第54話 宝石採取1

 失敗作の時計石をサラーナとシャーロに指輪にしてあげたことで、他の者たちからの指輪クレクレ圧力が凄い。

時計石なら、その場でいくらでも作れるので、それをあげようとすると、時計石には興味が無く他の石が良いとのこと。

指輪の地金もサラーナとシャーロにあげたような金ではなく銀色系が良いらしい。

金なら金貨を潰せば簡単に材料に出来るというのに、困ったものだ。

あ、銀貨があるから銀で作れば良いと思うかもしれないが、銀は空気中の硫化水素と反応して黒くなってしまうので、いまいちなのだ。

となるとプラチナか白金ホワイトゴールド、異世界で有名なミスリル銀かということになる。

プラチナとミスリル銀は、鉱山で採取できるかどうかにかかり、白金は合金なため金に混ぜる白色系金属が必要になる。

これは銀でもいけた気がするが、表面にロジウムという金属でメッキをしないとキレイな白色で光沢感がある白金にならない。

そもそも、ロジウムってどこで採れるんだ?

俺は、それらの希少金属や宝石を採取するためにズイオウ山に入ることにした。

シャーロも宝石に詳しいというので同行することにした。


「シャーロは、宝石に詳しいんだよね?」


「はい。川で宝石探しをするのが趣味です」


「ん? 川?」


 俺はその単語に引っかかりを覚えた。


「はい。川の流れによって、物が溜まりやすい場所があって、そこに宝石たちが集まっているので、それを拾うのです」


「シャーロの宝石採取は山じゃなくて川だったのか!」


「クランド様、山はドワーフの管轄ですよ?

私はエルフなので山や土を掘っての採取はいたしません」


 ああ、そうか。

鉱山を掘って金属や宝石を採取して加工するのは、確かにドワーフの管轄だわ。

それならドワーフの奴隷を購入しに……。

俺がそんな考えを頭にすると、サラーナとアイリーンから視線が突き刺さった。

目が「また女を増やそうとしてるな」と疑っている感じだ。

ある意味正解なので嫁の勘とは恐ろしいものだ。


「ドワーフの女性・・を増やすつもりはないからね?」


 俺は言わなくても良い言い訳を口にしてしまった。

その墓穴を掘り慌てる様子に、サラーナに生暖かい目で見られてしまった。

サラーナのくせに生意気な。


「いや、本当だよ? ドワーフって背が低くて横に広くて女性でも髭が生えているという外観のアレでしょ?」


 俺の認識に嫁達が何を言っているんだという反応をする。


「え? ドワーフの女性は大人でもずっと背が小さくてカワイイ感じですよ?」


 たまらず、シャーロが訂正する。

そっちか! この世界のドワーフ女性は、ちみっこタイプか!

いや、それを欲しがったらロリコンと思われるから更に拙いでしょ。


「主君、ニルが許容範囲の主君ならドワーフ娘も余裕かと」


 俺の表情から察したのかターニャが余計なことを言う。

いつ俺がニルに手を出したことになっている?

俺は鈍感系主人公で通しているんだからな。

ターニャは放牧民の国の近衛騎士だったため、王族は側女を多く抱えて子を沢山作るのが務めだ、と思っているふしがある。

王族は嫁のサラーナとアイリーンなんだがな。

その夫となったから、自動的に俺を王だと勝手に思っているようだ。

それは俺を主君と呼ぶリーゼとティアにも通じるところがある。

そもそも自称嫁がいつのまにか嫁確定しているサラーナとアイリーンにだって、俺は何もしてないんだからね?

俺に彼女たちは嫁という自覚が既についてしまっているけど……。

彼女たちとは何も……あ、風呂で裸は見ました。ごめんなさい。責任とります。

かといってロリコンでは断じてない。

え? アイリーンは16歳だからロリコンだろうって?

残念でした。この世界では15歳で成人です。

しかし、見た目が子供は拙い。拙すぎる。


「ふ、増やさないからね?」


 俺は断腸の思いで誘惑を断ち切った。

ダンキンの奴隷商に相談しに行っていたら危ない所だっただろう。

そういえば、ダンキンは領兵の捜索を受けて大丈夫だったのだろうか?

他の街にも支店があるらしいから、一度覗いて来ないとならないな。

フラグが立った気もするが、スルーして欲しい。


「気を取り直して、今日は川に宝石を採取しに行こうか。

必ず採れるというわけではないから魚釣りもしよう。

行きたいメンバーは?」


 俺は皆に挙手を促す。

魚釣りと聞いて魚大好き釣り大好きのミーナが真っ先に手を挙げる。

続けてアイリーン。彼女も前回の魚釣りが楽しくてハマったようだ。

宝石採りで当然シャーロも手を挙げる。

アイリーンが参加するならとリーゼとティアが護衛として付いてくる。

サラーナは必ず採れるわけではないという話を聞いて不参加。

となると世話役でナランも行かない。

プチも2人の護衛として留守番だ。

アイ、アン、ターニャ、アリマは買い物に出かけるそうだ。

残りはニルか。


「ニルはどうする?」


「ん。宝石採る」


 これで全員の予定が決まった。


「よし、まずは買い物組を街まで転移で連れていく。準備次第集まれ。

ミーナは釣り道具の準備を。アイリーンとシャーロは昼用の軽食を用意。

ニルはブルー、オレンジ、パープルとピン子に鞍を付けてくれ」


 こうして第一回宝石採取遠征が決まったのだった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◆



 パリテの街の南側、街道を少し離れた草原に、俺はアイ、アン、ターニャ、アリマの四人と共に転移して来た。

四人の背には魔法鞄偽装用の大きな背嚢が背負われている。

当然デザインは二種類ある。別々に行動するのに同じ背嚢デザインでは何のための偽装かわからないからね。

時計の指輪は俺、アイ、ターニャが嵌めていて、今は橙(八時)になったぐらいだ。

実はこの時計の指輪は改良型だ。

以前のものは、二時間経って急に色が変わるのでいつ変わったかわからないので不便だという意見が出たのだ。

確かに短針が突然二つ進むような時計は不便だ。

変わる予兆みたいなものがないと変わったことにすら気付かず、いつ変わったのかで悩むことになりそうだ。

そこで失敗作と思われた秒ごとに色が変わる時計石を、そのまま秒針として使うことを思いついた。

となると分ごとを表す長針用の時計石も用意すれば分も表現出来る。

二時間毎もあれなので、短針も一時間ごとに色が変われば時分秒を表す時計になる。

これら三つの時計石を指輪に嵌め込んだ。

三つの色を見比べることで、そろそろ一時間経つなという感覚を得ることが出来るのだ。


「時計の指輪は橙だな? 緑(四時間後)になった頃には迎えに来る。

またこの草原に転移して来るので集合してくれ。

それと変化へんげの魔道具に魔力をフルチャージしておこう」


 俺はターニャとアリマの変化へんげの魔道具に魔力をチャージした。

属性石は含まれる魔力を使い切ると壊れてしまうのだが、魔導の極により【チャージ】の魔法で魔力を充填できることが発覚した。

この魔法の存在を誰も知らなかったので、どうやらロストマジックだったらしい。

これで四時間フルに変化へんげしたまま行動が出来る。

俺の感覚では四時間半ぐらいはいけるはずだ。


「それじゃ、買い物を頼んだよ」


「任せてください」


 代表してアリマが答える。

彼女達はアリマ、ターニャ組とアイ、アン組で別々に買い物に行く。

ターニャとアンが護衛役だ。

ターニャとアリマも王都ギルド発行の本物・・のカードを使った偽造・・身分証明書を持っている。

これはダンキンが用意してアイに託してくれた本物のカードに、俺が偽情報を書き込んだものだ。

奴隷組も変化へんげで奴隷だとはわからなくなっていて、これで主人がいなくても街へは普通に入ることが出来る。


 俺は彼女達を見送ると、転移で農園に戻った。

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