第47話 周辺探査

 陸上戦艦の周囲に散ったニル達ワイバーン偵察隊が帰って来た。

システムコンソールに集約された偵察情報から、大体の現在地がわかった。

ここは魔の森の南に位置する平野の真ん中にそびえる山、その東側の麓に位置する森の中だった。

西に山があり東には西の大河から分岐した川が流れていた。

システムコンソールの古いデータによると、山は過去には島だったようで、その周囲に西の大河により運ばれた堆積物が溜まり、現在は平野にそびえる山となっているようだ。

西の大河も、この山に行方を遮られたため、真南ではなく南西に向かうことになったのだろう。

その名残りが東に分岐した川なのだろう。東の川は西の大河や東の大河に比べるべくもない川幅30mほどの川だった。

だが、川なら釣りが出来る。魚介資源を得るためには、ここは良い立地だったかもしれない。

山は(旧島の情報によると)周囲100kmほどの大きさで、高さは760m。

丁度地球で言う伊豆大島ぐらいの大きさだろうか?

元火山島だから、金属資源や獣や魔物の肉資源、薬草やキノコ類の山の幸も期待できる。

街は南に30kmほどの場所、東の川を渡ったの東岸にあった。

結構栄えている印象だが、それは東岸だけのことで、川を渡る橋が存在しないこともあり西岸は未開の地だった。


「たまたま緊急で停泊した場所にしては、良い場所だな。

食料確保にも向いていて、あまり人も来なそうだし……。

だが、この距離ではまだ北の帝国から逃れたとはいえない。

このまま修理拠点を探しながら南下するべきだな」


 この情報に皆が安堵していた。

過度に危険な場所でもなく、生存にも適している。

一時的な隠れ場所としては好条件だった。


「結構、気に入った場所だが、ここに永く留まるなら戦う覚悟をしなければならない。

数日はここに留まるが、南を目指そうと思う」


 北の帝国に陸上戦艦が何隻あるのかわからないが、今のこの状況では戦う術がなかった。

最低でも魔導砲を修理しない限り、ここに留まるわけにはいかなかった。


「サラーナたちも街には行きたいところだろうが、それは我慢してもらう」


「「「えー」」」

「でも仕方ないかも……」


 買い物ってストレス発散になるんだよな。

それを制限しなければならないとは……。

北の帝国め、迷惑この上ないな。


「明日、アイとアンを連れて街まで行ってみる。

だが、ミンストルからその街までは大体200km、馬車で4日ほどの距離だ。

ワイバーンなら数時間の距離だ。

顔バレしているお前達を連れていくわけにはいかない。

不便をかけるが我慢してくれ」


「あなた様、変装したらどうなのですか?」


 アイリーンが小首を傾げて聞いて来た。

そういや、俺が髪の毛と目の色を変えたのを見たばかりだったな。

同じことが出来るはずだとアイリーンは思ったのだろう。

しかし、これは魔法による整形に近いのだ。

俺の場合は黒から変えただけだから元に戻し易い。

しかし、彼女たちのような金髪や蜂蜜色といった微妙に違う複雑な髪色を変えてしまうと元に戻せそうもない。

元に戻すためには元の正確な色の記憶が必要だからだ。

俺にはそんな記憶を残せそうもない。

彼女達の個性あふれる髪色や目の色を失うわけにはいかない。

となると光学的に変わって見えるという方法しかないな。


「そうか、【変化】とか【隠蔽】の魔法を付与した属性石を創ればどうにかなるかもしれないな。

検討してみる価値はありそうだ」


 俺が強く願ったことで生産の極が働いた。

光と風の属性石でいけるらしい。

光を空気の層で屈折させて他人に違う像を見せるという仕組みらしい。

色も変えるから光魔法も必要なんだな。

これって森の道を隠すのに使った【隠蔽】魔法をまるで光学迷彩みたいに使うということだな。

高度な魔法術式になるので、魔力消費の問題で属性石を小さく出来ない。

常時発動で指輪サイズにすると……。成金おばちゃんみたいな指輪になるな……。

それじゃ逆に目立つ。

ネックレスにして胸元に下げればいいか。だがピンポン玉サイズでギリだな。

彼女たちには肩が凝るのを我慢してもらおう。

魔力量的に制限時間が4時間ぐらいになるしな。


「出来た。不格好だが、このサイズが限界だ。

4時間は使えるはずだから、買い物ぐらいは出来るだろう」


「旦那様、使ってみてもよろしいですか?」


 アリマが実験台を志願した。

買い物に行くのは生活主任メイドのアリマの重要な仕事だからな。

アリマの首に【変化の魔道具】であるネックレスをかける。


「属性石に手を当てて魔力を通せば起動する。解除する時も魔力を流すだけだ。

解除出来るのは魔力を流した本人だけ。あと、時間切れで勝手に解除されるから注意が必要だな」


 アリマが属性石に魔力を流すと、そこには別人がいた。


「おう。上手くいったな」


 アリマの外観は金髪茶目褐色肌から茶髪黒目白肌になっていた。

しかも、微妙に太っている。


「旦那様、太らせるのは必要ですか?」


 自分の姿を鏡で見たアリマが抗議して来た。

テストだから大きく変化させてみただけだ。


「希望があれば修正するぞ。ただし、別人に見えることが必須条件だ。

あまり美人すぎて目立つのも駄目だぞ」


「なら……」


 アリマの注文は茶髪茶目白肌で身長は10cm高く胸を小さくだった。

この世界ではありふれた普通の庶民という感じだ。

木を隠すなら森の中。普通に紛れ込めるということだろう。

 

「よし、これでいいな。

【変化の魔道具】を使えば買い物に行けるが、全員をゾロゾロ連れて行ったら、変装の意味もなくその人数だけでバレる。

付いてくるのは一回二人限定とする。

同じ魔道具を使えば、同一人物という設定に出来るからな」


 こうして買い物要員を連れまわす手段が出来た。


「主君、いつも思っていたことなのだが、一つ良いだろうか?」


 リーゼが言いにくそうに口を開いた。


「なんだ? 遠慮せずに言っていいぞ」


 俺はリーゼに先を促した。

別に俺は他人の意見を受け入れないほど狭い了見はしてないぞ? 


「主君の服装だが、冒険者に見えないと思ってな。

なんと言うか一般市民か農民?」


 いや、俺は一般市民で農民なんですが?


「ある意味間違ってはいないが……」


「しかし、今後は冒険者として動いてもらうことになるのであろう?」


「そうだった。せっかく茶髪茶目にしたんだし、変装だもんな」


 俺は重要なことを失念していた。

冒険者に変装したのに俺自身が冒険者に見えないのだ。


「冒険者装備を作らないとならないな。

【変化の魔道具】も服装はスルーだったし、装備は全員分必要か」


「メイドや冒険者パーティとして役割毎の装備を作るべきかと」


 そうだな。アリマは買うものが生活寄りすぎるから冒険者パーティの一員とはしない方がいいだろう。

冒険に出かけるのに生鮮食品とか所帯じみたものばかり買っていては違和感がありすぎる。


「アリマはメイドのままでいいか」


 他は騎士と斥候と剣士に魔術師といったところか。

俺は魔術師でいいのかな?


「アイが騎士でアンが斥候、変化で付いてくる一人が剣士で、俺が魔術師でいいか」


「ご主人様、わたくしは参謀なので体力的に騎士鎧は無理です。出来れば魔術師の恰好がよいのですが……」


「そういや、そうだったな。

騎士鎧を着て動けるのはターニャ、ミーナ、リーゼ、ティアといったところか。

全員護衛役だし、となると変化メンバーの枠的には残りは剣士だけだな」


 となると困った。斥候はアン固定だし、魔術師もアイにしてしまった。


「つまり俺が剣士の恰好になるか……」


「偽装ですし、本来の職とは違う方が良いかと」


「確かにそうだな」


 こうして街では騎士用【変化の魔道具】とメイド用【変化の魔道具】を利用しパーティーで行動することが決定した。

騎士枠はターニャ、ミーナ、リーゼ、ティア。

メイド枠はアリマ、ナラン、ニル、サラーナ、アイリーン、シャーロだ。

俺は生産の極を使ってインベントリ内で全員の装備を作るのだった。

ミーナは鎧を嫌がったが、変装なので我慢してもらった。

ターニャ、リーゼ、ティアは元々騎士なので専用装備が出来て喜んだ。

アリマも元々メイドなので普段からメイド服を着ている。

なので他のメンバーにメイド服を作ろうとしたのだが……。

羊毛はまだしも、植物を材料に布から服まで作れるとは思ってもみなかった。

たしかに麻も綿も植物だったな。

材料さえあれば服も作れることが判明したのは大きな進歩だった。

これで洋品店は用無しになったな。

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