第46話 参謀?隠密?

 ダンキンのところから奴隷に偽装した連絡員スパイ?を二人引き受けてしまった。

隷属契約を結んだ記憶はないが、俺に忠誠を尽くしてくれるそうだ。


「うわーん。また増やした!」


 俺の嫁を自称しているサラーナがまた泣いた。


「待て、サラーナ。この人たちはそんなんじゃないから」


 俺の説得ではどうしようもなかった。

女性を2人連れて来たという事実が問題なのだから。


「サラーナ様、今回は主君の一存ではありません。仕方なかったのです」


 ターニャも説得してくれるが説得力に欠ける。


「話せば長くなるが、簡単に言うとミンストル城塞都市は出入り禁止になった。

しかし生活物資は買わなければならない。顔バレしてるおまえ達も同様に出禁だ。

みんな美人だから目立つんだよ」


 サラーナが”美人”という単語に食いついた。


「美人?」


「ああ、俺の関係者だってすぐわかるだろ? だからの二人に行ってもらうんだよ」


「わらわが美人だからなのね?」


「ああ。そうだ。それにこの2人はタダで連れて来た。

つまり、お前より安い!」


「!」


 初めて自分より安い奴隷が来たと知り、サラーナの機嫌が直った。

案外チョロいぞこいつ。


 さあ、仕切り直しだ。


「とりあえず。自己紹介してもらえるかな?」


 安いなどと失礼なことを言ったにもかかわらず、2人は人間が出来ているようで、全く気にする様子は無く自己紹介を始めた。


「はい。私はアイです。JOBは参謀。

情報分析、作戦立案でご主人様のサポートをいたします」


「僕はアンです。JOBは隠密。

情報収集でご主人様をサポートします」


 参謀? 隠密? ダンキンめ、俺に何をさせようというんだ。

ちなみに身体的特徴はこんな感じ。


アイ:人 21歳 黒色のセミロング 茶眼 白肌 170cm Cカップ

アン:人 17歳 焦げ茶色のショート 黒眼 白肌 158cm Cカップ


「二人は顔バレしていないので、今後ミンストル城塞都市での買い出しは彼女達にしてもらう」


 さて、これで当分、自給自足生活に入っても支障はないはず。

これからやることは……。

俺が思案していると、早速アイが作戦立案してくれた。


「ご主人様、今後の予定ですが、まずは偵察を出して周辺探査をするべきです。

周囲に街がないか、脅威はないかなど予め把握する必要があります」


「おお!」


 さすが参謀。状況把握も早いし的確な作戦立案をしてくれる。

今夜にも動き出す仮初の停泊場所だとはいえ、周囲を偵察しないわけにはいかない。

いや、いっそこの場所が安全だったら、数日は停泊していても良いのではないだろうか?


「そうだな。偵察はニル、ターニャ、リーゼ、ティアにワイバーンで飛んでもらおう。

全員にモバイル端末を支給する。それをカメラにして周辺探査を行う」


「ん」「「「お任せを」」」


 四人には直ぐに飛んでもらった。

周辺情報はシステムコンソールに収集分析してもらって地図に起こすまでをやってもらう。


「次にご主人様、その黒に近い髪色と濃い茶黒の目は偽装するべきです。

その身体的な特徴で探される可能性があります。

その髪色は魔法で変えているそうですが、もっと違う色にするべきです。

それと目の色も変えられると良いでしょう」


 それなら魔法でなんとかなるのは実験済みだ。

とりあえず、この世界で多い茶髪と茶目にしておこう。

木を隠すなら森の中ともいうし、現地人に紛れ込むのが一番だろう。

俺は魔法で髪色と目の色を茶色に変えた。


「これでどうだ?」


「完璧です。

次に別人のギルドカードを取得しチャージしてある財産を移すべきです」


「それはどうして?」


「ご主人様の名前が把握されているということは、何らかの理由をつけて財産の引き出しを妨害される可能性があります。

それと、ギルドカードを使えば使った場所が自動的に王国側に伝わります。

残念なことに、ミンストル城塞都市ではギルドがご主人様の情報を領主に渡していました」


「そんなことが……。確かに対策が必要だな」


「これを」


 アイがギルドカードを手渡してきた。

これは……まさか。


正規・・のギルドカードですが、この二重発行をギルドは把握しておりません。

当然本物・・として使用できます」


 こうやってチャージが移せますとアイが俺のカードで実演してくれた。

買い物の時の取引と同じ手法だ。


「カードは偽装で2枚間に入れます。

ギルドが履歴を辿ろうとしても、所有者死亡で直ぐに記録が抹消され経路を辿れないようにしています」


 こうして俺は別人のギルドカードを手に入れた。

名前はクロードか。

サラーナたちが元の名前を言ってしまっても、聞き違いで誤魔化せるという選択だな。



「次に戦力の増強。この陸上戦艦を見る限り主兵装が破損しています。

それを修理するのか、代わりの武器を装備するのかの判断が必要です」


「武器か……」


『システムコンソール、この艦には他に武器はないのか?』


 俺はモバイル端末を通してシステムコンソールに訊ねた。

モバイル端末には無線通話のような機能があるのだ。

無線ではなく魔法による魔導通信らしいが、俺に良くわからない。


『ありますが、使用不能です。修理が必要です』


 修理がいるのか。


『先日使った魔導砲塔は第二だったが、第一はどうなっている』


『第一は戦闘により大破、使用不能です』


 だめか。大破となると第二より修復は難しそうだな。


『第二はどうなっている』


『第二は安定回路が破損、魔力オーバーロードで爆発、魔力ストレージとの伝送路が全損です』


 どうやら本体が無事な第二の方が簡単に修理出来そうだ。


『修理部品はないのか?』


『我が艦にはありません。最寄りの修理ポイントへ向かってください』


 そんな場所があるのか。

そういや、俺たちが向かっている先もそんな場所じゃなかったか?


『そこに部品があるんだな?』


『わかりません。何分、年月が経ち過ぎておりますので』


 修理ポイントに行っても修理できるわけではないのか。

つまり修理出来るまで遺跡を探して渡り歩く必要があると。

それも困ったな。

そうだ。あれは使えないのか?


『鹵獲した敵陸上戦艦の部品は使えないか?』


『あの艦――ニムルド――には魔導砲は搭載されていませんでした。

壊れたため丸ごと撤去されたのだと思われます』


 何か部品として使えないかとインベントリに入れて持ってきたけど使えないのか。

そうだ。部品といえば……。


『第一砲塔の部品を第二砲塔に流用出来ないか?』


『伝送路はいけるかもしれませんが、安定回路は不可能です。

ゴーレムに指示しました。伝送路の修理を開始します』


 お、少しは進展したか。

となると、現段階で出来うる防衛兵器を用意するしかないな。

そうだ。あれを移植しよう。


『システムコンソール、敵艦の火薬兵器を移植可能か?』


『可能です。ですが、発射には人手が必要です。

さらに火薬と砲弾が補充不能ですので実用的ではないと思われます』


 人手不足か。たしかにあれは先込め式の大砲だったな。

人の手で火薬と砲弾を込めないと撃てないという代物か。

ゴーレムにやらす? いや、それなら錬金術で魔道具を作った方が簡単かも。

装填用の腕だけゴーレムとか。

砲弾は錬金術で作れるな。だが、火薬はどうやって作ればいいんだ?

黒色火薬で良いとしても材料が手元に無いな。


『よし、諸々の問題は俺が引き受ける。

システムコンソールは大砲の設置場所を検討してくれ』


『了解しました』


 俺は通信を切って皆に今後の対応を指示した。


「皆、俺はこれからこの農園の防衛兵器を揃えることをメインに行う。

農園仕事で俺にしかできないことは当然俺がやる。

その他の農園の仕事と牧場、警備のことは皆に任せる。頼んだぞ」


「「「「はい」」」」


 皆が張り切って仕事に散る。

俺はこの陸上戦艦の防衛体制を整えるとしよう。

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