第55話 宝石採取2

「これから宝石採取兼魚釣りに向かいます。

初めは上空から宝石の集まりそうなポイントを探します。

宝石採りは水を汚し気配で魚が逃げますので、魚釣り組は少し離れた上流で釣りをしてください」


 シャーロからの行程予定と注意に皆が頷いている。

ここは専門家に任せるのが良いからね。


「俺がブルーに乗る。俺の後ろにはアイリーンが乗れ。

ニルはピン子。オレンジにシャーロとミーナ。ミーナが後ろだぞ。

パープルにリーゼとティアだ。

よし、全員ワイバーンに騎乗。ズイオウ川の下流に向かう。

シャーロ、先導しろ」


「「わかりました」」「ん」「「「了解(にゃ)!」」」


 オレンジを先頭にワイバーン達が飛び立つ。

パリテの街から遠ざかる形でズイオウ川を南下していく。

宝石はズイオウ山をズイオウ川が削った土砂の中に含まれていて、それが下流の淵などの淀みに流れ着き、比重の重い宝石などがそこに堆積する。

そういったねらい目の場所をシャーロが探していく。


「ここら辺が良さそうです」


 シャーロが蛇行するズイオウ川の一角を指し示す。

俺達はワイバーンを河原に降ろし、拠点として装甲車をインベントリから出した。

この装甲車にはエアコンがあるので、暑くなったら涼むことが出来るのだ。


 俺、ニル、シャーロはここで宝石採り。ブルー、ピン子も待機だ。

ミーナがオレンジの騎手となりアイリーンを乗せて、リーゼとティアのパープルと共に少し上流へと釣りに出かける。

さあ宝石採りの始まりだ。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 河原の石は2~3cmサイズの小石だった。

これらの小石が流れの緩やかな淵の部分に堆積している。


「まず透明感のある石を探すのが宝石採取の簡単な目安です。

浅い川の中の方が色付きの宝石は目立ちます。

川に流されないように気を付けて採取しましょう」


 シャーロから宝石探しのコツと注意事項が伝えられる。

俺もニルも初めての経験なので、シャーロの言葉に従って探し始める。


「ん! これかも」


 ニルが何か見つけた。

くるぶしぐらいの水深の川に入って小石を探っていたようだ。

ニルが手にしたのは緑がかった透明色の小石だった。


「どれ」


 俺は【鑑定】をかけてみた。


『エメラルドの魔宝石』


「凄いぞニル、エメラルドの魔宝石だってよ」


 俺は驚いた。普通の宝石を探していたら魔宝石を見つけてしまったのだ。

魔宝石とは宝石の生成過程で魔力を含有したものを指す。

魔導具に使われていてとても高価なものだ。

しかもニルが見つけた石は宝石としても綺麗で価値がありそうだ。

ニルは満足げな、少し得意げな表情を浮かべている。


「良かったな。まだまだありそうだぞ」


 エメラルドは花崗岩のマグマの産物だ。

同様の生成過程である水晶とかアクアマリンなんて宝石もあるかもしれない。

と考え事をしているとと、俺がニルのために発動した【鑑定】がとんでもない仕事をした。

河原の石の鑑定結果が目の前にAR表示されているのだ。

無駄な『ただの石』みたいな表示は出ず、宝石のみの鑑定結果がポップアップしている。


「やばい。チートだ……」


 俺は【鑑定】結果のまま歩いては拾い歩いては拾いとしているうちに、ふと自動拾得スキルが使えるかもと思ってしまった。

一瞬でインベントリに入る宝石たち。エメラルド、アクアマリン、ルビー、サファイア、ガーネットなど結晶化する生成過程や場所の違う宝石も拾得出来た。

これは楽しんでいるニルとシャーロに申し訳ないな。

幸いニルとシャーロが探している川の中は鑑定をかけていない。存分に楽しんでほしい。


「ニル、シャーロ、俺はちょっと釣りをしようかと思う。

見えるところにいるから宝石採りは任せる」


 俺は釣れない魚釣りをすることにした。

これ以上俺がチートで宝石を採取して、彼女たちの邪魔をしたくなかったのだ。

釣れなくても良い、ポーズだけのつもりだったのだが……。


「ここら辺は未開地か?」


 ニルとシャーロが川を騒がせているにも関わらず魚が釣れまくる。

魚が人に擦れていないとよく言われるのはこういった事なのだろう。

俺は宝石採りも魚釣りも存分に楽しむことが出来た。


「そろそろ時計が緑になる。街の買い物組を迎えに行ってくる。

ニル、シャーロの護衛を頼むぞ」


 ニルも魔の森でパワーレベリングしてレベルアップ済みだ。

既にオークや熊ぐらいなら一人で倒せる力がある。


「ん。任せて」





 俺は転移でパリテの街の南側に設定した集合場所に転移する。

少し早めに着いた。

しばらく待つと買い物に行っていたターニャとアリマ(変化した騎士とメイド姿)が現れた。

少し経ち、アイとアンも戻って来た。

これは2組が別であると強調するために、わざと時間差を作ったということだろう。

背嚢のデザインまでわざわざ変えたんだから、一緒に帰って来られても困る。


「お待たせしました」


「いや、そんなに待ってないよ。

それに別行動を強調するには仕方ないことだ」


「はい♪」


 アイは自分の配慮を俺が理解していたことがとても嬉しそうだった。


「それじゃ、農園に戻るか? それとも宝石採りに合流する? 穴場だったぞ」


 俺はインベントリから宝石を出して見せる。

それを見て女性陣が目を輝かす。


「宝石採りをしてみたいです!」


 アンが食いつき、全員がうんうんと頷いている。


「よし、それなら採取拠点に転移だ」


 俺達は装甲車の脇に転移した。



「皆を連れて来たよ」



 俺が採取拠点に戻ると、装甲車の中でアイリーン、リーゼ、ティアの三人が涼んでいた。

皆で昼食をとり、一休みした後、ニルが珍しく長文を話した。


「主人、ニルは十分楽しんだ。

先にワイバーンたちと帰る。皆とは転移で帰って」


 そう言うとニルはピン子に乗ってワイバーン達を引き連れて飛んで行った。

なんて良い子なんだ。買い物組が長く楽しめるようにワイバーン移動の時間を省いてあげようという心遣いだ。


「ミーニャはまだ釣りまくるにゃ」


「だったら、ここも魚影が濃いぞ」


「罠を仕掛けてるにゃ。それを回収しに行くにゃ」


「ワイバーンいないぞ?」


「ニャー!! しまったにゃ。走ってくるにゃ!!」


 ミーナが慌てて走って行った。

ワイバーンを連れていくと言われたときにスルーしたのが悪い。


 皆、夕方まで釣りに宝石採取にと楽しんだ。

趣味と実益を兼ねた良い息抜きになった。

暫くしたらここを離れる事になるが、ここはとても良い場所だ。

定住するならここが良いな。

だが、追手があり対抗手段がない現状では、ここに留まるわけにはいかない。

転移ならばいつでも来れる。また来るとしよう。

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