圧力が一気に解放された音だ。

水が水蒸気になる時、体積は水の状態から比べて1700倍になる。

アダマンタイトの耐圧室に水魔法で水が生成されると火魔法で急激に温められ蒸気化して膨張する。

その圧力が全て発射エネルギーとなって放出され弾体を加速させるのだ。

それは狭い耐圧室の中で水蒸気爆発が起きているのと同じだった。

魔法により生み出される水蒸気は容器の容量を超えて放出され続ける。

その圧力は鉄で作った耐圧容器を容易に破裂させてしまう力があった。

蒸気砲はその圧力に耐えられるアダマンタイトという特殊金属があったために可能となった兵器なのだ。


ガンガンガン


 徹甲弾が連続で戦車Aの車体に当たった音が響く。。

蒸気砲の照準は艦の魔導レーダーに同調してゴーレムが制御しているため正確だった。

だが、徹甲弾は全て戦車の装甲に弾かれてしまった。


「ああ、駄目か」


 さすがに古代文明の謎合金による装甲は硬く、その装甲は当たっても弾体を逸らすように傾斜していた。


 向こうの攻撃が通らなくても、こちらも向こうを破壊出来ない。

やはり虎の子の対地ミサイルの出番か。

このミサイル、在庫限りで次のあてはなかった。

修理補給基地であるポイント11に所蔵されていれば補充可能なのだが……。


『戦車A発砲。艦を逸れます』


ドシュン! バキバキバキ


 戦車Aが放った光条が農園の大木の一本に当たる。

すると大木の上部が折れ、炎を纏いながら落下した。

どうやらシステムコンソールにとって、飛行甲板に乗っている木は防御対象外だったようだ。


「おい、火災が発生しているぞ。

なんで防御しなかった!」


『防御範囲の設定が更新されていません。

本来ならば我が艦への被害はないはずでした。

ゴーレム部隊に消火を命じました』


 俺はシステムコンソールの融通の利かなさに溜め息をついた。

おそらく艦には当たらないと判断して攻撃をスルーしたのだ。

その結果、火災により艦に被害が出そうになった。


「防御範囲を飛行甲板上の構造物や樹木にも設定しろ。

そしてミーナ、対地ミサイルの発射を許可する」


『了解しました。防御範囲再設定します』


『待ってたにゃ。戦車を撃つにゃ』


 上空を旋回していたミーナの戦闘機が急降下すると、ボディ下部のミサイルベイが開き対地ミサイルを2発発射した。

それぞれのミサイルは戦車AとBに誘導されて向かうと、あっさりと上面装甲を破り撃破した。


 俺はミサイルが勿体ないなどと思わずにさっさと撃てば良かったと後悔した。

交戦規定がクリアされた段階で全力で攻撃するべきだったのだ。

これで脅威は去ったとみなし、俺はポイント11へと陸上戦艦を向かわせた。


 俺は空賊のアジトまで陸上戦艦を進めると、空賊が建てたであろう建物の前に艦を横付けし停止させた。

その間、空賊からの攻撃はなく、ポイント11からの応答も一切無かった。


「ゴーレムに空賊の生き残りを捕縛させろ」


 魔力酔いで倒れている空賊にもう一回識別信号最大出力を浴びせるとゴーレムに捕縛を命じた。

空賊ならば生かす必要はないのだが、もし誘拐されて手伝わされている被害者でもいたら困るからだ。

そして安全が確認されると俺たちは陸上戦艦から降りて大地を踏みしめた。

ミーナも整地されている滑走路に機体を降ろした。


「これからポイント11を調査する」


 俺は空賊のアジトの後ろに口を開けた洞窟へとプチ、リーゼ、ティアと共に侵入するのだった。

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